青森の実家に引っ越してから、庭の手入れが日課になりました。家と同じくらいの広さがある庭では、草を刈ったり、伸びた木の枝を切ったり、トマトやキュウリ、ナスを育てたりしています。
庭に出ると、夏場にどうしても気になるのが蚊です。
蚊に悩まされる生活など、埼玉のマンションに住んでいたころは想像もしませんでした。ハエや蚊とはほとんど無縁の暮らしだったからです。
それでも、庭に出ると不思議と眠気が消えます。土や植物に触れていると、気持ちも落ち着きます。どうやら私は、庭の手入れのような作業が性に合っているようです。
幸い、蚊に刺されても、かゆみが続くのはほとんどその日だけです。それなら多少刺されても我慢しようと思えます。
そんな蚊ですが、調べてみると、なかなか興味深い生き物です。
● 人の血を吸うのはメス
蚊はハエ目アブ科に属する昆虫で、世界には約3500種がいるとされています。成虫の翅(はね)は2枚で、4枚の翅を持つミツバチやスズメバチとは異なります。
蚊にはさまざまな種類があり、それぞれ活動する時間帯や行動が異なります。夜に活動する種類が多い一方、昼間に活動する蚊もいます。
そして、私たちを刺して血を吸うのはメスです。
メスが血を吸うのは、卵を産むために必要な栄養を得るためです。一方、オスは人や動物の血を吸わず、花の甘い蜜、いわゆるネクターを吸って生きています。
「蚊の世界では、メスは血、オスは蜜」と聞くと、オスのほうがずいぶん優雅な生き物に思えてきます。
もちろん、蚊が厄介なのは、単に刺されるとかゆいからだけではありません。メスの蚊が、ウイルスやマラリアのような原虫による病気に感染した人の血を吸い、その後に別の人を刺すと、病原体をうつす可能性があります。
ただし、蚊のすべてが病気を媒介するわけではありません。人から人へ病気をうつす危険性があるのは、蚊の仲間のうち約40種とされています。
● 「蚊の軍隊」を結成
蚊について調べていると、シンガポールの取り組みに目が留まりました。
約10年前、シンガポールでは、国を挙げて蚊との戦いに乗り出しました。ニュースチャンネル「チャンネル・ニュース・アジア(CNA)」は、その取り組みを「SF映画のシナリオのような」プロジェクトと表現しています。
背景にあったのは、血を吸うネッタイシマカによるデング熱の感染拡大です。年間の感染者数が3万人に達する勢いとなるなか、シンガポール国家環境庁(NEA)は、独自の「蚊の軍隊」を結成しました。
「蚊の軍隊」とは、いったいどんなものなのでしょうか。作戦の中心となるのは、ボルバキア菌を利用した方法です。
まず、ボルバキア菌を保持したネッタイシマカのオスを実験室で大量に育てます。そして、毎週1000万匹ものオスを野外に放します。
放たれたオスは野生のメスと交尾しますが、その組み合わせから生まれた卵は孵化しません。こうしてボルバキア菌を持つオスを繰り返し放つことで、蚊の個体数を減らしていきます。結果として、デング熱の感染者数を減らすことも期待できます。
シンガポールの対策は、これだけではありません。シンガポール工科デザイン大学(SUTD)は、靴箱ほどの大きさのロボット「Sable(セーブル)」を開発しています。
狭く、人が入りにくい場所にも入り込めるセーブルには、カメラと殺虫剤のタンクが搭載されています。オペレーターが遠隔操作しながら、必要な場所に殺虫剤を散布できます。
さらにSUTDは、移動式の蚊取り装置「Dragonfly(ドラゴンフライ)」も開発しました。
こちらは開けた場所を自律走行するロボットです。紫外線やフェロモンを利用して蚊を誘い、粘着トラップを備えた容器へ吸い込んで捕獲します。
まさに、人間とテクノロジーが一体となった「蚊の軍隊」です。もちろん、市民もこの戦いと無関係ではありません。
蚊が繁殖しやすい植木鉢や雨どいなどの水たまりを放置しないよう、徹底した対策が求められています。水がたまった場所を不注意で放置すると、最大5000シンガポールドル(約62万円)の罰金、または最長3カ月の禁錮刑が科される可能性もあるそうです。
そこまで徹底して蚊と戦うのは、それだけデング熱への警戒が強いからなのでしょう。CNAによれば、シンガポールは今年、過去20年以上で最も少ない年間デング熱感染者数を記録する見通しです。
庭に出るたびに蚊に刺されている身としては、その成果をぜひ詳しく知りたいところです。そして、この取り組みがさらに発展し、シンガポールが世界の蚊対策をリードする存在になってくれればと思います。
庭仕事をしながら蚊に悩まされる私にとっても、いつか「蚊との戦い」が過去の話になる日が来ることを期待しています。
参照:バイオテックから刑罰まで─シンガポールの「蚊撲滅作戦」が本気すぎる
「地球から蚊がいなくなったらどうなるの?」に専門家が本気で答えたら…
