これまで「自分史」というテーマで二十数回も過去を振り返ってみたが、やはり音楽関係の話題ばかりで僕の半生は音楽(所謂ロックから派生した同時代音楽)と共にあったと改めて実感した。
過去、それも約30年前の自分の行動、思考を顧みて、ではその頃の出来事が現在の自分とどう繋がっているのか?と改めて自問してみたが、まだ明確な答は出ていない。
だが最近、とあるライヴイベントを観て、ふと「あの頃の自分」の情動なり感情を思い出した。それは先月末、ある事情で生まれ故郷の静岡県浜松市に帰省する事になり、そのついでに愛知県名古屋市のライヴハウスで開催されたイベントに最近気になっているVELVET WORMという女性ハードコアバンドが出演するというので、そこに足を運んだ時の事だ。VELVET WORMというのは元々1990年代に活動していたTHE GAIAという4人組女性ハードコアバンドのメンバーが結成したPLASTIC NINEというバンドが母体となって生まれた。簡単に説明すると1998年にTHE GAIAが解散した後、ボーカルのGANA、ベースのJHAPPYがギターとベースを入れて(その過程でベースのJHAPPYはドラムに転向)PLATIC NINEは結成されたが、昨年ボーカルのGANAが脱退、残されたメンバーで新たにVELVET WORMを名乗りギタリストのJUNKがボーカル兼任の3ピースバンドとして活動していく事になった。THE GAIAは1990年代に米国ツアーを敢行したり、米国のインディペンデント・レーベルから多数の作品をリリースしたりと、日本国内よりもむしろ海外での評価が高かった。本格的に評価され出したのは、以前紹介した京都のザ・コンチネンタル・キッズや80年代に活躍したメタルコア・バンドのグールのボーカル、MASAMI氏のソロ、東京ハードコアの重鎮、鉄アレイの1stアルバム等そのリリース・カタログには名作佳作が並ぶインディーズ・レーベルのSUNSHINE SHERBETから1994年に『KICK UP ASS!』をリリースした後だと思う。全員女性のパンク~ハードコア・バンドは1980年代から幾つかあり、最近CD化再発されたNURSEもハードコア草創期に活躍した女性ハードコアバンドだったが、個人的な所見だがTHE GAIA程に激しい衝動、感情を音楽に込めた女性バンドは他に類を見ない。そのテンションはライヴは勿論、レコードでも十分伝わってくる。そのTHE GAIAが紆余曲折を経て現在はベーシストだったJHAPPYがドラムに転じてVELVET WORMのメンバーとして在籍している。今年の9月に初めてVELVET WORMを観たのだが、やはり女性ならではの激しい衝動が込められたサウンドで、THE GAIAのDNAは確実に受け継がれていると感じた。そんな彼女達はメンバーが他のバンドを掛け持ちで活動している事もあるのか、都内でもあまりライヴをやらない。それで帰郷ついでに少し足を伸ばして名古屋のライヴハウスに出演する彼女達のライヴを観てみる事にしたのだ。
去る10月29日、まず新幹線で名古屋に向かい、中区栄のホテルにチェックインし、ライヴ会場であるTiny7に入場した。最近のライヴで戸惑うのは会場入りする際によく「どのバンドを観に来たのですか?」と聞かれる事だ。チャージ精算の際のギャラの配分の目安にするのだろうが、やはり「VELVET WORMを観に来ました。」というのは気が引ける(笑)。ただ僕も今回は「メンバーとは面識はありません。」と付け加えたので当日料金での入場となった。店の関係者初め、客も出演バンドも全く見ず知らずの人間に囲まれ、まるで10代の頃、初めてライヴハウスを訪れた時のような不思議な感覚を味わった。この日はZILEMMAという地元・名古屋をベースに活動しているベテラン・パンクバンドの主催する企画ライヴ「KILL THE LOOP Vol.11」で全7バンドが出演した。名前を聞いた事があるのはVELVET WORMの他、主催のZILEMMA、FOLKIEESというクラストコア系のバンドだけだった。