第6話  「新生活の始まり」の巻 | 僕とアインシュタインのヒーローズファクトリー

第6話  「新生活の始まり」の巻

僕は奥の部屋に通された。奥といっても、工場の造りはとても複雑で、初めに入った部屋には入り口を除いても八つほど扉があり、僕は入り口から右に四つ目の扉をくぐっただけだから、おそらく、さらに奥にいくつも部屋がこしらえてあるのだろうと思う。とりあえず、僕の入ったその部屋は、正面にホワイトボードが置いてあり、机と椅子が無造作に並べられていて、どうやら会議などを開くときに使われる部屋のようだった。

アインシュタインのような頭の老人を囲んで僕達は椅子に腰掛けた。スーツの男はホワイトボードの横に立っていた。彼は書記らしい。老人が立ち上がってぺこりと礼をした。
「それでは第一回作戦会議を始める。今日は最も重大である我々のチーム名を決議し、これからの活動方針の確認をする。その前に、皆が互いを理解し、これからの戦いに必要不可欠なチームの団結力を育むために、簡単な自己紹介をしてもらおうと思う。」
アインシュタインは話を続けた。
「まずは私から。司令官の原田ダイゴロウ、生まれも育ちも葛飾柴又です。あだなはアインシュタインです。みなさんはそれとなく感付いているかも知れませんが、この頭はもちろんアインシュタインがモデルです。趣味は裁縫です。よろしく!では次は沢田君。」
僕は自己紹介なんかするつもりはなかった。この集団と関わるなんてごめんだと思った。しかし、僕を見つめる皆の輝いた目を見たら、自己紹介くらいなら良いだろうと思ってしまった。
「沢田ゲンジです。趣味は散歩です。」
藤原が拍手をしてくれた。皆が「ワイルドだね!」「素敵だね!」と暖かい声援を送ってくれた。しかし、そんなさわやかな声援の中に、「バカ」「アホ」という中傷の声が混じっていたのを僕は聞き逃さなかった。その声の主は柿本だった。
「次は、藤原君。」
「はいっ!私の名前は藤原ヨシマキであります!砲丸投げをやっています。二年前の世界陸上では六位入賞を果たしました。趣味は筋トレです。」
「次、野口君。」
「野口ヒデキです。趣味はこれといって特別なものはありませんが、強いていえば音楽鑑賞で、主にクラシックを聴いています。よろしく。」
嘘だ。僕は知っている。野口はいつもイヤホンをしていたが、クラシックを聴いているんじゃない。野口が聴いているのは落語だ。野口はたまに口元に不敵な笑みを浮かべる。真相を知らない人なら、それを見て、野口は天才だからすごいことを考えているのだろうと思うのだが、本当は落語を聴いて笑っているだけなのだ。
「次、松井君ね。」
「はい。松井カツオっす。趣味はお笑い番組を観ることと料理です。皆さん仲良くしてください。」
「次に、柿本君。」
「柿本です。趣味は、特にありません。百人一首が得意です。それから…」
そこまで言って柿本は一度黙り、ゆっくり僕を見た。柿本の目は血走っていて、ものすごく敵意が感じられた。僕は少し驚きながらも、柿本の目をじっと見た。逃げるわけにはいかなかった。柿本は僕をにらんだまま、ゆっくりと口を開いた。


「僕は沢田君が嫌いです。」


場の雰囲気が一気に悪くなった。何て迷惑な奴だ、皆そう思っていたに違いない。明るい未来のために、皆がさわやかな心持ちで臨んだ記念すべき第一回目の会議なのに、柿本は空気の読めない奴だ。そういうのが一人いるだけでも困るんだよなあと僕は心の中でつぶやいた。それに僕が柿本に嫌われる筋合いはない。
「はっはっは。明るくいこうよ。さあ、それでは最後に、山田君。」
スーツの男が一歩前に出て一礼した。
「山田タケオです。趣味はドライブです。よろしくお願いします。」