2026年9月、神戸市内で発生した連続銃撃事件。逮捕された亀谷直人(かめたに・なおと)容疑者は79歳という高齢でしたが、その犯行は凄惨なものでした。しかし、この事件を単なる暴力団関係者による殺傷事件として片づけることはできません。

容疑者の過去をたどると、約20年前に日本の司法を揺るがした検察の裏金問題との接点が浮かび上がってくるからです。

亀谷容疑者は、かつては指定暴力団山口組系の佐藤組「六甲連合」の会長を務めていましたが、組織自体はすでに消滅しています。今回の事件を起こす以前にも、重大な殺人事件で服役した経歴があります。

2002年、亀谷容疑者は東京駅付近で、当時の五代目山口組系侠友会幹部だった鶴城丈二氏を拳銃で射殺したとして起訴されました。2004年には懲役20年の実刑判決が確定し、岐阜刑務所などで服役していました。

刑期だけを考えれば、2024年前後に満期を迎える計算になります。ただし、未決勾留日数の算入などによって実際の出所時期は変わります。今回の事件が起きた2026年9月までに刑務所を出ていたことは確かですが、正確な出所時期については、確認された情報に基づいて判断する必要があります。

長い服役生活を終えたはずの高齢男性は、なぜ再び銃を手にし、凶悪な事件を起こしたのでしょうか。その背景には、土地取引をめぐるトラブルだけでなく、過去の事件から続く複雑な人間関係が絡んでいる可能性があります。

● 神戸の街を震撼させた連続銃撃事件
事件が発生したのは9月30日です。神戸市中央区と兵庫区で拳銃による発砲が相次ぎ、男性1人が死亡、もう1人が重傷を負いました。

捜査関係者の説明によると、亀谷容疑者はJR新神戸駅付近で、被害者となった男性2人と合流したとされています。その後、車で神戸市兵庫区にある建設会社社長の自宅へ向かう途中、後部座席から助手席に座っていた赤田正行さんに向けて拳銃を発砲しました。

銃撃を受けた赤田さんは車外へ逃げましたが、命を落としました。亀谷容疑者は、中央区での発砲について「車内で助手席の知人に向けて4発撃った」という趣旨の供述をしているとされています。

赤田さんは、建設業や不動産関連の事業を手がける会社の経営者でした。

しかし、銃撃はそれだけでは終わりませんでした。亀谷容疑者は赤田さんを路上に残したまま、もう一人の男性である荒井幸信さん(54)を脅し、車を運転させ続けたとされています。

車が向かった先は、約4.5キロ離れた神戸市兵庫区の住宅でした。建設会社社長の自宅にあるガレージへ車を突っ込ませて停止させた後、亀谷容疑者は運転席にいた荒井さんを背後から撃ち、右脇腹に重傷を負わせたとされています。

その後の捜査では、死亡した赤田さんに複数の銃弾が命中していたことも判明しました。兵庫区での発砲と合わせ、少なくとも7発以上の銃弾が発射された可能性があります。

では、亀谷容疑者はなぜ赤田さんを襲ったのでしょうか。

● 小豆島の土地取引が犯行の引き金になったのか
事件の動機として浮上しているのが、香川県の小豆島にある土地をめぐる取引です。

「亀谷容疑者は赤田さんを通じて、小豆島に採石場を所有する建設会社に対し、その隣接地を購入してもらえないかと持ちかけていたようです。交渉が思うように進まなかったことが、今回の犯行に関係している可能性があります」

社会部のデスクは、このような見方を示しています。しかし現段階で、土地取引の行き詰まりが犯行の直接的な原因だったと断定することはできません。

兵庫県警の捜査幹部は、赤田さんの過去にも注目しています。

赤田さんは以前、東京・代々木にあった「真珠宮ビル」の跡地をめぐる虚偽登記事件で、その名前が取り沙汰されたことがあったといいます。

このビルの跡地をめぐっては、所有権をめぐる問題が発生し、管理会社の顧問が刺殺されたほか、解体工事の現場に散弾が撃ち込まれる事件も起きました。土地の権利関係をめぐって、さまざまな問題が表面化した物件として知られています。

