1話 「アスチルベの宝石」
ここは、長野県の山間にできた小さな田舎町、長野県小町市。自然が豊かで子供を育てるのには適した環境と支援が整っている自称「子育ての街」だ。小さな古民家も多く建て並ぶこの街は、人口2万6000人弱、人口密度は46.2人/km2といった、人間の住んでいる場所の方が少ない山に覆われた街だ。そんな環境だからか、中学校から登山をすることを強制させられ、14歳にして2670m級の山を登らされる。高校に上がれば登山部なんかがあり、登山部の全国大会常連高の名前にいつもここの学校が刻まれているほどだ。その、登山部に所属している中に、モデル体型とも思える細身の体型に身長が180cmほどある、ぱっとみ好青年と言える少年がいた。
長野県小町北高等学校2年、種山実瑠(たねやま みのる)。そう、彼こそがこの物語の主人公。周りから好青年に見られてしまうルックスを持ちながらも、コミュニケーションもろくにとれず、友達や親友と呼べる人は0人。いわゆる「根暗」といった言葉が似合う少年だ。彼は決して1人を好んでいるのではないが、何故かいつも1人になってしまう。そのため、彼は高校進学時に、憧れと理想である「集団の中にいる事」を強く抱き続けた。その結果、実瑠は部員数50人にも及ぶ強豪登山部に入部をした。もちろん、今では登山部の中でも中心メンバーになる事には遅れを取り、いつも後ろから皆の背中を静かに眺めてた。
まだ、種山実瑠という少年の人生で最初の苦難と難題が流星群のように降りかかってくるとはこの時の彼は知る由もなかった。
2014年4月。
新学期初日。長期休み明けの憂鬱から放たれる、いつも以上の眠気と90年代のX JAPANを思い出させる実瑠の寝癖は、登校という気怠さを大いに語っていた。その中でも、実瑠にとっては極楽の二度寝とも呼べるホームルームの時間にToshiの歌声よりも透き通った1人の女の子が2年B組のドアを潜り抜けた。
つづく
1話「アスチルベの宝石」