米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、FBIと地元警察による大規模な捜索が進められています。対象となっているのは、赤茶色のレンガで造られた3階建ての住宅です。全米の注目を集めるこの家は、いつしか「恐怖の館」と呼ばれるようになりました。

捜査の端緒となったのは、住宅から押収された膨大なデジタルデータです。女性たちを撮影した写真や映像が100万点以上見つかりました。当局は、映像に登場する50人以上の身元を特定しています。その中には、行方不明者として届け出られていた女性が7人含まれており、うち5人については、すでに死亡している可能性があるといいます。

「問題の映像には、性的な内容だけでなく、暴力的な場面も含まれています。窒息させる様子などが、演出ではなく、実際の殺害行為を記録したものではないかと疑われています」

そう説明するのは、大手紙の国際部記者です。

これらの写真や映像を所有していたのは、レイモンド・ホーシュ氏です。ホーシュ氏は2025年、82歳で死亡しました。生前に何をしていたのか、そして残された作品にどのような秘密が隠されているのか。捜査が進むにつれて、その異様な実態が浮かび上がっています。

ホーシュ氏の顔写真も強烈な印象を残します。特に、左目だけを“カッ”と大きく見開いた表情は、一度目にすると忘れがたいものです。

● 「アーティスト」を名乗った男の正体
ホーシュ氏は、自らをアーティストと称し、女性の性的な写真や映像を撮影していました。ポルノ映画の制作に加え、ウェブサイトを運営し、有料会員に向けて自作の作品を公開していたといいます。

「作品のテーマは、拘束や暴力、死、薬物などです。性的な表現と過激な演出を組み合わせたものが中心でした」

自らをアーティストと名乗れば、どのような表現でも芸術として認められるのでしょうか。ホーシュ氏の活動を振り返ると、そんな疑問が浮かびます。彼は本当に、芸術家として活動していたのでしょうか。それとも、その肩書きを利用して別の目的を隠していたのでしょうか。

ホーシュ氏は長年、「Eroto.com」というウェブサイトを運営していました。現在は削除されていますが、ドメインは1990年代に登録されており、インターネットが一般家庭に広がり始めた時期から、自ら撮影した女性の写真や映像を販売していたとされています。

犯罪史の観点からは、連続殺人への関与が疑われる人物です。一方、アンダーグラウンドアートやエロティックアートの世界では、50年以上にわたって創作活動を続けてきた写真家として知られていました。作品を発表するだけでなく、個展も開催していたというのです。

ホーシュ氏は、サドマゾヒズム(SM)やエロティシズムを題材にした写真集を10冊以上出版していました。専門的なアンソロジーにも作品がたびたび収録され、一部のサブカルチャーやエロティックアートの関係者の間では、一定の知名度を得ていたといいます。

事件が明るみに出る前の2014年には、フィラデルフィアのケンジントン地区にあるギャラリー「ペーパーミル(Papermill)」で大規模な個展を開催しました。

地元のオルタナティブ系週刊紙「City Paper」などでも、展示作品が芸術なのか、それとも単なるポルノなのかをめぐる議論が取り上げられ、インディーズアートの関係者の間で話題になりました。

しかし、こうした活動の裏側には、別の顔が隠されていた可能性があります。

● 火葬場にも出入りしていたホーシュ氏
ホーシュ氏は、エロティックフォトグラファーやアーティストを名乗り、過激なSM作品を制作していました。暴力的な拘束や薬物の使用、絞首などを扱った映像を、有料会員制のウェブサイトで公開していたとされています。

作品の販売によって収入を得る一方、芸術やポルノという名目が、実際に行われた犯罪を覆い隠す役割を果たしていた可能性も指摘されています。映像に記録された行為が演出なのか、それとも現実の犯罪なのか。その境界を判別しにくいことが、捜査を難しくしているとみられます。