捜査幹部は、こうした過去の経緯も踏まえ、次のように分析しています。

「赤田さんは、これまでにも複雑な利害関係が絡む取引に関わってきた人物です。亀谷容疑者から持ち込まれた話が魅力的ではなかったのか、あるいは一方的な要求に応じるつもりがなかったのかもしれません。ただし、土地取引の話そのものが事実なのか、亀谷容疑者が何らかの不利益を被ったと考えていたのかについても、今後の捜査で明らかにする必要があります」

事件の背景には、単なる金銭トラブルでは説明できない事情が隠されているのでしょうか。土地取引の実態に加え、亀谷容疑者が使用した拳銃の入手経路や、被害者2人との関係も重要な捜査対象となっています。

● 事件の数カ月前に再会していた「猫組長」
今回の事件を考えるうえで、もう一人、注目される人物がいます。

元山口組系暴力団組長で、現在は投資家や評論家として活動している「猫組長」こと菅原潮氏です。菅原氏は事件が起きる数カ月前、亀谷容疑者と会っていたといいます。

再会した際の亀谷容疑者について、菅原氏は、80歳を目前にしても元気な様子だったと振り返っています。昔ながらの気骨を感じさせる人物だった一方、足を悪くしており、以前のような身軽さはなかったようです。

菅原氏によると、亀谷容疑者は「カバンをやめてリュックに替えたよ」と話していたそうです。そのリュックには安全を示すマークも付いていたといいます。

菅原氏は、そんな高齢の男性が再び発砲事件を起こすとは想像していなかったと語っています。

しかし、亀谷容疑者の過去を知る菅原氏にとって、今回の事件は、かつての彼の姿と無関係ではなかったのかもしれません。

2002年の殺人事件当時、菅原氏は亀谷容疑者の裁判をすべて傍聴したといいます。その法廷で、亀谷容疑者は反省の意思を示さず、自らの生き方を貫く姿勢を見せていたとされています。

菅原氏の記憶によれば、亀谷容疑者は「自分はヤクザですから。やるか、やられるかなので」という趣旨の発言をしていました。

当時、検察側は無期懲役を求刑しましたが、判決は懲役20年でした。さらに、亀谷容疑者自身が死刑を望む趣旨の申し出をしていたとも伝えられています。

こうした証言から浮かび上がるのは、長い服役を経てもなお、暴力団社会で培った価値観を強く持ち続けていた可能性です。

そして、亀谷容疑者の過去をさかのぼると、今回の銃撃事件とは別の意味で、日本の司法制度に大きな疑問を投げかけた出来事に行き着きます。

それが、2002年に起きた三井環(みつい・たまき)氏の逮捕事件です。

● 検察の裏金問題と三井環氏の逮捕
三井環氏は、検察組織の内部で行われていたとされる裏金づくりを告発しようとした元検察幹部です。

愛媛県出身の三井氏は、1972年に検事に任官しました。高知地検や高松地検などで勤務し、独自の捜査を進める敏腕検事として知られていました。

しかし、検察組織の内部に身を置くなかで、三井氏はある重大な問題に気づいたといいます。それが、捜査活動に関係する経費を利用した裏金づくりでした。

三井氏の説明によると、1988年に高知地検の次席検事を務めていた頃、事務局長から帳簿への署名を求められたことが発端でした。詳しい内容を尋ねても、十分な説明は得られなかったといいます。

その後、三井氏は、架空の出張費や捜査協力費などを計上することで、実際には存在しない支出を装い、資金を捻出する仕組みがあったと認識するようになりました。

こうした資金は、検事正の飲食代やゴルフ代などに使われていたと三井氏は証言しています。別の検察庁では、検事正が麻雀代を求めて現金を受け取り、帳簿にはそのまま支出を記録するよう指示した例もあったといいます。

捜査機関が犯罪を追及する一方で、その組織自身が公費の不適切な使用に関与していたとすれば、看過できない問題です。法を守るべき立場にある検察が、組織の内部で不正を隠していたことになるからです。

