自分史(24)の続きって事で、スキンヘッドミュージック(バンド)についてちょっと書いてみたい。
厳密にスキンヘッドミュージックのルーツを遡ると1960年代後半のスキンヘッドレゲエやスカにまで辿り着くのも可能だが、そこまで遡るとここで取り上げるテーマとはあまりに乖離してしまうので、1970年代に英国で勃興したパンクムーブメント以降に活躍したスキンヘッドバンドから話を始める。パンクムーブメント真っ最中にデビューしたSHAM69が、サッカーのプレミアリーグのサポーターが歌う応援歌風に観客と合唱できるようなポップな曲調(その源流はグラムロックバンドのSLADEの楽曲にある)のレパートリーで人気を博し、その後そうした作風を引き継いだ一群のバンドが「Oi」パンク(ミュージック)と呼ばれるようになった事がスキンヘッドミュージックの発祥らしい。一群のバンドとはBUSINESS、COCKNEY REJECTS、ANGELIC UPSTARTSといった面々だが、その中で1976年に結成されたIan Stuart率いるSKREWDRIVERが、ここで取り上げるスキンヘッドバンドの元祖と言える。因みに前出のSHAM69がスキンヘッズのファンに支持される以前にIan Stuartはルックスはスキンヘッドだったという。
SKREWDRIVERは"All Screwed Up"で1977年にアルバム・デビューし(Sham69より早い)、Ian Stuartが亡くなる1993年迄に9枚のオリジナルアルバムとシングル、ライヴ作品を多数リリースしている。ただ、オンタイムでは日本に彼らの情報は殆ど入って来なかった。それは彼らがナショナルフロントやBNPといった英国の極右勢力と関係が深く、「ナチバンド」としてメディアに忌み嫌われ、日本の音楽誌もそれに倣ってその存在すらタブーとなっていたからだ。"Rock Against Communism"(略してRAC)という共産主義に反旗を翻す音楽ムーブメントを組織化し、後進のバンドをサポートするようになるが、こうした活動から「ナチバンド」のレッテルにより英国メディアからは抹殺されてしまう。ただ様々な資料によるとIanは英国の愛国者であり、決してドイツの愛国者(ナチズム=ナチスドイツの全面的な礼賛者)ではないと発言したりしている。Ianの様々な発言については単なる放言や悪意あるメディアの捏造もあり、この辺りの真相は今後検証されて然るべきだと思う。「ナチバンド」「ネオナチ」「ホワイトパワー」「レイシスト」等、彼らに冠せられた、識者が眉を潜めるような呼称の数々‥ただ、これは言葉のイメージの問題でもあり、こうした単語を聞いただけで条件反射的に悪徳の権化のような印象を抱いてしまうのもある種の思考停止ではなかろうか?またよく問題にされるのがこうしたRACバンド(以後、彼らとその系譜にあるバンドをこの呼称で括る)やそのファンがコンサートで披露する「ジークハイル」ポーズであるが、これもそのポーズを取る行為そのものが他者に何か危害を加えたり、脅威を与えるものではない(「ジークハイル」は「勝利万歳」の意)。「ジークハイル」ポーズは勿論、ナチス的敬礼の事を指し、ナチス・ドイツ(第三帝国)統治下のドイツで総統アドルフ・ヒトラーへの忠誠の証としての行為であった。そしてそれは第三帝国崩壊(第二次世界大戦)後、民主化された新生ドイツや周辺のヨーロッパ諸国ではナチズム礼賛のシンボリックな行為だとして処罰の対象になったり、激しく糾弾された。RACバンドやその支持者の多くがこのポーズを取るからと言って必ずしも皆が皆、ナチスドイツやヒトラー個人を崇拝しているという訳でもないようだ。特に昨今のRACバンドは、例えばメタルバンドが親指と小指を立てるデビルサインを決めポーズに取るのと同じような感覚で、軽い意味合いで「ジークハイル」ポーズを取る事もあるようで、個別のケース毎に判断しなければならない。この辺りの事情についてはまだリサーチ途中なので全容は判然としない。
