『トランプ氏「われわれは世界中の笑いものだった」と主張、「ばかだと思われていた」とも』というニュースの見出しを目にしたとき、ぼくは一瞬、トランプ氏も中間選挙の結果を受けて、ようやく自らの政権運営を反省し始めたのかと思いました。しかし、実際はまったく違いました。

トランプ氏が口にした「われわれは世界中の笑いものだった」という言葉は、自身の政権を批判したものではありません。あくまでも、2年前の米国の状況を指していたのです。

トランプ氏はFOXニュースの番組「FOX&フレンズ」に出演し、次のように語りました。

「米国を偉大な国であり続けさせなければならない。今の米国は偉大だ。2年前はひどい状態だった」

さらに、当時の米国について、「われわれは世界中の笑いものだった。他国の指導者たちから相手にされず、ばかだと思われていた。しかし、今のわれわれには勢いがある。米国は世界で最も勢いのある国であり、誰からも尊敬されている」と強調しました。

そして、「この状態を維持し、さらに良くしていく」と続けています。

どうやら反省とは無縁のようです。そこにあったのは、これまでと変わらない根拠のない自信と、現状を全面的に肯定する姿勢でした。

これらの発言が飛び出したのは、中間選挙の投票日である3日の朝です。トランプ氏はテレビ番組に電話で出演し、投票を控えた有権者に向けて、最後の支持を呼びかけていました。

●  大統領就任から2年間の評価を問う「中間テスト」
ここで、そもそも米国の中間選挙には、どのような意味があるのでしょうか。

米国の中間選挙(Midterm Election)は、4年に一度行われる大統領選挙のちょうど中間に当たる年に実施される選挙です。主な目的は、国の法律や予算を決める議会の議員を選び直すことにあります。

大統領自身が選挙に出るわけではありませんが、実質的には大統領就任後、前半2年間の政権運営に対する「中間テスト」のような意味合いを持っています。いわば、国民が大統領に成績表を突きつける機会です。

米国の議会は、上院と下院の二院制を採用しています。

・上院(全100議席のうち約3分の1):任期は6年です。ただし、2年ごとに約3分の1ずつ改選されます。
・下院(全435議席):任期は2年と短く、2年ごとに全議席が改選されます。
・州知事などの選挙:多くの州では、州の行政トップである知事の選挙も同時に実施されます。

有権者の投票行動には、大統領の政権運営に対する評価が大きく反映されます。

大統領の政策や政治手法に満足していれば、同じ共和党や民主党の議員に投票する傾向があります。一方、政権に不満を抱いていれば、対立する野党の候補者に票を投じることになります。

つまり、中間選挙の結果は、大統領に対する国民の評価を映し出す重要な指標なのです。

ちなみに、米国の選挙が11月の火曜日に実施されるようになった背景には、かつての農業社会の事情があります。

当時は国民の多くが農業に従事し、移動手段も馬車が中心でした。農作業の予定や投票所までの移動時間などを考慮した結果、11月の火曜日が投票に適していると判断され、法律で定められたとされています。

2026年11月現在、第2次トランプ政権(共和党)の中間選挙では、野党・民主党が共和党を上回り、議会の多数派を奪還するかどうかが大きな焦点となっています。

仮に民主党が下院、あるいは上下両院で多数派を握れば、いわゆる「ねじれ議会」が生まれます。そうなれば、トランプ大統領が推進する主要政策や政府高官の人事にも、議会による強い制約が加わることになります。

「ねじれ議会」とは、大統領が所属する政党と、議会で多数派を占める政党が異なる状態を指します。大統領が思い描く政策を、そのまま実現することが難しくなる政治状況です。

●  米国の政治情勢の変化でAI規制が強まる可能性
では、民主党が議会の多数派を奪還した場合、日本にはどのような影響が及ぶのでしょうか。

特に注意したいのが、米国のAI政策の変化です。

民主党が議会で影響力を強め、AIに対する規制強化を進めれば、米国のAI関連企業やテクノロジー株に下落圧力がかかる可能性があります。その影響は米国内にとどまらず、日本の半導体・ハイテク関連株にも波及しかねません。結果として、日本株市場全体にもマイナスの影響が及ぶことが考えられます。

そもそも、共和党と民主党では、AIに対する基本的な考え方に違いがあります。

トランプ政権の共和党は、米国企業の国際競争力を高めることを重視し、AI開発を妨げる規制を緩和する方向にあります。

一方、民主党は、AIの急速な普及によって生じる社会的なリスクや弊害への対応を重視しています。AIによる雇用への影響や労働者の保護、個人の権利、安全性などを考慮し、必要なルールを整備する姿勢です。

