第17話 「初めての指令本部」の巻 | 僕とアインシュタインのヒーローズファクトリー

第17話 「初めての指令本部」の巻

 辺りの眩しい光は消え、部屋の照明は普通の蛍光灯の明かりになった。
「みんな、遅いんだよ。僕は10分前からこうして待ってたのに。」
「ずっと立ってたのか?」
「やあ!諸君!登場シーンの演出を考えていたんだが、今のはどうだね?」
アインシュタインがスポットライトをいじりながら言う。
「いいっすね!神秘的で、かつ男らしさがキラリと光る。」
「うん。ヒーローって感じがよく出てたよ!」
それを聞いてアインシュタインは満足そうに頷いた。
「山田君。私の演出はなかなか評判がいいようだね!」
「ええ!先生!これで行きましょう!」
「そうだ!これで行こう!さあ諸君も、賛成なら拍手を…」
「そんなことより現場はどこですか!!」
柿本が叫ぶ。場内が静まり返った。
「柿本の奴、ずいぶん気合入ってるな。」
藤原がつぶやいた。
「だって柿本が一番こういうの好きですもん。」
松井が小さく言った。
「…ええっと、ではみんな、このモニターを見て。」
大きな液晶テレビに、どこかの空き地が映った。どうやってこんなものを用意したのか、すごく気になったのだが、時間の無駄だろうから深くは考えないようにした。
 空き地では、若い女性が野良犬2匹に挟まれて身動きが取れなくなっていた。なかなか大きい犬だ。一匹は白い体に黒い斑点がある太った犬で、よだれをだらだらと垂らしている。もう一匹は体の引き締まった黒い犬。こちらのほうが賢そうだ。
「あの女性を救うことが君たちの任務だ。犬は結構手強いから、油断しないように。」
山田がモニターを指して現場までの道順を説明した。
「ところで諸君、雨具は用意したんだろうね」
アインシュタインが言う。
「そんなにひどい雨じゃないし、ちょっと濡れたって大丈夫ですよ。」
「だめだ!クリーニング代が高いから、スーツを汚すな!」
「だって傘差して戦ったりしたら片手がふさがって面倒臭いじゃないですか。それにヒーローが傘差すってのもなあ」
藤原が笑う。
「この大馬鹿者がぁぁっ!!!」
なぜかアインシュタインが激怒した。


「カッパを着ればいいじゃないかっ!」


そんなことでどうしてこんなにこの人は怒っているんだろう…。なんて考えている間に例の女性がますます追い詰められていく。
「あの人も災難だなあ。あんな大きな犬に囲まれちゃってさ。…それにしても美人だなあ。」
松井の言葉に、皆が一斉にモニターを覗く。
「ほんとだ。すごい美人だ。」
「うん、美人だ。……あれ?あの人って」
「まさか。似てるだけじゃないのか?」
僕はその女性が何なのか知らなかったが、皆の顔つきはみるみるうちに変わった。
「間違いないよなあ…。」
皆の視線が柿本に集まる。もしかして、彼女が…。


「ヒロコ!!!」


柿本は顔色を変えて部屋を飛び出していった。皆も慌てて後を追う。遅れてついていった僕の後ろから、スーツを汚すなと叫ぶアインシュタインの声が小さく聞こえていた。