第14話  「これって通信機なの?」の巻 | 僕とアインシュタインのヒーローズファクトリー

第14話  「これって通信機なの?」の巻

 会議室の中では、いい大人が嬉しそうに全身タイツをまとって騒いでいた。
「おっ沢田!来たな!大丈夫か?」
青いタイツに包まれた藤原の笑顔はまぶしい。嬉しくて嬉しくてたまらないっていう顔をしている。
「よし、沢田君が戻ってきたことだし、今度は諸君に小型通信機を配る。」
全員に黒い塊が配られた。それはものすごく大きな腕時計だった。時計の文字盤の真ん中には白いボタンがあり、そのボタンに「」のマークがついている。
「なあ、このマーク、玄関にある呼び鈴じゃないのか?」
「僕もそんな気がする…。」
皆の不安げな表情などお構いなしで、アインシュタインは説明を始めた。
「見ての通りだが、真ん中の白いボタンを押すと、私のいる指令本部と連絡が取れるようになっている。画期的な通信機だ。では早速、使ってみよう。」
僕たちは顔を見合わせた。どう見ても、普通の家の玄関にある呼び鈴だ。小さい頃、よく他人の家にいたずらをした。いまだに覚えている。呼び鈴を鳴らし、家の人がでてくる前に逃げる。ただそれだけのことに、小学生の僕は最高のスリルと興奮を味わったものだ。ああ、若いって素晴らしい。
 僕達の誰一人として、ボタンを押そうとしなかった。アインシュタインは焦りを見せた。
「何だ!どうしたんだ?どうしたっていうんだ!!」
「…あの、これって、通信機なんですか?」
柿本が遠慮がちに尋ねた。
「だからそう言っとるだろう!ほら早く、誰か使ってみたまえ!さあ!さあ!」
アインシュタインが苛立ち始めた。藤原があわてて白いボタンを押す。皆が息をのむ。


…ぴいぃん ぽおぉん…


 乾いた音が響いた。
 やっぱり呼び鈴じゃないか。


 藤原の腕時計の中からガサガサと音が聞こえた。皆がそれをのぞき込むと、それからカチャッという音が聞こえて、
「はい!どちら様ですか?」
と嬉しそうなアインシュタインの声が飛び出した。顔を上げると、満面の笑みのアインシュタインが、受話器を耳にあててこちらの様子をうかがっていた。
 
使い方まで呼び鈴そのものじゃないか…。

 

戦闘スーツで終わらせておけばいいものをという感想を抱きつつ、皆、無口でそれぞれの部屋へ戻った。
 本当に、どうしようもない所に来てしまったなあ、と考えずにはいられない。けれど僕は、二段ベッドの下の段で横になり、藤原の筋トレを眺めながら、ここからの逃亡計画ではなく、これから柿本とどう和解するか、それから家具をどう配置すればこの部屋はおしゃれな感じになるだろうか、なんてことを考えているのだった。



これにて第一部 完。