あらすじ（抜粋)
2001年のｱﾒﾘｶ同時多発ﾃﾛ事件を背景としており､この事件で父親を失った9歳の少年ｵｽｶｰ･ｼｪﾙが､父の遺品から見つけた鍵の秘密を探るためにﾆｭｰﾖｰｸ中を探るという物語である｡
（感想)
受け止めきれない現実を乗り越えることの辛さと難しさがスクリーンを越えて痛いくらいに伝ってきて、切ない作品でした。
一見異常なほどのオスカーの行動も、彼の年齢や父親の死に隠れた真実を開いてみたら当然のことで、要は大きなショックと悲しみにぶち当たった時「何もする気が起きなくなる」か「何かをしないと気が済まなくなる」のか・・・・その違いなんだと思う。
心の救いを求めて鍵穴を探しはじめたオスカーだったけど、9・11のトラウマからエレベーターに乗れない。飛行機が怖い。空を見上げる人、こどもの泣き声、悲鳴、橋・・・たくさんのものが怖い。そんな自分を励ますかのようにタンバリンを鳴らしながら、時にはガスマスクをつけながら街の中を探すオスカーの姿に母性心が芽生えた気がした。
祖父とのやりとりはハートフルでありながら、もどかしくて複雑。誰もが一度は祖父に共感を覚えたんじゃないかと思う。留守電を聴かせようとする孫に「もうやめろ」とペンを走らせる彼の苦の表情はオスカーとそっくりで、似た者同士が作り出す空気は居心地の良いものではなかったけど、不思議と心が安らいだ。
父親の死はもちろんだけれど、父親の最後の電話に出なかった自分を悔やんでいることを告白した瞬間、物語の佳境にさしかかり、彼が自分で乗り越えたかのように見えた。
しかし、最後に彼を救ったのは「あのビルにいたのがママだったらよかったのに」と不満をぶつけ続けた母親であり、母親の行動のすべてが分かった時、家族のこの上ない深い愛情に心臓をぎゅっと捕まれた感覚がしました。
それも涙ではなく笑顔で乗り越えたところが素晴らしい。
最後に彼がブラックさんたちにあてた手紙は、みんなに伝わり、みんなが大事にしたことと思う。
この映画に限らず、多くの人がそれぞれに問題や悲しみを背負って生きていて、人を労る優しさを持っている。そういう強さを誰もが持っていることを強く実感した。
切なくて疲れる作品でした。なのに観て良かったと思うし、とても清々しい気持ちで観終わることが出来ました。