昨日、10月6日は約半年ぶりに中野MOONSTEPに足を運んだ。"THE NORTHERN TAKEOVER"と題されたイベントで、タイトル通り札幌をベースに活動するCOSMOS、KKGという北国からやって来た2バンドに加えて横浜のFIGHT IT OUT、A.O.Wに大阪からはMASTERPEACEを迎えGRIND SHAFT、RAT CHILD、AND BELIVE、THE FANGSが出演した。開演時間には間に合わかったので最初の2バンドは観る事ができなかったのだが多種多様、多彩なアプローチのバンドばかりのラインナップで固めた素晴らしい企画イベントだった。
入場すると札幌のKKGのライヴが始まっていたが彼らを見るのは勿論初めてだった。所謂ジャパコア風の畳みかけるようなドラマチックな楽曲展開もあり、メタリックなクラストテイストのナンバーもありと、シンプルな初期英国パンク~ハードコアを発展させた様々なスタイルを消化して彼ら独自のスタイルを確立しているようだ。
続いて登場した横浜のA.O.W.を観るのは3度目だったが見る度にバンドの個性が鮮明になり、より際立っていくように感じる。イントロでいきなりギターがノイジーでメランコリックなフレーズを奏で、そこから一気にグラインド~ファストコア・パートやパワーバイオレンス系のハイテンション・サウンドになだれ込む。静と動、緩急自在に使い分けてオーディエンスの聴覚を刺激し続ける。ライヴ中のメンバーのパフォーマンスも観客を巻き込んで会場全体が一体となる所謂"NOWADAYS"横浜スタイル。去る8月31日、A.O.W.主催で横浜のB.B.STREETで定期的に開催されているイベント『流転』で観て以来のライヴだったが、どんなスペースでも彼らのライヴは自分達独自の音空間を構築してしまう。この日はベースの音圧が凄まじく、まさにドライヴィング・ベース・ランニング!特筆すべきは耳をつんざくような爆音の合間にギタリストが紡ぎ出すメランコリックで切なげなフレージングで、ありがちなエモ・アプローチではなく妙に耳に残る。彼らのファーストアルバム"Counter Culture"もファストコア、パワーバイオレンス等、歴代の激音HCのエッセンスが詰まったハイテンション・サウンドが聴ける秀作だったがライヴを観る限り、ここに来てまたサウンド面で新境地を開拓しつつあるようだ。
この日トリ前のステージを務めたFIGHT IT OUTはいつも通りのパワフルかつバイオレントなパフォーマンス。ステージとフロア分け隔てなく観客と一緒にモッシュダンスするのはA.O.W.と共に「今の」横浜ハードコア・スタイルなのだろう。ここ半年以上、彼らのライヴを何度か体験したが、ついついVoのYang氏のパフォーマンスに目を奪われがちだがライヴに於けるサウンド・プロダクションの向上は目を見張るものがある。同じレパートリーでも例えばグラインドテイストを利かせたり、またラフなファストコア風だったりとライヴ毎に楽曲の様相が一変する。バッキングメンバーも各パートのプレイヤーがライヴの度に何らかのテーマを持って本番に臨んでいるのかも知れない。
FIGHT IT OUTのライヴ・スケジュールを見て気が付いたのだが、彼らを初めとする昨今のアンダーグラウンド・シーンのバンドは僕が音楽業界に足を踏み入れた1980年代のバンドとは明らかに違ったスタンスで活動している。試みに彼らのHP等でそのライヴ・アーカイブをチェックしてみるとほぼ毎週末はライヴをやっている。それも近場の関東圏だけでなく東北から関西、九州まで遠隔地も隈なくフォローしているのに驚かされる。一昔前はメジャーでもアンダーグラウンドでもバンドはライヴ会場一つ取っても、どのクラスのキャパシティーの会場でライヴをやるかがそのバンドの人気や勢いを推し量るバロメーターとなっていた。まずはワンマンで200人キャパのライヴハウスを満員にすると次は500人キャパのスペース、そして1,000人キャパのホール‥という具合に、新宿ロフト~渋谷オンエア・ウエスト~オンエア・イースト(赤坂BLITZ)のようにより大きなキャパシティーのスペースでライヴをやれるようにステップアップしていくのがバンド活動の目標ともなっていた。その為にはバンドも意図的にライヴの間隔を空け、都内は3ヶ月~半年に一度しかやらない等、ある種の戦略?的な思惑ありきでライヴ・スケジュールを組んでいた。そして最終的に目指す所は日本武道館であったり東京ドームであったりする訳だが、これらは当時、音楽産業を牛耳っていた大手レコード会社やプロダクション、そしてイベンターが傘下のアーティストやバンドに強いていたものだ。地方都市でのライヴもこれに準ずるように各地方のイベンターがライヴハウスからホールへとバンドの集客力に応じたライヴスペースをチョイスしてブッキングしていた。極端な場合は新作のプロモーションの為にしか全国ツアーを行わない、というようなスタンスで活動していたバンドもあった(今でも無いことは無い)。全国ツアーにしてもライヴハウスツアーからホールツアーへとグレードアップしていくようにプロダクションやイベンターが協力体制を取って様々な媒体にプロモーションしていたものだ。これが所謂パッケージ・ツアーというもので全国どの会場でも決まりきったセットメニューをこなし、東京・名古屋・大阪等の大都市の会場ではちょっとだけセットメニューを変える。こうしたルーティン・ワークの活動を続けているとやはりバンドは行き詰まる。このような業界の慣習が通用していたのは(極論を言えば)ライヴはCD等パッケージソフトを売る為のプロモーションの一環であり、パッケージを売る為にライヴをこなすという概念が一般的だったからだ。もっと言えばレコード会社がバンドの所属するプロダクションに一定のアドバンス(前渡し金)を支払い、プロダクション側はバンド単体のライヴで収益が上がるまではそれを原資にして(メンバーの給料を含む)バンドの運営費を賄い、レコード会社はそうした先行投資を後々バンドが上げたCD等パッケージソフトの原盤印税で相殺・回収するというシステムを取っていた。今は業界全体がCD等のパッケージソフトの売上不振でレコード会社がパワーダウンし、プロダクションやイベンターもレコード会社頼みでない独自のスタンスで活動していくようになり、こうした旧弊は一掃されたようだ。話を戻すと以前のようなレコード会社にイニシアチブを握られていた音楽業界ではFIGHT IT OUTのようなスタンスで毎週末にライヴをやる事は考えられなかった。しかし冷静に考えてみるとバンドのクリエイティブ面を尊重すればライヴは数多くこなした方が良いし、ライヴをやるスペースもキャパシティー云々関係なく場所を選ばずにやっていった方がバンドの経験値も高まる。また同じライヴなのに高額な料金設定の大会場ばかりのホールツアーのチケットを買うよりも、安価な料金でライヴを体験できるのは観客サイドに立てば何より有り難い。因みにFIGHT IT OUTは去る5月には新木場STUDIO COASTで開催された"MAD Ollie 2012"や晴海での"PUNKAFOOLIC BAYSIDE CRASH 2012"等の大きな野外イベントから、この日のMOONSTEPでの企画のようなライヴハウスまでキャパシティーやコンセプトまでそれこそ千差万別な場所で自由なライヴ活動をしている。しかもどんな場所でも100%全力でパフォーマンス&プレイしている。MOONSTEPは比較的小さなライヴスペースだったがミキシングも良かったせいか観る方としては極上のライヴサウンドを堪能できた。こういう話題で思い出すのはFIGHT IT OUTとも頻繁にライヴをやっている東京のハードコア・バンド、LOYAL TO THE GRAVEのVo、コバ氏のWeb版『CDジャーナル』誌上のインタビュー記事に於ける以下の発言だ。