三井氏は、週刊朝日や「噂の真相」などのメディアを通じて、検察の裏金問題を告発するようになりました。当時、週刊朝日の記者だった今西憲之氏も三井氏の話を聞き、検察内部の問題を取り上げる記事を発表していました。

ところが、三井氏がテレビで実名告発を行おうとしていた2002年、事態は急展開します。大阪地検特捜部が、マンション購入に絡む電磁的公正証書原本不実記録等の容疑で三井氏を逮捕したのです。

検察内部の不正を明らかにしようとしていた人物が、告発の直前に逮捕された。このタイミングは大きな疑念を呼び、検察が不都合な告発を封じるために逮捕を利用したのではないかという批判が広がりました。

いわゆる「口封じ逮捕」だったのではないかという疑惑です。

ただし、裏金問題そのものと、三井氏に対する捜査の妥当性は、関連しながらも別々に検証すべき問題です。そして、この逮捕事件をめぐる経緯のなかで、亀谷容疑者の名前が浮上することになります。

● 三井氏の逮捕をめぐり、亀谷容疑者はどのような立場にいたのか
三井氏の逮捕容疑に関係したマンションについて、亀谷容疑者が実質的な所有者だったとされています。亀谷容疑者は元暴力団組長であり、検察幹部の逮捕事件に関わる不動産の所有関係に、その名前が登場していたことになります。

この点が、今回の神戸連続銃撃事件によって、改めて注目されている理由です。

当時、検察内部の裏金問題を告発しようとしていた三井氏が逮捕され、その事件に関連するマンションの実質的な所有者が、暴力団関係者だった亀谷容疑者だった。こうした事実関係は、検察と暴力団関係者との接点について、さまざまな疑問を生じさせます。

検察側が亀谷容疑者の供述や協力を利用し、三井氏を逮捕するための材料を得ていたのではないか。あるいは、検察と暴力団関係者との間に、一般社会からは見えにくい関係が存在していたのではないか。

そうした疑念が生まれるのも無理はありません。

しかし、マンションの実質的な所有者だったという事実だけで、検察による「口封じ」の共犯者だったと断定することはできません。重要なのは、疑惑を事実として扱うのではなく、当時の捜査記録や関係者の証言などを通じて、何が起きていたのかを明らかにすることです。

今回の事件によって、過去の検察不祥事をめぐる疑問が再び注目されていることは確かです。しかし、その疑問に答えを出すには、当時の経緯を改めて丁寧に検証する必要があります。

● 高齢の元暴力団関係者による銃犯罪が突きつける課題
今回の事件が社会に与えた衝撃は、過去の人間関係や検察の問題にとどまりません。市街地や住宅街で拳銃が使用され、2人の男性が死傷したという事実そのものが、日本の治安に対する重大な警告となっています。

神戸市中心部で車内から発砲し、その後も別の場所で銃撃を繰り返すという犯行は、周囲にいた人々を巻き込む危険性が極めて高いものでした。もし銃弾が別の車両や歩行者に向かっていたら、被害はさらに拡大していたかもしれません。

さらに考えさせられるのは、亀谷容疑者が79歳だったという点です。

一般的には、高齢になれば体力が衰え、激しい犯罪を起こす可能性も低くなると考えがちです。しかし、年齢だけで危険性を判断することはできません。過去に重大犯罪を起こした人物が、長い服役を経て社会に戻った後、どのような生活を送り、どのような人間関係を築いていたのか。その実態を把握することは、再犯防止を考えるうえでも重要です。

とりわけ、拳銃がどのような経路で入手され、なぜ今回の犯行に使用されたのかという問題は、徹底して解明されなければなりません。

なぜ亀谷容疑者は再び銃を手にしたのか。赤田さんとの間に何があったのか。そして、20年以上前の検察幹部逮捕事件に関わる疑問は、どこまで解明されているのでしょうか。

今回の神戸連続銃撃事件は、日本の治安と司法の信頼という二つの課題を、改めて社会に突きつけています。

参照:神戸連続発砲、容疑者「車内で4発撃った」 死亡男性に複数命中 合計7発以上を発射か
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