第3話  「ゲンジ君 拉致される」の巻 | 僕とアインシュタインのヒーローズファクトリー

第3話  「ゲンジ君 拉致される」の巻

 その男はスーツ姿で、商社マンか何かに見えた。
 僕はスカウトされたと思った。ついに来たと思った。そりゃあもう、すごく嬉しかったのだ。嬉しかったのだが、この僕をテレビや雑誌みたいな薄っぺらいもので世間にさらしてしまうのはあまりにもったいないので、断ることにした。しかし男はなかなか引き下がらない。


「君のような人を探していたんだ。今度はワイルド路線でいこうと思っていたんだが、君はまさにそれだ。チームのリーダーにふさわしい。どうだい、見てみるだけでも。きっと我々とともに戦う気になるさ!」


 スーツの男が言うことの意味はよくわからなかったが、「ワイルド路線」という言葉はとても僕らしかったので、見学だけならいいかなと思ってしまった。
男は周囲をひどく気にしていたが、商店街の人々は後片づけに精一杯で、僕のことなど忘れてしまっていた。男はそれが好都合だと言ったが僕は悲しかった。
 僕は男の車に乗り込んだ…。


僕は小さな工場の前に立っていた。錆びて壊れかけた門の向こうに茶色い建物と大きな煙突が見える。芸能プロダクションに連れて行かれるとばかり思っていたのに、まるでそれとは程遠い場所に来てしまった。僕は何か、目には見えない大きな力…それも絶対悪いほうのものと対峙しているような気がして、背中がぞくっとした。
 僕がそこから足を進めるのをしぶると、男はにっこりと笑った。

「君は、すごくワイルドだ。」

ワイルドと言われたら帰るわけにはいかない。
 僕は工場の門をくぐった。少し歩いたところに扉がある。扉は家賃の安いアパートにあるようなもので、そのど真ん中に釘が一本打たれ、「ヒーロー工場」と書かれた札が下がっていた。
「なかなかいいだろ!」
 男が自信満々に言う。僕は帰りたくて仕方がなかった。男は僕のそんな気持ちを察したのだろうか、今度は妙に真剣な眼差しで僕を見つめてきた。
「君が不安なのはよくわかる。しかし我々には世界でもトップクラスのワイルドボーイである君がどうしても必要なんだ。ワイルドでクールな君なら、わかるだろ?」
僕は本当はわからなかったのだが、『ワイルドでクールな僕だからわかるような、いや、わからなければならないような気がした。
 そして僕は、最も危険な世界へ続く扉に手を伸ばしてしまったのだった。