「ハルモニア」/篠田節子 | 星空シアター

「ハルモニア」/篠田節子

◆「チェリストなら必読の書だよ」先輩のそんな言葉に動かされて,読み上げた篠田節子作の「ハルモニア」。

◆物語自体は,サイコサスペンスであるが,文章のそこここに,登場する楽曲の解釈としての名文が輝く。

◆「バッハの音楽には,トラップがしかけられている」
 このいくつものトラップを完全に制覇したとき,音楽はえもいわれぬ高みへと上昇するという。私も,無伴奏組曲第1番のプレリュードを時折弾くが,トラップに引っかかりっぱなしである。

◆「人間の感情や知性を越えた果てにある,清冽な美の抜けるような透明な音。一音一音が丹念に編み込まれた果てしないリング」
 やはり,無伴奏組曲に対する文章であるが,美しい。

◆「組曲の中に現れるアルペジオは,その和音が基本となる。調和と深い色合いが変化しながら,見事なアラベスクを描いていく」
 見事な文章だ。もう,バッハの無伴奏チェロ組曲を弾くのは恐れ多くなってしまった。いや,その名品にチャレンジすることがアマチュアに許された特権である。たとえ,1合目,2合目で止まろうとも。少しずつ歩む。這い上がる。あきらめたら終わりだ。


著者: 篠田 節子
タイトル: ハルモニア