小林 「個人的にライヴでシンパシー感じるのはTERRORですね。音楽性は全然違うけど。間口の広さという点では、USツアー時のラインナップが象徴的かもしれないですね。WINDS OF PLAGUEやAS BLOOD RUNS BLACK、UPON A BURNING BODYなどと大きなフェスに出たかと思えば、HAMMERFISTとかXIBALBAみたいなバンドとのスタジオ・ライヴがあったり、他の日はMURDER DEATH KILL、BETRAYALなんかともやったり。色んなところに入って行けるのが俺たちの音楽性っていうか、フレンドシップの幅広さ、強みで。それは良い事だと思ってます」

[インタビュー]“前しか向いてない” TYO重鎮LOYAL TO THE GRAVE、待望のニュー・アルバムをリリース(2012/05/30掲載)

コバ氏の発言にある米国のハードコア・バンド、TERRORは西海岸をベースに活動するD,I,Y,精神を貫くアンダーグラウンド・シーンの重鎮バンドだ。レコード・ディールこそ大手のセンチュリー・メディアに委ねているが、バンドの活動費の大半はライヴでの収益とマーチの売り上げにより賄っているようだ。世界中をツアーして回り、キャパシティーを問わず大小様々なスペースでライヴを敢行し、またツアーで行く先々のローカルバンドや若手のバンドと積極的に共演して彼の地のバンドにも新たなチャンスを与えている。コバ氏の言にあるようにこれこそがアンダーグラウンド・シーンのバンドのあるべき姿~理想的な活動スタンスかも知れなし、このコバ氏の一連の発言にレコード会社主導型の音楽シーンが事実上崩壊した後、将来的なバンド活動のあり方~未来像のヒントがあるような気がする。彼らがアーティストとしてクリエイティブ面でも経済面でもより豊かになる為にも。
そう言えばコバ氏は8月にLOYAL TO THE GRAVEが主催して世界各地からバンドを呼んで開催した"BLOODAXE FESTIVAL"の時にMCで「今日観たバンドの今後の活動をサポートする為にも是非、マーチやグッズを購入して下さい」と訴えていたが、観客に向けて積極的にこうしたアナウンスをする事により皆の意識も変わっていくだろう。
閑話休題。
イベントの話に戻るとトリを締めた札幌のCOSMOSは、これまたハイテンションなパフォーマンスで1980~90年代初頭の米国のアンフェタミン・レプタイル・レーベルやタッチ&ゴー・レーベルのバンドをスピードアップさせたかのようなキレの良いノイジーなハードコアサウンドが心地好かった。KKG同様、言葉数の多いVoが特徴のジャパコア的な要素もあり、ユニークな個性を持ったバンドを多数輩出してきた札幌のシーン育ちの面目躍如といった感じだった。
他の出演陣も各々個性的で、どのバンドもまた観てみたくなるような魅力に溢れたブッキングだった。

A.O.W - MAKING OF THE RECORD "counter culture"

A.O.W LIVE 2011.11.12 YOKOHAMA BB STREET

FIGHT IT OUT@PUNKAFOOLIC! BAYSIDE CRASH 2012 - 07.15.12

COSMOS