第15話 「実戦の日が来た」の巻 | 僕とアインシュタインのヒーローズファクトリー

第15話 「実戦の日が来た」の巻

 ある日、部屋で藤原の腕立て伏せを眺めながら読書をしていると、建物の中に大きなサイレンが響いた。そしてスピーカーから、割れんばかりのアインシュタインの声。


「緊急連絡!緊急連絡!諸君たち、待ちに待った初仕事だ!今、3丁目の空き地で若い女性が野良犬2匹に襲われている!至急、戦闘スーツに着替えて本部に集合!・・・なお、今日の降水確率は70%だから、雨具持参!以上!」


ぶつっと放送が切れた。

「なあ藤原、ヒーローってのは、傘なんか差して戦うのか?」

「まあいいじゃないか!それより、いよいよだぞ!」

藤原はひどく張り切っている。僕たちは廊下の突き当たりにある衣裳部屋へと走った。そこには既に野口と松井の姿があり、二人ともずいぶん楽しそうに全身タイツへと着替えていた。

「これを着るんだよなあ。正直、俺、苦手なんだよ」

藤原がぼやいた。僕は嬉しさのあまり大きな声をだしてしまった。

「何だよ!お前!まだ洗脳されてなかったのか!そうだよ!いい年してこんなの着れるかよ!藤原、まだ間に合うぞ。俺たち二人だけでもここで引き返そう!」

「・・・何言ってるんだ、沢田。」

野口が不思議そうに僕を見た。

「だってこんな格好で外を歩いてみろよ。いい笑い者どころか、警察に捕まるよ。」

すると皆が笑い出した。僕は腹が立った。

「いいか沢田。ヒーローなんだぞ。正義の味方なんだぞ。俺たちは運命に選ばれたんだ。そこらへんの一般庶民とは違うんだよ。お巡りさんが俺たちを捕まえるわけがないじゃないか!」

「そうっすよ。むしろ、彼らは俺たちに憧れてお巡りさんになったんですから。」

「そうなのか野口!?俺、そんなの知らなかったよ!」

藤原が驚いて目を大きく開く。

「・・・すいません。今のちょっと嘘です。」

松井が申し訳なさそうに頭を掻いた。

「何だ・・・嘘かよ。びっくりしちゃったよ。それにしても沢田、一般庶民の目を気にするなんて、お前も心が狭いなあ」

藤原が言う。

「ヒーローとしての自覚が足りないんですよ」

松井もちょっと馬鹿にしたように言う。

「そういう問題じゃないだろ!お前らがやってることは現実逃避だよ!馬鹿げてると思わないのか?」

「逃避なんかしてないさ。いい大人の俺たちが、全身タイツを着て、これから野良犬と戦いに行くんだ。馬鹿げていようと、これが現実だ。」

野口まで・・・!僕はもう何も言えなかった。