米ニューヨーク州にある名門コーネル大学で、女子学生が複数の男子学生から集団レイプされたと訴えている事件が、全米で大きな波紋を広げています。

問題となっているのは、性暴力そのものだけではありません。事件をめぐる警察や検察の対応、大学が下した処分、さらには学内に根付いていたとされる文化にも批判が集まっています。

事件が起きたのは2024年10月です。それから約2年が経過した2026年秋、大学の対応に抗議する動きは全米規模へと拡大しました。なぜ今になって、学生や教職員らの怒りが一気に噴き出したのでしょうか。

● 1000人以上が抗議 著名人も被害を訴える女性に連帯
10月5日、コーネル大学のキャンパスには学生や教職員ら1000人以上が集まり、大学側の対応に抗議しました。報道によると、歌手のオリヴィア・ロドリゴさんや俳優のフローレンス・ピューさんら著名人も、女性への連帯を表明しています。

抗議活動で掲げられた要求は、大きく3つです。

大学が事件への対応を検証すること、関係した男子学生に対してより厳しい処分を科すこと、そしてコトリコフ学長が辞任することです。

デモに参加した学生たちの胸には、「Jane Doe(ジェーン・ドウ)」と書かれたシールも見られました。

ジェーン・ドウとは、米国の裁判などで、身元を公表しない女性を指す際に使われる仮名です。今回、被害を訴えている女性も、裁判ではこの名前を使用し、実名を伏せています。

学生たちは「I am Jane Doe(私がジェーン・ドウだ)」というスローガンを掲げ、性暴力の被害を訴える女性への連帯を示しました。

デモに参加した学生の一人は、次のように語っています。

「性被害は誰にでも起こり得ます。被害に遭っていたのは、私だったかもしれません。声を上げることで、この問題がどれほど深刻なのかを伝えたいです」

抗議活動の背景にあるのは、事件の真相究明を求める声だけではありません。被害を訴えた女性の声が十分に受け止められず、大学側の対応にも問題があったのではないかという不信感が、学生たちの間で広がっているのです。

● 事件は2024年10月に発生 女性が訴えた集団レイプ
事件が起きたのは、2024年10月19日から20日にかけてです。

当時、コーネル大学に在籍していた女性は、友人に会うため、大学内の男子学生社交クラブ「フラタニティ」の施設を訪れました。

女性は民事訴訟で、同意できる状態ではなかったにもかかわらず、7人の男子学生から酒や麻酔薬のケタミンを強要され、数時間にわたって集団レイプされたと主張しています。

一方、刑事事件としては、検察が当初、性的行為が強制されたと判断するには至らないとして、訴追を見送っていました。

その後、2026年9月に女性が男子学生らと大学を相手取り、民事訴訟を起こしたことで、事件は再び注目を集めます。大学新聞が訴訟について報じたことも、問題が広く知られるきっかけとなりました。

AP通信によると、女性は大学の学内調査で、当時の状況について次のように説明しています。

「自分が餌になったように感じました。周囲にはライオンがいるようでした。本当に身動きが取れなくなるような状況でした」

訴状には、男子学生らがメッセージアプリで女性についてやり取りし、ほかの男子学生を呼び込むようなメッセージを送っていたとの記述もあるといいます。

こうした内容が明らかになるにつれ、事件そのものに加え、学生たちの間でどのようなやり取りが行われていたのか、大学がその実態をどこまで把握していたのかという点にも関心が集まりました。

● 性暴力を軽視する風潮か フラタニティをめぐる問題
事件を考えるうえで、重要な論点の一つとなっているのが「フラタニティ」の存在です。

フラタニティとは、米国やカナダの大学にある男子学生を中心とした会員制の社交組織です。メンバーが共同生活を送る施設を備えている場合もあり、学生同士の交流やパーティーなどの活動が行われています。

施設には食堂やバーカウンター、パーティーに使われる広いリビングなどが設けられていることもあります。

米国では、歴代大統領や大企業の経営者、法曹界の著名人などが、学生時代に有力なフラタニティに所属していた例もあります。そのため、一部の組織は人脈形成の場としても知られています。

しかし、フラタニティをめぐっては、以前から深刻な問題も指摘されてきました。

新入会員に大量の飲酒を強要したり、精神的・肉体的な苦痛を与えたりする「ヘイジング」と呼ばれるしごきやいじめです。こうした行為によって死者が出る事件も、米国内で繰り返し発生しています。

また、男子学生だけの閉鎖的な環境では、女性を軽視する考え方や、性暴力を自慢話のように語る風潮が生まれる危険性も指摘されています。

今回の事件をめぐっても、フラタニティのメンバー50人以上が参加するグループチャットで、女性への性的暴行をほのめかすようなメッセージが共有されていたと報じられています。