入場したら既にFOLKIESが演奏中だったが、他にはアイリッシュミュージックをベースにしたラスティック系(というより広い意味での)ミクスチャーバンドのBANQUET ROVER、女性ギタリストが目茶苦茶渋い音を出すオープンマインドでフレンドリーなスキンヘッズバンドのPROUD HAMMERS等、非常にバラエティーに富んだ好企画だった。何にも増して好感を持ったのは出演バンドの皆さん、邪心なく本当に純粋に好きな音楽を追求している印象があった事だ。ただ、さすがに目当てはVELVET WORMだっただけに(彼女達の出順はトリ前の6番目)、4バンド目辺りになると観ているこちらも集中力が途切れてくる。やはり客の大半は目当てのバンドや興味のあるバンドの出演時だけ会場にいて他の時間帯はロビーで雑談したり会場外でを自由気ままにたむろしていた。オールスタンディングだったのでずっと立ちっ放しで会場にいた僕も流石に疲れ、あと一バンド観ればやっとVELVET WORMか‥という心境で、内心「早く終わってくれれば‥」との思いで5バンド目のステージセッティングを眺めていた。この日観たバンドはVELVET WORM以外は皆初見で、トリのZILEMMAとFOLKIISの他は全く前知識もなく、言い換えれば思い入れも偏見なく素の状態で観る事ができた。スタッフがステージのバックドロップにバンドのロゴ入りのフラッグを貼ったりセッティングチェンジをしている間ももどかしく感じる程、疲労感がピークに達していた。余談だが、この日の会場であるTiny7のPAスタッフは感心する程、動きが良い。まだ若年で経験値は未知数だがPA卓とステージを小走りに行き来し、バンド毎に変わる機材のセッティングやバンドスタッフやメンバーの要求に小まめに対応し、出番直前まで入念にサウンドチェックをしていた。
さて、スタッフのサウンドチェックが終わると出順5番目のバンド、AGGROKNUCKLEがステージに登場した。彼等の演奏が始まって5分と経たぬ内に僕の疲労感は吹っ飛んだ。編成はツインギターにベース、ドラムとボーカルという5人組だが、まずベースのドライブ感が凄かった。圧倒的な音圧でギターとドラムをぐいぐい引っ張る。そしてボーカルの声量、表情からはリリックに賭ける本気度合いが痛い程伝わってきた。ルックスは所謂スキンヘッズバンドのそれでで全員坊主頭に各々地味な普段着っぽい装いで、硬派なワーキングクラスの風情を漂わせていた。この日の客入りは数十人だったと思うのだが、AGGROKNUCKLEの演奏が始まると会場入口のロビースペースでたむろしていた他の出演バンドのメンバーも会場内になだれ込んできた。気心の知れた取り巻き客がステージ最前で彼らのロゴフラッグを誇らしげに振りかざす。曲のブレイクの度に思い切り拳を振り上げ、コーラスパートを合唱する。大人数ではないがまさしく客も「シンガロング(Sing Along)」状態のハッピーな空間だ。そんな光景を女性客も遠巻きに笑顔で観ている。途中、ボーカル(Kitty氏)がたった一言だけ発したMC「(うろ覚えではあるが)お前ら、絶対にあきらめんじゃねぇぞ!」がリアリティ十分だった。またその目、眼光からその真摯な姿勢がひしひしと伝わってきた。個人的な評価基準の話になるが、僕はどんなジャンルでもパフォーマーの目、視線に訴求力のあるものはほぼ100%感動させられる。それはその昔、パンクバンドのINU時代の町田氏を初めて観た時から始まって今に至るまでずっと変わらない。AGGRKNUCKLEのライヴセットは約20分程だったが、その中で英国のスキンヘッズバンドのオリジネイター、SKREWDRIVERの"I Don't Like You"のカバーを披露したのも僕の琴線に触れた。SKREWDRIVERというバンドは、過激な愛国者で知られるボーカルの故・イアン・スチュアートの物議を醸しがちの言動により、現在でも賛否両論の評価があり、特に音楽メディアでは「悪名高い~」等と紹介されていたりする。ただ、個人的な所感を述べると彼らを徒に非難するのではなく、(特にこの時代)その主張するところにも傾聴すべき部分もあると思うのだ。そんなSKREWDRIVERのカバーを躊躇なくあっさりやってのけたのにも刮目させられた。僕の世代からすれば「良い根性している。」という事になる。