第2話  「ゲンジ君 商店街を救う」の巻 | 僕とアインシュタインのヒーローズファクトリー

第2話  「ゲンジ君 商店街を救う」の巻

 僕は暇な時などは、近くの商店街を歩いていることが多い。

 廃れかけた人通りの少ない商店街の雰囲気は僕の理想そのものだ。人の少なさ、儲からない店の並び、不景気の大きな波にさらわれながらも、それに屈せず力強く生きる人々。そして何より、その街並みをしかめっ面で歩く僕!背中に哀愁が漂う。渋い。ワイルドだ。やはり商店街に限る。僕の理想そのものだ。

 そうやってあの日も、僕はその商店街でワイルドさをムンムン漂わせていた。


 しばらく歩いて、そろそろ家に帰ろうかと思った時、遠くから爆音が響いてきた。暴走族が何度か商店街を荒らしに来ていると話に聞いたことはあったが、僕が実物を見たのはその時が初めてだった。

 やたら大きな黒いバイクは、よく磨かれて光っていた。五台のバイクが、それぞれ店に突っ込んで手当り次第壊していく。破壊音が響く。やめてくださいと弱々しく叫ぶ人々。暴走族の男たちは興奮して歓声を上げる。しかしこんなに暴れたらせっかく磨いたバイクが汚れてしまうではないか、さてはあいつら相当な馬鹿だな、僕は密かにそう考えていた。同時に、暴走族を背景にしてみてもやっぱり僕は素敵なんじゃなかろうか、そうかその手もあったなあと思い、口元に薄笑いを浮かべてしまっていた。


 そのうち、物を壊すのに飽きた彼らは、人を狙い始めた。

 たちまち一人の足腰の弱い老婆が、彼らに囲まれてしまった。皆、助けようとはしたものの、かなうわけがない。僕も黙ってみていたが、運の悪いことにその老婆と目が合ってしまった。老婆は助けてくださいと言わんばかりの目で、僕を見る。僕は本当は面倒くさいから嫌だったのだが、「暴走族と戦う一匹狼」も何だかワイルドだと思ったので、とりあえずやってみることにした。こんなときでも自分を客観的に見て、素敵さを追求できるのも、僕の良いところだ。

 
 僕は何も言わず彼らに近づいていき、気付かれないようにドリルでバイクのタイヤに穴をあけた。彼らが僕の気配を感じたときには既に五台のバイクはタイヤがつぶれて動かなくなっていた。彼らは真赤になって僕に襲いかかってきた。しかしバイクがなければ何も恐くはない。僕は余裕を持って彼らを叩きのめした。

 実に余裕だったので、ここで少し僕のワイルドさをアピールしようと思い、激しくTシャツを破いて、さりげなくたくましい肉体をさらしてみたが、期待通りの反応は返ってこなかった。お年寄りには刺激が強すぎたかもしれない。ちょっぴり恥ずかしくなったので、僕を殴ろうと構えていた一人の胸元をつかみ、俺のTシャツ破くんじゃねえよ怒鳴ったら気持ちがすっきりした。

 ほかの一人がナイフを出したときは、さすがに危険を感じたが、その男を指さして「お前はもう死んでいる」とハッタリを使ってみたら相手はかなりうろたえたので、さては小心者だな、それなら話は早い、と思い切り暴れてみたら彼らはすぐに逃げ出した。
 僕がタイヤをパンクさせてしまったものだから、彼らはバイクを押して帰らなければならなかった。かわいそうな気もしたが、まあ良い。僕には関係のないことだ。大切なのは、商店街を救った僕の素敵さなのだ。皆が僕にありがとうございましたと言う。ここで返事一つしないのがまた渋い。少しくらい愛想が悪くても大丈夫。きっと皆、僕のことを素敵だ、格好良い、ワイルドだと思っていたに違いない。何だ、これじゃまるで僕はヒーローじゃないか。そうか、僕はスーパーヒーローなんだ。そう思ったとき、僕は一人の男に声をかけられた。


「君、ヒーローにならないか?」