朝日新聞出版は11月1日、東京新聞記者の望月衣塑子(もちづき・いそこ)氏と思想家の内田樹(うちだ・たつる)氏による共著『常識なき世界を生き延びるために』について、書籍の回収と販売中止を正式に発表しました。
同書を巡っては、「日本中学生新聞」の創刊者である川中だいじ氏に関する記述に複数の事実誤認があったことが判明し、SNS上で批判が相次いでいました。
● 掲載されたエピソードの多くが事実と異なる
川中だいじ氏は2010年生まれ、大阪市出身です。2023年に「日本中学生新聞」を創刊し、将来は政治家またはジャーナリストを目指しています。現在は高校1年生です。
朝日新聞出版によると、発行部数2万部のうち、書店の在庫など約8000部を回収します。また、電子書籍についても順次販売を停止する方針です。
同日、望月氏は自身のYouTube番組で生配信を行い、今回の問題について「最大の責任は私にある」と述べ、謝罪しました。所属する東京新聞も、記者活動の根幹に関わる重大な問題として受け止めているとのコメントを発表しています。
問題が表面化したきっかけは、川中氏が書籍に掲載された自身に関する記述の誤りを出版社に指摘したことでした。
10月28日、川中氏はXに「望月氏がぼくに関して話をしている内容のほとんどが事実ではありません」と投稿しました。
具体的には、「小学生のときに学校に新聞を張り出したところ、先生に剥がされた」「外務省に取材を申し込んだものの、メディアの記者ではないという理由で断られた」といったエピソードです。川中氏は、これらがいずれも事実ではないと説明しました。
その後の報道によると、「周囲の子どもたちから『老害』と言われた」という記述など、少なくとも4カ所に誤りが見つかったとされています。
この問題に対し、Xでは同業者からも厳しい意見が寄せられました。元朝日新聞記者の峯村健司氏は「本人に一本確認すれば防げた話」と指摘。ノンフィクションライターの石戸諭氏も「ここまで事実を曲げるのはダメでしょう」と批判しました。
● 出版社の対応の遅れにも批判が集中
問題発覚後、出版社の対応が遅れたことも批判の対象となりました。
10月31日、朝日新聞出版は公式サイトに「お詫びと訂正」を掲載しました。しかし、この時点では対象書籍の販売が継続されており、対応の不十分さを指摘する声が上がっていました。
川中氏も「いま現在も、ぼくの間違った情報が書かれたままの本が書店に並び、ネット書店でも売られ続けています」と投稿し、改善を求めました。弁護士の紀藤正樹氏をはじめ、複数の有識者からも出版社の初動の遅さを問題視する意見が出ています。
事態が大きく動いたのは11月1日です。
まず、共著者の内田氏がXで書籍の回収を報告しました。その際、「川中君から指摘を頂いてからの出版元の初動が遅すぎたと僕も思います」と述べ、出版社の対応に苦言を呈しています。
その後、朝日新聞出版も正式に回収と販売中止を発表しました。
同社は「編集作業の過程における点検が不十分で、誤った記載に気づくことができませんでした」と説明し、編集段階での確認不足を認めました。
さらに、「訂正の申し入れを受けてから回収方針を決めるまでに時間を要し、川中様とご家族に大変なご迷惑とご心労をおかけしましたことを誠に申し訳なく思っています」とコメントし、対応の遅れについても謝罪しています。
回収の対象となるのは、発行部数2万部のうち約8000部です。すでに購入された書籍については、今後対応を検討するとしています。
● 映画『新聞記者』の原案者としても知られる望月衣塑子氏
望月衣塑子氏は東京都生まれです。父親は業界紙の記者、母親は演劇関係者という家庭で育ちました。
小学生の頃に児童劇団へ入団し、小学6年生のときには地元の児童劇団の発表会でミュージカル『アニー』の主役を演じています。当時は舞台女優を目指していました。
しかし、中学生のときに母親から薦められた吉田ルイ子氏の著書『南ア・アパルトヘイト共和国』を読んだことが転機となります。同書に強い衝撃を受けた望月氏は、新聞記者を志すようになりました。
慶應義塾大学法学部を卒業後、1998年4月に中日新聞社へ入社し、東京本社に配属されました。事件記者として殺人事件や武器輸出問題などを取材し、その後は官房長官記者会見での鋭い質問姿勢によって広く知られるようになりました。また、映画『新聞記者』の原案者としても注目を集めています。
これまで、武器輸出三原則の転換に伴う日本の武器輸出や防衛産業の実態、大学などにおける軍学共同(軍事研究)の問題を重点的に取材してきました。
そのほか、森友・加計学園問題を巡る政治とカネの問題、官邸の不祥事、報道業界における性被害やセクハラ問題なども主要な取材テーマとしています。
望月氏は、国内の新聞記者の中でも知名度が高く、発言や取材活動がたびたび注目を集める人物です。一方で、その取材姿勢や報道活動に対しては、以前から賛否両論がありました。
そうした中で、今回の共著を巡る事実誤認が発覚し、最終的に書籍の回収と販売中止にまで発展したことは、望月氏にとって決して小さくない問題です。
とりわけ、事実確認を重視すべきジャーナリストが関わった書籍で、取材対象者に関する複数の誤った情報が掲載されていた点は深刻です。今回の一件は、望月氏個人だけでなく、共著者や出版社の編集・確認体制にも疑問を投げかける結果となりました。
今後、望月氏が今回の問題にどのように向き合い、信頼回復に取り組んでいくのかが注目されます。
参照:東京新聞・望月衣塑子記者の対談本回収 朝日出版公表、中学生新聞の川中さん巡る誤記述
望月衣塑子氏の共著8000部を回収 望月氏は生配信で謝罪