それくらい、一時期SKREWDRIVERというバンドはある種タブー的存在だった。彼らのステージが終わって待望のVELVET WORMのライヴが始まったが、場の空気はともかく、個人的にはAGGROKNUCKLEの衝撃が冷めやらず、集中して彼女達のパフォーマンスを観る事ができなかった。最初に観た時より音も一層タイトになり、よりきめ細かなアレンジがなされ、またAGGROKNUCKLEのライヴに刺激されたのか、テンションの高いパフォーマンスを見せ付け、終演後は客も口々に「カッコ良い。」と感嘆の声を上げていた。が、AGGROKNUCKLEのライヴ後だけにどうしても両者を比較してしまうと分部が悪いか。その後この日トリのZILEMMAのライヴが始まって1曲目で、立ちっ放しだった為か疲労がピークに達し、Tiny7を後にした。ホテルに戻り、物販ブースで購入したAGGROKNUCKLEのCDパッケージに目をやるとタイトルが『UNSHAKABLE DETERMINATION』とある。「揺るぎなき決意、意志」か‥。アンダーグラウンドにはまだまだこんなに凄い奴らがいる。そして確かに、ふと初めてライヴハウスに足を運んだ30年前の自分を思い出した。最後に付け加えておくと、これは僕の直感だが、こうした(音楽に於ける)スキンヘッズ・シーンやコミュニティーは今後、大きく発展していく予感がする。ごく個人的に昨年来、今世紀に入って急速に拡大しつつある海外(特にヨーロッパ各国)のスキンヘッズの動向についてリサーチしていたのだが、この日本でも現在AGGROKNUCKLE以下、アンダーグラウンドシーンではリリック、演奏力共にハイレベルな表現活動をしているなスキンヘッズバンドが数多存在する。昨今の日本の世相を顧みると彼らには近い将来、より大きな活動の舞台が待っているような気がする。この日見た、パフォーマンス中の彼らAGGROKNUCKLEを支持するの観客の表情や所作からもそれは十分感じ取れた。
(自分史1983年編は次回に‥)
参考リンク

The Gaia Discography
※1990年代に活躍した4人組女性ハードコアバンド、The Gaiaのディスコグラフィー。
The Gaia U.S. Circuit '97
※1997年春に行われたThe Gaiaのアメリカツアーレポート。
The Gaia Last Gig '98
※The Gaiaのラストギグレポート。
The Gaia:No Sleep No Dream
※The Gaiaの代表曲。
Plastic Nine
※The Gaia解散後にGANA、JHAPPYが中心となって結成されたモーターヘッド系爆走R&Rバンド、Platic Nine。
BANQUET ROVER
※10/29@名古屋Tiny7に出演したラスティックバンド、BANQUET ROVER。
3/19 PROUD HAMMERS ♯1
※同じく10/29@名古屋Tiny7に出演したユニークなスキンヘッズバンド、PROUD HAMMERS。女性ギタリストが英国のグラムロックバンドのSLADEや、デビッド・ボウイのバックアップギタリストだったミック・ロンソンばりの渋い音を出していた。
AGGROKNUCKLE:Manipulator mpeg4
※AGGROKNUCKLEのCD収録曲で代表曲のManipulator。
AGGROKNUCKLE / Manipulator~We Stand Alone~I don't like you
※AGGROKNUCKLEの名古屋Tiny7でのライヴパフォーマンスの模様。
Skrewdriver:I don't like you (LIVE with lyrics)
※英国の悪名高い?(メディアの偏見に満ちた一方的な評価にも依る部分もある)愛国主義者バンド、SKREWDRIVER。
AGGROKNUCKLE Facebook
※AGGROKNUCKLEのFacebook HP。
AGGROKNUCKLE Schedule
※AGGROKNUCKLEのSchedule。来年2月11日(建国記念の日)に新宿ANTI-KNOCKで東京ライヴ、2月25日に大阪KING COBRAでこれも注目のスキンヘッズバンド、鐵鎚と共演。