このように、共和党が企業の競争力や技術開発を優先するのに対し、民主党は労働者や社会全体の安全を重視する傾向があります。

そのため、民主党が政治的な主導権を強めれば、AI関連の規制が厳しくなる可能性があるのです。

また、米国のテック株が下落した場合、日本の株式市場にも影響が広がると考えられます。その背景には、米国の大手テクノロジー企業と日本の半導体関連企業が、サプライチェーンを通じて密接につながっているという事情があります。

簡単にいえば、米国の発注元企業の業績が悪化すれば、その企業に部品や製造装置などを供給する日本企業にも影響が及ぶという構図です。

●  米国のAI関連株安は、日本株にもドミノ倒しのように波及する
この関係を理解するために、AIブームの中心的な存在である米国の半導体大手、エヌビディア(NVIDIA)を例に考えてみましょう。

エヌビディアは、AIの開発や運用に欠かせない高性能半導体を手がける世界的な企業です。その製品を製造する過程では、日本企業が持つ高度な技術や製造装置も重要な役割を担っています。

代表的な企業が、アドバンテストとディスコです。

"アドバンテスト"は、半導体が正常に動作するかを検査する半導体試験装置で世界的なシェアを持つ日本企業です。

一方、ディスコは、半導体の基板を極めて薄く削ったり、精密に切断したりするための装置を製造しています。いずれも、最先端半導体の製造に欠かせない企業です。

では、米国の政治情勢の変化などをきっかけにAI関連の規制が強まり、エヌビディアの株価が大きく下落した場合、どのような連鎖が起こるのでしょうか。

その流れは、次のようになります。

1.米国のAIブームが減速する
AI関連の規制強化などによって企業の投資意欲が低下すれば、エヌビディアのAI半導体に対する需要が減少する可能性があります。

2.日本の半導体関連企業への発注が減る
エヌビディアの生産計画が縮小すれば、製造工程に関わる日本企業にも影響が及びます。アドバンテストの検査装置や、ディスコの製造装置に対する需要も減少しかねません。

3.投資家が日本企業の業績悪化を先読みする
投資家は、米国のAI市場が減速すれば、日本の半導体関連企業の業績にも悪影響が出ると考えます。

4.日本の半導体関連株に売りが集中する
将来の業績悪化を懸念した投資家が、アドバンテストやディスコなどの株式を売却すれば、株価の下落につながります。

このように、米国のAI市場の変化は、日本の半導体関連企業にも連鎖的な影響を及ぼす可能性があります。

さらに注意したいのが、こうした半導体・ハイテク関連株が日経平均株価に与える影響の大きさです。

アドバンテストや東京エレクトロンなどの大型ハイテク株は、日経平均株価を構成する銘柄の中でも、指数への影響度が大きいことで知られています。

そのため、米国のテック株安を受けて、これらの銘柄が一斉に下落すると、自動車や食品など、ほかの業種の株価が比較的堅調であっても、日経平均株価全体が大きく押し下げられる可能性があります。

つまり、米国のAI市場の動向は、半導体関連企業だけの問題ではありません。日本の株式市場全体を左右する要因にもなり得るのです。

●  一方で、トランプ政権への歯止めが日本にプラスとなる可能性も
ただし、民主党が議会の主導権を握ることは、日本にとってマイナス面ばかりではありません。

例えば、トランプ政権が検討する過激な軍事行動や、イランへの攻撃計画などに対して、民主党が議会で強い歯止めをかける可能性があります。

中東情勢が緊迫すれば、原油価格の高騰を招き、日本のエネルギー輸入にも大きな影響を与えかねません。

反対に、米国の軍事行動が抑制され、中東情勢の悪化を回避できれば、原油価格の急騰リスクが和らぎ、日本のエネルギー供給の安定にもつながります。

このように、民主党が議会の多数派を奪還することには、AI関連株を中心とした日本株への下押し圧力という懸念がある一方、国際情勢の安定を通じて日本にプラスの効果をもたらす可能性もあります。

米国の中間選挙は、単にトランプ大統領の政権運営に対する国民の評価を問うだけの選挙ではありません。その結果次第では、AI産業の成長、世界の株式市場、さらには中東情勢やエネルギー価格にまで影響が広がります。

米国の政治が変われば、世界経済も動きます。そして、その影響は日本の株式市場やぼくたちの暮らしにも及んできます。

2026年の中間選挙の結果だけでなく、その後のトランプ政権の政策運営や世界経済への波及についても、引き続き注目していきたいと思います。

参照:トランプ氏「われわれは世界中の笑いものだった」と主張「ばかだと思われていた」とも