『限りなく透明に近いブルー』で芥川賞を受賞し、『愛と幻想のファシズム』などの作品でも知られる作家、村上龍さんが10月17日、自宅で亡くなりました。74歳でした。
● テレビでの村上龍さんの思い出
村上龍さんについて思い出すのは、タモリが司会を務めていた『笑っていいとも!』の「テレフォンショッキング」です。村上さんがゲストとして出演した際、タモリが「顔がでかいねぇ~」と口にした場面を、今でも覚えています。
芥川賞作家に向かって、なんてことを言うんだ!と思いながらも、思わず笑ってしまいました。大御所の作家を相手にしても遠慮のないタモリの言葉が、妙におかしかったのです。
もうひとつ印象に残っているのが、村上さん自身がホスト役を務めていた対談番組です。ゲストに誰が出演していたのかは忘れてしまいましたが、ある女優との対談中、会話が途切れて気まずい沈黙が流れたことがありました。
すると、その女優が困ったような表情で、村上さんに尋ねました。
「いつも、こんな風なんですか?」
村上さんは苦笑しながら、「そうですよ。こんな感じです」と正直に答えていました。
対談番組といえば、司会者が巧みに話題を振り、ゲストから面白い話を引き出していくものだと思っていました。しかし、村上さんの番組では、会話が途切れたまま気まずい空気が流れることもあるのです。そんな番組があるのかと、妙に感心した記憶があります。
同時に、タモリさんのような芸人や、場を仕切ることに慣れたアナウンサーが、いかに巧みに会話を進めているのかを実感した瞬間でもありました。
● 村上龍監督の『トパーズ』
村上龍さんについて、文学作品以外で思い出すことといえば、こんな具合に少々変わったエピソードばかりです。ただ、映画作品には好きなものがあります。
村上さんが原作・脚本・監督を務めた映画『トパーズ』です。
この作品では、写真家の加納典明さんが役者として出演しており、独特の存在感を放っていました。なかなかいい味を出していたのが印象的です。
映画の舞台となるのは、バブル景気末期の東京です。金を持て余した男たちの歪んだ欲望が描かれており、当時の時代の空気も含めて、好きな作品でした。
● 村上龍原作『オーディション』
そして今日、久しぶりに村上龍さんの原作を三池崇史監督が映画化した『オーディション』を見ました。
この映画の面白さは、前半と後半で作品の印象が一変するところにあります。前半は穏やかな人間ドラマとして進んでいきますが、後半になると一転して、凄惨なサイコホラーへと変貌します。この大胆なジャンルの転換こそ、本作の大きな見どころです。
物語の主人公は、妻を亡くしたビデオ制作会社の社長、青山(石橋凌)です。再婚を考えた彼は、友人の協力を得て、映画制作を装った偽のオーディションを開催します。応募してきた女性たちの中から、自分の再婚相手を探そうというわけです。
まず興味を引かれるのが、この相手探しの方法です。
履歴書や写真を見比べながら、何人もの女性の中から自分好みの相手を絞り込んでいきます。いわば、条件を確認しながら理想の相手を選んでいくわけです。通常の出会いとは異なる、いかにも効率的な方法ですが、相手の内面を知る前に、経歴や外見から選別していく発想が面白いと感じました。
青山はオーディションを通じて、妖艶な魅力を持つ山崎麻美(しいなえいひ)と出会い、次第に彼女に惹かれていきます。しかし、麻美には恐ろしい秘密が隠されていました。物語は後半に向かうにつれて不穏さを増し、やがて目を背けたくなるような恐怖へと突き進んでいきます。
特に印象的なのは、中盤で麻美が自宅にこもり、一本の電話を待つ場面です。ここを境に、映画はそれまでの現実的な人間ドラマから、現実と幻想の境界が曖昧になる前衛的なスリラーへと姿を変えます。
夢なのか現実なのか判然としない描写に加え、時系列まで入り乱れていく展開は、観客を不安な感覚へと引き込んでいきます。ただ、個人的には、この演出は少々くどく感じました。
現実と幻想を入り交じらせ、時間の流れを複雑にすることで不気味さを演出しているのはわかります。しかし、実際に起きた出来事を時系列に沿って描くだけでも、十分に面白い作品になったのではないかと思います。むしろ、物語そのものが持つ恐ろしさを、もっとストレートに味わいたかった気もします。
とはいえ、終盤の恐怖描写は強烈です。
麻美が「キリキリキリ……」と歌うような声を上げながら、笑顔で男の体や顔に長い針を刺していく場面には、思わず身がすくみます。さらに、長いワイヤーを巻き付け、両腕で引っ張って足を切断する場面まで登場します。
こうした容赦のない残虐描写が次々と続くため、さすがに途中でお腹いっぱいになってしまいました。恐怖を通り越して、もう勘弁してほしいと思うほどです。
それでも、観客の予想を裏切る展開と、後半に向かって加速していく異様な恐怖は、本作ならではの魅力でしょう。海外の映画祭やメディアでも恐ろしいホラー映画として評価され、カルト的な人気を集めているのも納得できます。
村上龍さんの作品には、時代の空気や人間の欲望を生々しく描くものがあります。『トパーズ』ではバブル期の東京に渦巻く欲望を描き、『オーディション』では、理想の相手を求める男の願望が、やがて想像を絶する恐怖へと変わっていきます。
そんな作品を振り返ると、村上龍という作家が描いてきた人間の欲望の危うさが、改めて浮かび上がってくるように感じます。