SKREWDRIVERはデビュー当時、ナショナルフロント等、ある種の国粋主義や人種差別主義を標榜する団体を支持し、連携していたのは事実である。ただ、これも盲目的にそうした理念や活動ポリシーに賛意を表明していた訳ではなく、その当時(1970年代後半)の英国は空前絶後の不況に見舞われ、失業率も増加し、失業手当てでの生活を余儀なくされ夢も希望も潰えた若者が巷に溢れていた(こうした社会情勢がパンクムーブメント勃発の引き金ともなった)。彼ら若者の一部はこうした状況の元凶を旧英国植民地であるジャマイカやインド系移民が仕事を奪っているとし、移民排斥にも積極的な姿勢を見せていたナショナルフロントやBNP等の極右団体にリクルートされた。サッカーの本場である英国のプレミアリーグで問題を起こすフーリガンもこうした組織のリクルート対象であった。移民排斥運動と極右勢力、またスキンヘッドルックの不満分子‥これらを結び付けた根底には経済問題があり、ひいては時の英国政府の政策にも起因している。僕は何もこうした極右勢力や人種差別主義団体を擁護するつもりはさらさらない。ただ、(悪名高いナチスドイツの所業にも言えるが)全ての物事には原因があり、その結果起こった出来事、事象を何の検証もされないまま徒に糾弾するのを良しとしないだけだ。
ともあれSKREWDRIVERはいくらメディアに排斥されようが一定数の若者の熱烈な支持を受け、勢力的にライヴ活動をし、"Rock Against Communism"を主導するリーダーバンドとして影響力を強めていった。Ian亡き後(1993年9月に自動車事故により他界)も彼へのトリビュートレコードが数多制作され、トリビュートコンサートも世界各地で開催されている。SKREWDRIVERの根強い人気の秘密は、まず第一にIanの卓越したソングライティングセンスにある。とにかく曲がカッコいい。SKREWDRIVER自体は嫌いだが彼らの曲は好きだという輩も多い。またそのリリックも全ての曲が排他的で人種差別的ニュアンスを帯びた過激な国粋主義者のそれではなく(そうした曲も確かに一部あるが)、普段は日々実直に働いている英国のごく一般的な労働者階級の嘆きや率直な心情吐露を題材にとったものが多い。が、逆にそんな労働者階級の一般ピープルが一部の移民労働者や英国政府の政策により福祉の恩恵に与る移民に憎悪を抱いてしまう状況こそ問題視されなければならない(こうした問題は現在も解決していない)。
SKREWDRIVERもといIan Stuartが蒔いた"Rock Against Communism"という「反共産主義ロック」のムーブメントはその後ヨーロッパでは英国は勿論、西ヨーロッパから旧ソビエト連邦崩壊後は東欧、ロシアまで広がり、依然としてアンダーグラウンドな活動レベルに甘んじながら着実に指示者を増やし、今世紀に入ってからはその勢威は増している。英国ではNO REMORSE、BRUTAL ATTAK、フランスではLEGION 88、ドイツではLANDSER等のバンドが大御所として君臨し、彼らの多くは現在も後進のバンドを積極的にサポートしている。またこうした動きは1980年代後半以降は米国や南米、日本を含むアジア諸国にも広がり、それらのバンド群は各国ごとに民族性や国民性を前面に押し出した郷土色豊かな音楽性、詩世界がその表現に彩りを添えている。また日本のバンドに関してはその限りではないが、こうしたRACバンド(他にもスキンズ、Oi等様々な呼称で呼ばれているがその定義は曖昧である)のレパートリーに各国共、その当該国が抱える移民問題をテーマにした楽曲が少なからずある。
ただ以前は日本でも音楽メディアではRACバンド=反共産主義というだけで極右勢力の危険な集団という烙印を押され、その実態について語る事すらタブーとなっていたのだが、1970年代後半に英国で始まったRIO(Rock In Opposion)という、所謂反資本主義、反体制のロックを標榜するムーブメントについては(中にはかなり過激な極左思想を持ったアーティストもいた)日本の音楽メディアも好意的に取り上げていた。これは音楽だけでなく娯楽文化全般に言える事であるが、かつては政治的に左翼系のスタンスを取るムーブメントには(例えそれが危険な要素を持った極左のものでも)メディアは概ね好意的であり、逆にRACのような極右の思想的要素のあるものは極力排除してしまう傾向があった。この原因は簡単に言えはかつて娯楽文化を牛耳っていたメディア関係者(日本だけでなく欧米も同様)にリベラル派(一部極左にもシンパシーを抱く)が大勢を占めていた事によるものだ。最近はメディア関係者の世代交代もあって(去る7月に元ミュージックマガジン編集長の中村とうよう氏が失意のうちに自死を遂げた)、こうした傾向に徐々に変化が起きつつあるようだ。
最後に随分とブログ更新の間隔が空いてしまったが、実は先月ある方から僕宛てにメッセージが届けられ、その内容が僕自身、一考の余地があるものだったので、その対応に時間を要していたからだ。
以下にそのメッセージを全文掲載する。

