ケニアで、カルト教団の信者が集団で餓死するという痛ましい事件が起きました。子ども190人と成人1人に対する殺人罪などに問われた教祖のポール・マッケンジー被告ら約30人に対し、高等裁判所は10月19日、有罪判決を言い渡しました。

● これまでに429人の遺体が見つかる
マッケンジー被告は、ケニア東部のマリンディ近郊にあるシャカホラの森で、キリスト教の終末論を説く「グッド・ニュース・インターナショナル教会」を主宰していました。同被告は「餓死すればイエス・キリストに会える」と信者に教え、断食を強要していたとされています。

「餓死すること」と「イエス・キリストに会えること」を結びつける教えは、常識では到底理解しがたいものです。しかし、教祖は宗教的な救いを求める人々の心理につけ込み、死を天国へ至る手段として信じ込ませていきました。

さらに、信者に対して、この世の財産には価値がないと説き、家や土地を含むすべての財産を売却して教団に献金するよう迫りました。その結果、信者たちは生活の基盤だけでなく、教団から離れて新たな生活を始めるための経済的な手段まで失っていきました。財産を手放したことで、教団から抜け出すことがいっそう困難になったのです。

信者から財産を取り上げた後、教祖は「イエスに会うための具体的なスケジュール」を示し、断食を実行させました。

マッケンジー被告は「2023年8月に世界が滅亡する」と予言し、その前に断食によって命を絶てば、悪魔に汚されることなく、天国で誰よりも早くイエス・キリストに迎えられると説明していたといいます。

さらに、「3月は子どもが死ぬ月」「5月は女性が死ぬ月」といった具合に、誰がいつ死ぬのかまで細かく定めていました。こうした独自の規則によって信者の死を計画的に進め、集団での餓死を引き起こしたとされています。

シャカホラの森では、2023年4月に遺体の発掘が始まり、これまでに429人の遺体が見つかっています。今後の捜査によって新たな事実が明らかになれば、マッケンジー被告らが追加で起訴される可能性もあります。

● 断食の強要を超えた、組織的な「虐殺」
この事件で行われたのは、単に断食を強要する行為にとどまりませんでした。信者が死に至る順序まで決められ、組織的に命を奪う行為が行われていたとみられています。

断食は、抵抗力の弱い子どもから始まり、10代の若者、女性、男性という順番で進められました。そのため、犠牲者の多くを子どもが占めています。また、森の中には見張り役が配置され、空腹に耐えられず逃げ出そうとする信者や、食べ物を口にしようとする信者の行動が厳しく制限されていました。

検視の結果、すべての犠牲者が断食によって死亡したわけではないことも判明しています。一部の子どもや信者は、窒息させられたり、首を絞められたり、頭部にけがを負わされたりして死亡していました。つまり、この事件では断食を強制するだけでなく、暴力によって命を奪う行為も行われていたのです。

犠牲者の多くは、新型コロナウイルスのパンデミックによって経済的な打撃を受けた人々や、薬物依存に苦しんでいた人々でした。生活に困窮し、十分な社会的支援も受けられない人々に対し、教団は「救い」を提供するかのように接近し、信者を獲得していきました。

薬物依存などの苦しみから解放されたと感じた人々は、やがて教団や教祖に強く依存するようになったと考えられます。信者の判断力を奪うようなマインドコントロールが進む一方、教団は現代医療や公教育を否定し、信者を社会から切り離していきました。外部の情報や支援に触れる機会が失われたことで、教祖の教えに疑問を抱いたり、教団から脱出したりすることが難しくなったとみられます。

● 行政や治安当局の対応にも批判
事件の拡大を防げなかった行政や治安当局の対応にも、厳しい批判が集まりました。ケニアのウィリアム・ルト大統領自身も、政府機関が事件を未然に防げたはずだと認めています。

マッケンジー被告は、2017年にも子どもたちを集団生活させていた疑いで逮捕され、2019年には政府から教会の閉鎖を命じられていました。それにもかかわらず、その後も司法や警察の監視を逃れ、信者たちをシャカホラの森に集団で移住させて活動を再開。さらに、教団の活動を過激化させていきました。

過去に問題が表面化していたにもかかわらず、当局が十分な対応を取れなかったことは、被害が拡大した要因のひとつと考えられます。宗教活動の自由を尊重することと、信者の生命や安全を守ることをどのように両立させるのか、行政や司法のあり方が問われる事件となりました。

● 繰り返されるカルト教団による集団殺害
カルト教団による集団殺害は、今回の事件だけではありません。1978年には南米ガイアナで人民寺院事件が発生し、2000年には東アフリカのウガンダで「神の十戒復古運動」による集団死亡事件が起きました。いずれも900人以上が死亡したとされています。

「グッド・ニュース・インターナショナル教会」の事件は、犠牲者数の面でも世界で3番目の規模とされています。

これらの事件に共通するのは、教祖の言葉や独自の教義が絶対視され、信者が外部社会とのつながりを失っていくことです。生活に困難を抱え、救いを求めて教団に近づいた人々が、いつの間にか自分自身や家族の命を危険にさらす状況へ追い込まれてしまいます。

今回の事件は、弱い立場にある人々が過度な支配にさらされる危険性と、被害を防ぐための社会的な監視や支援の重要性を改めて示しています。