その中には、「上の階でタダでヤれるぞ」「野郎ども、ここに来て出しちまえ」といった、女性を人間として尊重していないと受け取れる表現もあったとされています。

大学側も、こうしたやり取りをめぐる問題について「文化的な課題」として認識していたといいます。

ただし、フラタニティ全体が同じ問題を抱えていると一括りにすることはできません。問われているのは、今回の事件に関係した学生たちの行動に加え、性暴力を軽視するような風潮が存在していたのか、そして大学が問題を把握しながら十分な対応を取っていたのかという点です。

名門大学の学生であり、将来の政財界を担う人材も集まるとされるコミュニティで、深刻な疑惑が浮上したことは、大学の社会的責任にも関わる問題となっています。

● 大学警察の聞き取り記録に疑問 供述書から証言が抜けていた?
事件への批判が高まるなか、大学警察の対応にも疑問の声が上がりました。

大学警察とは、大学の構内などを管轄し、治安維持や事件への対応を担う警察組織です。大学との関係が深い場合もあり、その独立性や対応の適切さが問題になることがあります。

女性は大学警察による聞き取りで、レイプの被害に遭ったことについて「100%の確信で、レイプされたと言えます」と話していたとされています。

ところが、現地メディアの報道によると、聞き取りの記録は約120ページに及んでいた一方、検察に提出された供述書は6ページにまとめられており、女性が「レイプされた」と明言した証言が記載されていなかったといいます。

この食い違いをめぐり、捜査の過程で女性の証言が適切に扱われたのか、疑問が広がりました。

大学側は独自に調査を行い、関係した7人の男子学生に対して処分を決定しました。

報道によると、処分の内訳は次のとおりです。

2人:退学処分

2人:一定期間、登校や講義への出席を禁止する停学処分

1人:学内調査の結論が出た時点ですでに卒業していたため、大学への立ち入りを禁止

2人:セクシュアルハラスメントやSNSの利用に関する講習の受講と反省文の提出

最後の2人については、グループチャットのメッセージを読んで部屋に入ったものの、女性に対する直接的な身体的暴行は行っていなかったと大学側が判断したとされています。

こうした処分に対しては、性暴力に関する問題の深刻さに比べて対応が甘いのではないかという批判が噴出しました。特に、事件に関与したとされる学生の一部に対して、退学ではなく教育的な処分にとどめた点が、強い反発を招いたとみられます。

学生たちが求めているのは、単に処分を重くすることだけではありません。大学がどのような基準で調査を行い、何を根拠に処分を決定したのか、判断の過程を明らかにすることも重要な要求となっています。

● 大学は組織を守ろうとしたのか 警察・検察の対応にも批判
事件をめぐる不信感は、大学の処分だけにとどまりません。

女性が被害を訴えたにもかかわらず、刑事訴追が見送られたことや、大学側の処分が十分だったのかという問題を通じて、警察や検察、大学の対応そのものが問われるようになりました。

一部の批判者は、大学が自らの評判や組織の利益を優先し、事件の深刻さを十分に受け止めなかったのではないかと疑っています。

また、大学警察が大学の組織的な影響下にあることから、大学を守るために事件を小さく扱おうとしたのではないかという疑念も浮上しました。

問題の解明に向けた動きは、州政府にも広がりました。

ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は、コーネル大学警察の対応について「深く憤りを感じています」と批判しました。

さらに、州の司法長官を特別検察官に任命し、捜査を引き継ぐと発表しました。

当初は刑事訴追が見送られた事件が、大学の調査や処分、捜査記録をめぐる疑問によって再び焦点となり、州政府が関与する事態へと発展したのです。

一連の対応が適切だったのかどうかは、今後の捜査や検証によって明らかにされる必要があります。

● ネット上で「犯人探し」が過熱 無関係の男性にも誹謗中傷
事件への怒りが広がる一方で、別の深刻な問題も起きています。インターネット上で、関係者とされる学生の身元を突き止めようとする動きが過熱し、事件とは無関係の人々まで誹謗中傷を受けているのです。

SNSなどでは、公開情報を調べて人物を特定しようとする人々が現れました。しかし、名前が一致しただけで事件の関係者だと誤認され、攻撃の対象になるケースも報告されています。

米メディアは、7人のうちの一人として韓国人留学生のウィンストン・リー氏を特定したと報じています。

ところが、同じ名前を持つ人は世界中にいます。事件とは無関係であるにもかかわらず、同姓同名という理由だけで非難された男性もいました。

その一人は中国系米国人の男性です。ビジネス向けSNS「LinkedIn」のプロフィールによると、男性はニューヨークを拠点とする金融業界の専門職で、2020年にコーネル大学を卒業していました。事件が起きたとされる2024年には、すでに社会人として働いていたといいます。

