ゴミ屋敷で暮らす人には、どのような特徴があるのでしょうか。一般的には、「片づける気力や体力が落ちている」「強い孤独感を抱えている」「完璧主義や、物を無駄にしたくないという思いが強い」といった性格や心理面の特徴が指摘されています。

部屋が片づかない背景には、単なる怠惰では片づけられない、さまざまな事情が隠れている場合があります。人間関係や過去の経験、物に対する価値観など、複数の要因が重なっていることも少なくありません。

今回は、東京大学出身でありながら、物であふれた部屋で暮らしていたみずきさんに注目します。彼の生活や家族との関係をたどると、ゴミ屋敷で暮らすに至った背景の一端が見えてきます。

● 「可愛すぎるゴミ屋敷住人」として注目されたみずきさん
みずきさん(30)は、両親がともに東京大学出身という家庭で育ち、自身も東京大学理学部に進学しました。大学在学中には女性服やメイクに関心を持つようになり、ファッションや外見にも自分らしい表現を取り入れていきました。

一方で、彼の暮らす部屋は多くの物で埋め尽くされており、ゴミ屋敷と呼ばれても不思議ではない状態でした。可愛らしい外見と物であふれた住環境とのギャップが注目を集め、複数のメディアで取り上げられています。

ぼくが特に印象に残っているのは、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』に出演したときのことです。番組では、同年代の女性の友人がみずきさんを気にかけ、定期的に部屋の掃除に訪れていた様子が紹介されていました。

文春オンラインでも、約1年前にみずきさんへのインタビューが行われています。「可愛すぎるゴミ屋敷住人」として紹介された彼は、その後、「専有面積約8平方メートル・家賃月3万8000円」の部屋から引っ越したそうです。

● 母親との関係が一人暮らしのきっかけに
東京大学を卒業した経歴と、物であふれた部屋での暮らし。一見すると結びつきにくい二つの要素ですが、みずきさんの話を聞くと、その背景には家族との関係や、長年にわたる葛藤があったことが分かります。

先ほど挙げたゴミ屋敷の住人に見られる特徴の一つに、「強い孤独感を抱えている」というものがあります。みずきさんのこれまでの経験を振り返ると、家族との関係が彼の生活や考え方に影響を与えていた可能性がうかがえます。

みずきさんの両親は、彼が中学校に進学した頃から別居し、中学3年生のときに離婚しました。その後、みずきさんと妹は母親と暮らすことになります。

両親が別居してからは、母親の気性が以前より激しくなったといいます。母親を止める人がいなくなったことで、みずきさんが危害を受けることもあったそうです。

そんな家庭環境のなかで、みずきさんは24歳のときに一人暮らしを始めました。インタビューで、その理由を尋ねられた彼は、母親との関係が限界に達していたと語っています。

「母との関係が限界に達したのがきっかけです。私の両親は離婚していて、当時、母はすでに再婚していたのかな。再婚相手と暮らしていて、母の所有している家に、私が1人で住んでいました。

そのころ、母から公務員になるよう言われていたのですが、私はもともと研究者になりたくて東京大学に進学したので、なりたくなくて。それで何もせず公務員の出願期限が過ぎた後で、母から『公務員にならないなら、面倒を見きれない。家から出ていけ』と言われました。

親の機嫌をうかがって居場所を確保するのも疲れていたころだったし、誰かの機嫌に左右されない安全な場所が欲しいと思って、思い切って一人暮らしをしようと。」

● 母親を「スポンサー」と捉えるようになった理由
みずきさんは、母親との関係について、さらに踏み込んだ経験を明かしています。インタビューで「お母さんとのやり取りで、特に印象に残っていることはありますか」と尋ねられると、次のように答えました。

「中学生の時に、私が学校でいじめられているんじゃないかと母が疑いを持ったことがあって、かなり激しい言葉をかけられました。実際にはいじめられたわけではないのですが……。その時に『いじめられるために学費を支払っているわけじゃない』と言われ、すごく怒られて。

私自身への心配ではなく、『高い学費を出してやっているのに、いじめられてくるとは何事だ』という怒りが先に来るんだ、とすごくガッカリしました。それまでも『お金を出しているんだから言うことを聞け』『成績が悪いなら学費は出せない』とか言われていて、うっすら『自分って大事にされていないな』と感じていましたが、それが確信に変わって。ああ、この人は自分を投資対象としか見ていないんだな、みたいな。

