久しぶりに「ザ!世界仰天ニュース」を見ました。10月20日の放送では、元看護師の久保木愛弓(くぼき・あゆみ)による連続殺人事件が取り上げられていました。

この番組の魅力は、事件の再現ドラマがわかりやすく、丁寧に描かれている点です。出演する俳優には、誰もが知るような有名な人がそろっているわけではありませんが、それぞれが個性のある演技を見せており、見応えがあります。

今回、旧大口病院連続点滴中毒死事件の再現ドラマで、犯人の久保木愛弓役を演じたのは、女優の玉城摩莉奈(たましろ・まりな)さんです。所属事務所の公式プロフィールでは、「太陽のような明るさを持つ」「底抜けに明るく力強い笑い声」と紹介されています。実際の事件で浮かび上がる犯人の陰湿なイメージとは対照的に、非常に明るく前向きな人物のようです。また、自らを「マシュマロ女子」と称している点も印象的です。

「マシュマロ女子」とは、マシュマロのようにふんわりと柔らかい印象を持つ、ぽっちゃり体型の女性をポジティブに表現する言葉です。自分の体型をコンプレックスとして捉えるのではなく、個性や魅力のひとつとして受け入れ、前向きに楽しむ姿勢を表しているのでしょう。

● 自分の勤務時間外に患者が亡くなるよう仕向けた犯行
今回、番組で取り上げられたのは、2016年に横浜市の旧大口病院で発生した連続点滴中毒死事件です。元看護師の久保木愛弓は、入院患者の点滴に消毒液を混入し、患者を死亡させたとして、殺人などの罪に問われました。



この事件で特に衝撃的なのは、犯行の動機です。久保木は、自分の勤務時間中に患者が亡くなると、遺族から対応の悪さなどを責められたり、死亡に至った経緯を説明したりしなければならなかったりすることを、面倒で苦手だと感じていたとされています。

そこで、自分が勤務していない時間帯に患者が亡くなるよう、点滴に消毒液のヂアミトールを混入していました。患者の命を守る立場にある看護師が、自分の業務上の負担や精神的なストレスを避けるために患者を殺害したのです。その身勝手な動機と、患者の命を軽視した行為は、医療従事者としての倫理観を大きく逸脱するものでした。

事件が起きた病棟は、主に終末期の高齢患者を受け入れていました。こうした医療現場では、患者の容体が急変したり、亡くなったりすることも珍しくありません。そのため、事件が発覚するまでの数カ月間に不審な死亡が相次いでいたにもかかわらず、現場では高齢や持病の悪化が原因だと受け止められ、異変の発見や警察への通報が遅れたとされています。

久保木自身も、過去に別の病院で遺族から叱責された経験を引きずっていたほか、同院での看取り業務による精神的な負担を抱え、うつ状態にあったとされています。しかし、こうした問題を抱える職員を適切に支援する仕組みが、十分に機能していたのかという疑問も残ります。

さらに、事件が起きる前から、院内では看護師のエプロンが切り裂かれたり、飲み物に異物が混入されたりするなど、不審なトラブルが続いていたといわれています。それにもかかわらず、病院側が十分な防犯対策を講じていなかった点も、事件を考えるうえで見過ごせない問題です。

裁判では、久保木に自閉スペクトラム症(ASD)の特性があり、それが他者への共感や問題解決の視野の狭さなどに影響したと判断されました。2021年11月9日の判決では、完全責任能力が認められた一方、生まれ持った特性やうつ状態など、本人の努力だけでは対処が難しい事情も犯行に影響したとされました。こうした事情を踏まえ、裁判所は極刑を回避しました。

● 40人以上の患者が犠牲になった可能性
この事件には、起訴された3人の患者以外にも、さらに多くの犠牲者がいたのではないかという疑惑が残っています。

事件が発覚した2016年9月までの約3カ月間、久保木が勤務していた旧大口病院の4階病棟では、計48人の入院患者が亡くなっていました。終末期の患者が多い病棟だったとはいえ、短期間にこれほど多くの死亡が集中したことから、当時は異常事態として注目されました。

2018年に逮捕された際、久保木は警察の取り調べに対し、20人以上の患者の点滴に消毒液を混入したという趣旨の供述をしたと報じられています。こうした供述を受け、警察は起訴された3人以外にも被害者がいる可能性を視野に入れ、捜査を進めました。

しかし、その後の公判で、起訴された3人より前にも点滴に消毒液を混入したのかと問われると、久保木は「お話ししたくありません」と答え、詳細な説明を拒んだとされています。

ここで注意したいのは、病棟で亡くなった48人全員が殺害されたと確認されているわけではないことです。久保木による犯行の疑いが持たれた患者がほかにもいたとしても、実際に何人が被害に遭ったのかは、確認された事実と未解明の疑惑を分けて考える必要があります。

仮に40人以上の殺害が立証されていたとすれば、日本の犯罪史においても極めて重大な連続殺人事件となります。比較対象として、2019年の京都アニメーション放火殺人事件では36人が亡くなっています。


● いまだに多くの疑問が残る事件
今回、久しぶりに「ザ!世界仰天ニュース」を見て、改めてこの事件の異常さと深刻さを感じました。

自分が遺族への対応に苦手意識を持っていたという理由で、患者の命を奪う。しかも、犯行がすぐには発覚せず、短期間に多くの患者が亡くなっていた可能性があるという点は、あまりにも衝撃的です。

また、起訴された3人以外に被害者がいたのか、久保木がどこまで犯行を重ねていたのかなど、事件をめぐっては今なお疑問が残ります。

患者の命を預かる医療現場で起きたこの事件は、決して忘れてはならない出来事のひとつです。再現ドラマを通じて事件を知ることは、その恐ろしさだけでなく、医療現場の安全や組織のあり方について考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。

参照:ザ!世界仰天ニュース 次々患者が亡くなる…横浜の病院で起きた連続殺人の真実
   黒い看護師・久保木愛弓の連続殺人