それにもかかわらず、男性のもとには、事件の加害者だと決めつけるメッセージが相次いで届きました。

その一つには、次のような言葉が記されていました。

「もう逃げ隠れできないぞ。お前の人生は終わりだ」

別のメッセージには、刑務所に入るべきだと決めつけたうえで、男性自身が集団レイプの被害に遭うことを望むような、極めて攻撃的な内容が書かれていたといいます。

さらに、「黒魔術」で呪いをかけたとするメッセージまで届きました。

男性はTikTokのプロフィール欄に「コーネル7」、つまり事件の加害者とされる7人の学生ではないと明記し、誤認を否定しています。

また、TikTokに投稿した動画では、自分の電話番号と両親の住所をインターネット上に公開した女性を訴えるため、弁護士を雇ったと明かしました。

事件の真相究明を求める声が高まる一方で、無関係の人物が個人情報をさらされ、脅迫や嫌がらせを受けるという新たな被害が生まれているのです。

● インドネシア人男性も被害に 「人物を確認してから行動して」
同様の被害は、インドネシア人のウィンストン・リーさんにも及びました。

事件の関係者と誤認されたことで、憎悪に満ちたメッセージが大量に届いたといいます。

リーさんはTikTokを通じて、自分は事件で名前が挙がっている人物とは別人だと訴えました。

「私はインドネシア人です。最近のコーネル大学の事件で名前が挙がっているウィンストン・リーではありません」

さらに、他人を非難する前に、本人かどうかを確認するよう呼びかけました。

「誰かに連絡したり、タグ付けしたり、非難したりする前に、捜している人物の身元を確認してください」

こうした事例は、SNSでの情報拡散が、誤った人物への攻撃につながる危険性を示しています。

ポッドキャスト番組の司会者ブラッド・ポルンボ氏も、ネット上で社会正義を掲げる人々が、事件とは無関係の人物にまでメッセージを送り、嫌がらせをしていると指摘しました。

また、事件をめぐる責任は、刑事訴訟や公正な手続きによって明らかにされるべきだとし、インターネット上での集団攻撃によって誰かを裁くべきではないと主張しています。

陰謀論を研究するマイク・ロスチャイルド氏も、AFPの取材に対し、こうした誤認は混乱した情報環境をさらに悪化させると警告しました。

不確かな情報が広がれば、誤った手掛かりが生まれ、実際の捜査を妨げる恐れもあります。

事件の真相を明らかにするための行動が、結果として無関係の人々を傷つけ、正確な情報の把握を難しくしてしまう。そこには、インターネット時代ならではの深刻な矛盾があります。

● 被害を訴えた女性にも影響 ネット上の攻撃がもたらす二次被害
ネット上での犯人探しや誹謗中傷は、誤認された人々だけの問題ではありません。

今回、被害を訴えている女性も、精神的に大きな負担を抱えているとされています。

女性は「ジェーン・ドウ」という仮名を使い、実名を公表せずに裁判に臨んでいます。しかし、事件をめぐる情報がインターネット上で拡散し、関係者の特定や非難が過熱すれば、女性のプライバシーや精神的な安定にも影響を及ぼしかねません。

性暴力の被害を訴える人にとって、被害そのものに加え、周囲からの詮索や中傷、社会的な反応がさらなる負担となることがあります。

事件の真相究明や責任の追及は重要です。しかし、その過程で無関係の人々を傷つけたり、被害を訴える女性をさらに追い詰めたりすることがあってはなりません。

誰かを加害者だと決めつける前に、情報の正確性を確認すること。そして、司法手続きによって事実関係が明らかになるまでは、憶測に基づく攻撃を避けることが求められます。

● 問われているのは事件の真相だけではない
コーネル大学の事件をめぐる抗議活動は、単に一つの大学で起きた性暴力疑惑に対する反発ではありません。

そこには、性暴力を軽視する風潮への怒り、大学の調査や処分に対する不信感、警察や検察の対応への疑問、そしてインターネット上での過剰な犯人探しという、複数の問題が絡み合っています。

学生たちが求めているのは、事件の真相を明らかにすることだけではありません。大学が被害の訴えにどう向き合い、関係者の責任をどのように判断したのか、その過程を検証することも重要な課題です。

なぜ事件から約2年が経過した今、抗議の声がこれほど大きくなったのか。その背景には、事件そのものに加え、初期対応への疑問や大学の処分に対する不満、そして情報が広がるなかで新たに生じた問題があります。

今後求められるのは、感情的な非難や憶測ではなく、客観的な証拠に基づく検証と、公正な手続きによる責任の追及です。被害を訴える女性の権利を守ることと、無関係の人々を誤認による攻撃から守ること。その両方を実現できるかどうかが、事件をめぐる社会の対応に問われています。

参照:「レイプされた」証言が消えた…アメリカのコーネル大で1000人が抗議“7人から集団性暴力”
   米コーネル大集団レイプ疑惑、被告と同姓同名の中国系男性らに風評被害