さらに、ホーシュ氏の自宅地下室には、有害な化学物質やオイル、実験室を思わせる設備があったといいます。捜査では、こうした設備を使い、犠牲者の遺体を化学的に溶解したり、破壊したりしていた疑いも浮上しています。

加えて、ホーシュ氏には、火葬場への出入りをめぐる不審な行動も確認されています。

2000年代初頭、彼はフィラデルフィアのケンジントン地区にあった「リバティ・クリーメーションズ(Liberty Cremations)」という火葬場に出入りしていました。

当時、そこで働いていたジョージ・ニューサムという従業員に対し、ホーシュ氏は現金やクラック・コカインなどの薬物を日常的に渡していたとされています。

その見返りとして、深夜などに施設へ立ち入る許可を得て、保管されていた遺体や遺骨、残骸などを撮影・録画していたといいます。

さらに、火葬場で遺体の処理そのものに関与していた可能性も浮上しています。仮に遺体の処理に関わっていたとすれば、被害者の身元を特定するための物的証拠が失われ、事件の全容解明がいっそう困難になるおそれがあります。

なお、ホーシュ氏に便宜を図っていたとされるニューサム氏は、2014年に死亡しています。

ホーシュ氏が同年に開催した個展では、解剖された遺体が火葬場の焼却炉へ運び込まれる様子を収めた実際の映像も上映されていたといいます。芸術作品として公開された映像の中に、現実の遺体を扱う場面が含まれていたとすれば、その意味は極めて重大です。

● 息子の逮捕から始まった大規模捜査
今回の事件が大きく動き出した背景には、ホーシュ氏の息子の存在がありました。

息子のユージーン・ホーシュ氏(44)も薬物に関わっていたとされます。今年6月、フィラデルフィア中心部で、国立公園のレンジャーが不審なBMWを発見しました。運転していたのはユージーン氏でした。

車内では、同乗していた39歳の女性との間でトラブルが起きていました。さらに、車内からコカインなどの薬物や拳銃、偽造の身分証明書が見つかったといいます。

しかし、捜査の行方を大きく変えたのは、同乗していた女性の身元をめぐる情報でした。

女性が所持していたのは、2023年から行方不明になっていたブレア・トンゼリさんの身分証明書でした。女性本人は、別の事件で逮捕されるのを避けるため、他人になりすましていたとされています。ところが、その際に使っていた身分証が、行方不明者のものだったのです。

さらに、ブレアさんの写真は、ホーシュ氏が運営していたウェブサイトにも掲載されていました。

捜査関係者によると、女性は「地下室が怖い」といった趣旨の話をしていました。また、ユージーン氏もブレアさんについて「二度と姿を見せることはない」といった発言をしたとされています。

こうした複数の情報が重なったことで、警察はホーシュ氏の自宅に重大な疑いを向けることになりました。そして10月に入り、FBIとフィラデルフィア警察が住宅の本格的な捜索に乗り出したのです。

● 数十年に及ぶ疑惑の全容は解明されるのか
ホーシュ氏は、2025年に82歳で死亡するまで、数十年にわたって犯罪に関与していた可能性が指摘されています。

写真家やアーティストとして作品を発表し、個展を開き、有料会員制サイトを運営する。その一方で、暴力的な映像や火葬場との接点、遺体の処理をめぐる疑惑が浮かび上がっています。

もし映像の一部が実際の殺害行為を記録したものなら、事件は単なるポルノ制作をめぐる問題では済みません。行方不明者との関連や、遺体の処理に関する疑惑など、解明すべき問題は数多く残されています。

また、長年にわたって活動していたホーシュ氏を、捜査当局がなぜ早い段階で追及できなかったのかという点も、今後検証が求められます。

「恐怖の館」と呼ばれる住宅に残された記録は、ホーシュ氏の活動の実態を解き明かす手がかりとなるのでしょうか。FBIとフィラデルフィア警察による捜査の進展が注目されます。

参照:《行方不明者7人》性的な映像作品で首を絞められ意識を失っていく女性…演技か殺人か
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