ラムプの夜の続きです。(パート2)

青空文庫(著作権フリーの本)を、朗読練習用に打ち込みました。(きくドラさんのラジオドラマを参考にしています)

 

 

  今晩はいろいろな人が来るわね。あの人も、いつか見たことがある様なきがするわ。

 

姉  そうね。おや、静かに。

 

  なに?

 

姉  ドアの向うで咳をしたわ。

 

  誰が。

 

姉  子供のようだったわ。(行ってドアをあける。)

 

  あら可愛いいわね。こんどの訪問者は。

 

少年 (咳をする)コンコン。

 

姉  こっちにいらっしゃい。風邪ひいてるの?

 

少年 ええ。

 

姉  寒いから、この火のそばへいらっしゃい。

(少年そばにゆく。)

 

  これ何なの?

 

少年 竪琴(たてごと)です。

 

姉  珍しいものね。わたし始めて見た。

 

少年 あれ?あの子がいない。

 

姉  あの子って、誰?

 

少年 あの子。僕名前知らない。

 

  ユキ坊のことを言ってるのかしら。

 

姉  そうかも知れないわ。わたし達の弟のこと?

 

少年 うん!

 

姉  ユキ坊ちゃんは死んでしまったのよ。

 

少年 死んだの?

 

姉  ええ。もう二年前のことよ。

 

少年 どこへ行つたの?

姉  死んじゃったのよ。

 

少年 そいでどこへ行つたの?

 

  死ぬつてことを知らないんだわ。

 

姉  そうね。死ぬってね、もうどこにもいなくなってしまうことなの。紙を火に入れると燃えてなくなるでしょう。あれと同じなの。それから先どうなるかわたし達にもよくわからないわ。

 

少年 ぢや、もうどっこにもいないの?

 

姉  ええ、

 

少年 つまんないなあ。僕遊ばうと思って来たのに。竪琴(たてごと)をひいたり、犬のカピーや猿の話をしてあげようと思って来たのに。それからフランスの田舎を旅した話なんかもどっさりあるんだけど。

 

姉  わたし達にきかしてちょうだい。

 

少年 でも、あの子がいなきゃ、つまんないなあ。

 

  そんな悲しい顔をしちゃいやだわ。わたし達まで悲しくなるわ。

 

少年 松林からひばりがあがったら、一緒にひばりの歌を歌うと思ったのになあ。

 

姉  ほんとに、もう春ね。もう春になってるんだわ。こんやはまるで冬みたいに寒いけど。

 

少年 コンコン。僕もういくよ。(立ちあがる)

 

姉  こんな風の中に出てゆかないで、今夜は泊っていらっしゃい。

 

少年 でも僕、フランスにいくんだから、ゆっくりしていられないや。

 

  うちのお父さんの船にのせてってもらえばいいじゃないの。うちのお父さんはベルテ丸の船長よ。

少年 でも僕もう行かなきゃならない。

 

  どうして?

 

少年 もうじき電燈(でんとう)がつくもん。

 

姉  本当にもう行くの?

 

少年 ええ、さよなら。

 

姉  またいらっしゃいね。

 

少年 いいえ、もう来ません。

 

  どうして? さつきの旅人だって、泥棒だって、また来るって言ったわ。

 

少年 でも、僕はもう来ません。

 

  どうしてそんな悲しいこというの。

 

少年 でも、あの子がもういないもん。

 

  この花、あげるから持っていらっしゃい。

 

少年 ありがたう。コンコンコン。

 

姉  体に気をつけてね。

(ドアを開ける)

 

  風が凪いだ(やいだ)のね。

 

姉  ええ。わたし耳が変だわ。まだあの子の咳が聞えるような気がするわ。

 

  わたしにも聞えるのよ。小さい咳。コンコンて。

 

 

  あつ、あの子、手袋忘れてつた。

 

姉  あら、ほんと。追っかけて行ったらまだ間にあうわ。

(立ちあがる)

 

  おや、これ、見覚えがあるわ。ユキ坊の手袋よ、たしか。

 

姉  さうね。ユキ坊ちゃんのだわ。

 

  ユキ坊の手袋……

(間)

姉  (腰かける)わかったわ。

 

  あたしにも。

 

姉  影絵だったのね。

 

  そう。一番はじめの旅人が姉さんの作った影絵。次の泥棒がわたしの作ったの。そして今の子はユキ坊の「家なき児(いえなきこ)」だったのよ。あたし達、幻を見ていたのだわ。

 

  おや、お父さん達が帰っていらした。

(二人立ちあがる)