ライラックまつりのライブの次の日。
仕事中のこと。
この日は天気はいいが、強風だった。年配のご夫婦のお客様が来店。
奥さまは杖をついていて、ゆっくりとした足取りだった。リハビリを兼ねて御主人と散歩がてらお花をお買い求めにきたようだった。
花を選び、あの花はいらない、いるなどと、仲睦まじい感じで、微笑ましいなと思っていた。
会計が済んで、「ありがとうございました」とお声をかけてちょっと目を離したとき、大きな音がドスンとした。
!!!
顔をあげて音の方向を見ると、なんとその年配の奥様が倒れていた。
大変だ!!!こんな事は初めての経験だった。
意識もうっすらしてしまっている。
焦った私は「救急車を呼びますか!」と同僚のIさんに言った。
ここからの私たちの対応は迅速だった。
御主人は救急車はいいので椅子をもってきてくれるかい?とおっしゃったのでIさんが走って中の売り場へ椅子を取りに行った。
小さな花をのせる箱にとりあえず掛けてもらって、私が背中をさすりながら支えて、Iさんを待った。
御主人の話では何度も倒れられていてるようだった。今日は風も強いし無理だったなと奥様に話しかけられていたので、私も奥様の気持ちが落ち着くように話しかける。
Iさん椅子を持って、戻る。
Iさんが「水か何かお飲みになりますか?何か飲むと落ち着かれるとおもいますが・・」と言うと奥さまは「はい。」と小さく答えられたので、私は自分のお財布からお金を取り出し、自販機でお水を買ってくる。
・・しかし、その奥さまは口の動きも少々不自由な感じだったので、ペットボトルでうまく飲めないことがわかった。
Iさんは素早く機転をきかせ、「私、そこのマクドナルドで紙コップをもらってきます」とマックへ走る。
Iさん、マックの紙コップをもって素早く戻る。
紙コップでお水を飲んでもらい、御主人が車を店の近くまで持ってくるまで、座って休んでいただく。
車、到着。
車まで歩けるか歩けないか・・まだふらついている。腰を打たれたようだ。
小さく、痩せている奥様だったので、私が小脇にかかえても運べそうな感じだったが、下手に抱っこして落としたりしては大変かとためらっていたら、Iさんが・・
「私の背中に乗ってください!おんぶしていきましょう!」と言ってくれて、おんぶして車まで運ぶ。
なんとか、お客様を車に乗せて送り出すことができた。
御主人と奥様は車の中から、何度も頭をさげてお礼を言ってくれた。
・・・。
無事、救助完了。
ああ・・・びっくりした。
ホッとしたのか、私は椅子を返しに行く途中、ある妄想が浮かび上がる。
店内には「お褒めの言葉カード」という従業員の対応がよかった時にお客様が書いて、ポストに入れるという用紙がある。
届いたカードは道内の店舗全店に送られ、従業員のバックルームの廊下では、この「お褒めの言葉カード」を張り出しているコーナーを従業員たちがいつも見ていくのだった・・。
・・・もしあのお客様が私たちの事を感謝して「お褒めの言葉カード」を書いてポストに入れてくれたら・・
「○月●日昼ころ、外のガーデニング売り場で私の妻が倒れた際、IさんとAさん(私)という明るい従業員さん
が落ち着いて、迅速に救助していただきました。お水や椅子を運んでくださり、妻を落ち着かせようと話かけ励ましてくれたり、車までおんぶして運んでいただき、大変感謝しております。私たちが立ち去るとき、笑顔で送り出してくれたのが忘れられません。またこのお店に買いにきたいと思っています。本当にありがとうございました。」
というカードが届き、道内店舗に私たちの活躍が「お褒めの言葉カード」となって、従業員IとA(私)の名が道内店舗に轟き渡る・・。
・・・ってな、事になったらどうします~♪と私が自分の妄想をIさんに話すとIさんは大笑いしだし、
Iさん「ぎゃははは!明るい従業員さんの迅速な救助って!ぷぷぷ~( ´艸`)・・そうだね!腰かけてもらった時、ちょうど名札が見やすい位置だったもの!きっと名前入りで届くかも!・・・・・でも、そういう邪念があると、届かないもんなのよー」
私「うんうん。そうでですね。でも、もし張り出されたら、そのカードの前で、記念撮影しましょう!」
Iさん「ダメ駄目。もし張り出されても、すぐに張り出されたことに気がつかないよう振舞おう」
私「なんで?」
Iさん「それよりも、・・え!何のことですか?私すっかり忘れていました。・・当然の事をしたまでですから・・と言うほうがいい。」
ぎゃはっははははーーー!(Iさんと私、爆笑)
妄想もここまでくればすごい。
あまりのバカバカしい妄想に、お店にお客様がいないのをいいことに、笑いが止まらなくなる。
私「逆に、そんな馬鹿らしい妄想を話して大笑いしている所をこっそり他のお客様が遠くから見られていて、「お叱りの言葉カード」にしっかり投書されたりして!」
実は「お褒めの言葉カード」と同じく従業員の態度や不快な対応があった場合に投書される「お叱りの言葉カード」というものもある。
Iさん(大笑い止まらず泣きながら・・)「そうそうそうそう・・こういうのって褒める方よりも怒りの方が書いてくるもんなのよ」
その後もしばらく、笑いが止まらない二人なのだった。
わざわざ、再び来店して、カードに書いて投書するという行動は、大抵は怒りや抗議の方が多いものだよなー。
そうだよなー。と納得しつつ、今日もお褒めの言葉カードのコーナーの前を通るたびにチラッとチェックしてしまうのだった。
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