この頃から『この人はスポンサーでしかない』と捉えるようになって、衣食住の世話をしてもらうために、母が望むような学校内でのポジションであったり、成績や進学先であったりを意識的に目指すようになりました。」

母親の期待に応えることで生活の支援を受ける。そのために、学校での立場や成績、進学先まで意識的に選ぶようになったという話からは、親子関係のなかで感じていた緊張や葛藤が伝わってきます。

● 自分の性別を他人に決められたくない
みずきさんは、物との関係についても、興味深い考えを語っています。

「人間はいつ自分から離れていくか分からないけれど、モノは手元に置いておく限り勝手に離れていかないから安心感がある」

こうした物に対する思いは、みずきさんの生活を考えるうえで、重要な要素の一つといえるかもしれません。

また、みずきさんの特徴として、男性でありながら女性服を着ていることも挙げられます。彼は、その理由について次のように説明しています。

「私は昔から、自分の性別を誰かに決められるのが嫌で、遊ぶ相手もどちらかというと女子が多い方だったんです。友達の服装を見て『自分も着てみたいな』と思ったこともあったんですが、なかなか一歩を踏み出せなくて。でも、東大には性別などにとらわれず、自由なファッションや表現をする人がたくさんいて、それに刺激を受けて2年生くらいから女性服を着るようになりました。

最初はユニクロとかしまむらで買って、当時所属していたコスプレをして踊るサークルの先輩にメイクも教わって。」

大学に入ったことで、性別にとらわれず自由なファッションや表現を楽しむ人たちと出会い、自分も好きな服を着てみようと思うようになったそうです。

女性服を着るようになった当初は、周囲も突然の変化に驚いていたといいます。それでも、続けていれば受け入れてもらえるだろうと考えていたところ、実際に周囲の反応も変わっていったそうです。

● 物は多くても、自分にとっては「ゴミ」ではない
みずきさんの部屋には大量の物が置かれていましたが、本人はすべてをゴミだと考えていたわけではありません。

1年前のインタビューで、自宅がゴミ屋敷と呼ばれることについて尋ねられると、次のように答えています。

「確かにモノは多いんですが、あまり『ゴミ』だとは思っていないんです。もちろん、中にはゴミもありますよ。でもあくまで一部でしかなくて。部屋に多いのも衣服ですし。」

本人にとっては、部屋にある物の多くが衣服などの所有物であり、一般的な意味での「ゴミ」とは異なるものでした。外から見た部屋の状態と、そこで暮らす本人の認識には違いがあったのです。

では、なぜ部屋にこれほど多くの物が集まるようになったのでしょうか。みずきさんは、その経緯について次のように説明しています。

「そもそも実家にあったものを持ってきたことで、引っ越しした当初からモノは多かったんです。そこから増えたものでいうと、やっぱりほとんどは服ですね。あとは、大学生の時から所属していた演劇のサークルを畳むことになって、部室にあったものを、段ボール3箱分ぐらい持ってきたりもして。最近、倉庫を解約してそこにあったものを持ってきたので、この6年弱で、今が一番モノが多い状態です。」

物を捨てる基準についても、みずきさんは具体的に語っています。

「捨てる基準は『使えるかどうか』と、『思い入れがあるかどうか』。食べ物の包装とか、生ゴミとかは比較的頻繁に捨てていますよ。最近はちょっとサボり気味で、月に一度くらいですが……」

● 引っ越し後も続く、物との暮らし
それから1年が経ち、みずきさんに近況を尋ねると、現在の生活について次のように答えてくれました。

「引っ越した後はなるべく服を汚さないように気をつけています。ゴミはなるべく捨てたいと思っているのですが、今はゴミが溜まってきてしまっていますね……」

以前の部屋から引っ越した後は、衣服を汚さないように気をつけるなど、生活面での変化もあったようです。

 

みずきさんの話からは、部屋に物が増えていく背景に、家族との関係や物に対する価値観、生活習慣など、さまざまな事情が関わっていることがうかがえます。

物を多く所有することへの考え方や、捨てることに対する判断基準は、人によって異なります。みずきさんの場合も、単に片づけが苦手という一言では説明できない、これまでの経験や思いがあるのかもしれません。

引っ越しを経ても、物との向き合い方や暮らしの課題は続いているようです。今後、みずきさんの生活がどのように変化していくのか、引き続き注目されます。

参照:東京大学を卒業→家賃3.8万のアパートで“大量のゴミ”と生活『ゴミ屋敷住人』その後
   東京大学を卒業→家賃3.8万の“ゴミ屋敷”で食事風景を毎日配信…意外な暮らしぶり