生きてたか戸塚ちゃん!

メモ本文
なんと偶然にも貴君のブログを見つけてしまった^^

ネットは恐ろしい・・・・・

世の中を浅く斜にしか見れなかった30年前の私は

きみには「どんくさいやっちゃのー・・・」という印象ぐらいしかなかったが

こうしてブログを読んでみると 当時のきみの地道な努力・苦労が伝わってきた

きみの文章(小さすぎて読みづらいぞ)からは 確かに時代の匂いが嗅ぎ取れる

楽しかった ありがとう

鮒五郎

このメッセージはダミーのアカウントから送信されてきたもので、その後こちらから返信したものの再度連絡を取ることは叶わなかった。文面から察するに恐らくFUNAのベーシストだった田村氏からのものと推察する。
このメッセージを読んでふと思ったのは僕が書いてきた「自分史」、これ迄のところ1983年1月まで書き綴ってきたのだが、この後は町田氏や田村氏とかなり濃い付き合いをする事になる。そこでこのお二方やその周辺の人間模様を記述するにあたって、特にプライベートな部分に関しては取り上げる話題を慎重に選ばなければと思った次第である。これまで書いてきたものに関しては恐らく当事者の方々の現在の状況に鑑みて何ら問題が派生するものではないと思われるのだが、この後起こった出来事については当事者各々の現況に差し障りのあるものが出て来る可能性がある(一例を挙げれば以前取り上げたTHE FOOLSの伊藤耕氏はある刑事事件により現在服役中であったりする)。そこで何か問題が生じる事のなきよう、より慎重に内容を精査中なので1983年1月以降の「自分史」で今暫くお時間を頂きたい。
ではまた。

参考リンク

Skrewdriver Documentary Part 1
※RACバンドの創始者Skrewdriver及びそのリーダーであるIan Stuartのドキュメンタリー。Tumbling Diceというローリングストーンズやザ・フーのカバーバンドをやっていたIanが1975年にSkrewdriverと改名、パンクロックの波に乗ってレコードもリリースし、その後直ぐに出で立ちもスキンヘッドに変え1980年代前半にナショナルフロントのスポークスマン的立場のバンドへと変貌していく過程を追っている。
Skrewdriver Documentary Part 2
※ここでは1970年代後半から英国を襲った空前の不況と共に激化した数々の暴動に代表される人種間対立-移民労働者が英国人労働者の仕事を奪ったという観点から-がナショナルフロント等白人至上主義団体の勢力拡大に一役買う事になった経緯や、愛国主義者と人種差別主義者との差異、境界線について等、非常にデリケートな問題に触れている。
Skrewdriver Documentary Part 3
※ドイツのレコード会社「ROCK-O-RAMA」から精力的に作品をリリースした1980年代後半、またIanや彼の同士であるスキンズが巻き込まれた幾つかのトラブルを契機にSkrewdriverではなくRough Jutice名義で作品をリリースした経緯など。
Skrewdriver Documentary Part 4
※1992年9月12日に愛国主義者グループのコネクションである"Blood and Honor"が主催したイベントにて対立する団体との間で起きた暴力事件(通称"The Battle of Waterloo")や度重なる警察当局との対立により彼らRACバンドが「反権力」的姿勢を鮮明に打ち出すようになった背景についてなど。
Skrewdriver Documentary Part 5
※1990年代に入ると英国での移民労働者への福祉政策により、一部の英国人労働者の失業者との冨の均衡が崩れてしまった結果、"RIGHTS FOR WHITES"なるプラカードを立てデモまで行われた(この問題に関しては日本も他人事ではなくなるかも知れない)。Ianが1993年9月23日に起こした自動車事故で他界する過程をレポート。
No Remorse - Farewell Ian Stuart (live)
※RACバンドが多数参加して盛大に開催されたIan Stuartの追悼コンサートで熱唱するNo RemorseのPaul London。
Skrewdriver - The Road To Valhalla
※1976年結成。上記ドキュメンタリー参照。
No Remorse - White Country
※1986年結成の英国のRACバンドNo Remorse。シンガーであるPaul Londonは徹底した愛国主義者でナチズムへの傾倒もオープンに言明している。
Brutal Attack - Carry me home
※Ken McLellanにより1980年に英国で結成。RACバンドとしては最も長い活動歴を持つ。
Lgion 88: mohamed mouche merde
※1980年に結成されたフランスのRACバンド。因みにバンド名にある"88"はアルファベットの8番目の文字であるHに因んで「88=HH」という隠語ともなっている。何の隠語であるか?Dig It!
Landser-Sturmfuhrer
※"Die Vandalen - Ariogermanische Kampgemeinschaft(ヴァンダル-アーリア系ドイツ人民戦線)"というネオナチグループのメンバーにより1982年に結成されたドイツのRACバンド。彼らのレコードやCDはドイツ国内では正規な販売・流通はおろか業者に拒否され製造する事すら出来なかった。
福祉手当狙いのルーマニア移民、ビッグイシューを販売
※今年3月8日配信のニュースから、現在の英国政府の移民に対する福祉政策の問題を浮き彫りにした記事。ホームレスの自立支援を幇助する目的で発刊された『ビッグイシュー』だが、英国での福祉手当受給目当てに『ビッグイシュー』の販売員になるルーマニアからの移民が後を絶たないという。日本でも最近、海外から移住してきた外国人の生活保護手当の不正受給が問題になっている。