
「椿の花咲く頃」 2019年製作 韓国 原題:동백꽃 필 무렵
韓国ドラマ『椿の花咲く頃』は、恋愛、サスペンス、人間ドラマが絶妙に組み合わされた「複合ジャンル」の作品です。現在は全20話のうち3話まで視聴しましたが、とても楽しく見られるうえ、先の展開が気になるドラマです。
物語の中心にいるのは、シングルマザーのドンベクと、彼女に一目惚れした純朴な警察官ヨンシクです。2人の泥臭くも微笑ましい恋模様が作品の軸になっています。
ただし、本作は単純なラブストーリーではありません。2人が暮らすのどかな港町オンサンでは、連続殺人犯「ジョーカー」が暗躍しています。そして、ドンベク自身も次のターゲットとして狙われているのです。穏やかな町の日常と、不穏な事件が同時に進行していくところが、この作品のおもしろさの一つです。
● コミカルな演出も魅力の一つ
第1話の冒頭から、かなり印象的な演出があります。
コン・ヒョジン演じるドンベクが、シングルマザーとしてのどかな田舎町にやってきます。引っ越しの荷物を運んでいる途中、地面に落ちたウサギのぬいぐるみを、彼女がひざまずいて拾い上げます。そして、髪をかき上げた瞬間、まるで大女優の登場シーンのような大げさな音楽が流れます。
すると、彼女を見ていた町の男性たちは、ことごとく目を奪われてしまいます。
ボールで遊んでいた男性は、ドンベクに気を取られてボールを手から落とします。自転車に乗っていた男性は進行方向を見失い、道端に広げてあった唐辛子の上を踏みつけながら突っ切っていきます。そのまま道路に水を撒いていたおじさんに衝突する始末です。
周囲の女性たちも口をあんぐりと開け、ドンベクに見惚れています。さらに、夫まで同じように口を開けて見入っているのを見た奥さんが、「口を閉じな!」と怒りながら、夫の顎を下から上へはたき上げます。
町中の人々があっけに取られるほどの美人という設定なのですが、さすがにそこまでの扱いには無理があるようにも感じます。少なくとも、現実感という点では納得しにくいところです。
だからこそ、この大げさすぎる演出には、登場シーンから笑わせられました。作品全体の雰囲気を考えると、こうしたコミカルな演出も魅力の一つなのだと思います。
● 「ドンベク」という名前の意味
ところで、主人公の「ドンベク」という名前も少し気になります。
日本人の感覚からすると、どこか男性の名前のようにも聞こえます。また、ホストクラブなどでよく登場するフランスの高級シャンパン「ドン・ペリニヨン」、いわゆる「ドンペリ」とも語感が似ているため、ついそちらを思い出してしまいます。
しかし、「ドンベク」という名前には、きちんとした意味があります。韓国語で「ドンベク(동백)」とは、植物の「椿」を意味します。
椿は、ほかの多くの花が枯れてしまう厳しい冬の寒さの中でもじっと耐え、赤く美しい花を咲かせる植物です。
この意味を知ると、主人公の名前が物語そのものを象徴していることに気づきます。
ドンベクは、シングルマザーであるというだけで世間から冷たい偏見や差別にさらされています。さらに、連続殺人犯からも狙われるという過酷な状況に置かれています。
それでも、その厳しい環境に耐えながら、少しずつ自分の人生を切り開いていきます。そして、周囲の人々から受ける優しさや、自分自身の強さによって、やがて一人の女性として大きく花開いていきます。
まさに「ドンベク=椿」という名前そのものが、主人公の生き方を表しているように感じられます。
椿の花言葉には、「誰よりもあなたを愛する」や「控えめな優しさ」などがあります。
不器用ながらも周囲の人々を優しく包み込み、ヨンシクから一途で熱烈な愛を向けられるドンベクのキャラクターを考えると、この花言葉もよく似合っています。さらに、物語の結末まで考えると、作品全体を象徴する花として非常に意味深い存在です。
● 『愛の不時着』などの作品が並ぶ中での受賞
本作は、2020年に開催された「第56回百想(ペクサン)芸術大賞」のテレビ部門で大賞を受賞しています。『愛の不時着』などの作品が並ぶ中での受賞ということからも、韓国で高く評価された作品だったことがうかがえます。
また、韓国で放送された際には、最終回で23.8%という高視聴率を記録しました。
脚本を担当したのはイム・サンチュンです。韓国版の朝ドラともいわれ、歌手・俳優のIUが主演を務めた『おつかれさま』の脚本家としても知られています。
『椿の花咲く頃』が評価された理由は、単なる恋愛ドラマではないところにもあります。ロマンスを軸にしながら、殺人事件をめぐるサスペンス、シングルマザーへの偏見、家族や地域社会の人間関係など、さまざまなテーマを一つの物語に織り込んでいます。
百想芸術大賞では、現代を生きる人々に深い慰めを与え、偏見に立ち向かう勇気を描いた作品として、脚本や演出の完成度が高く評価されました。
韓国国内でも「国民的癒やしドラマ」として大きな反響を呼んだ作品です。
まだ3話までしか見ていませんが、ここまで見ただけでも、単なる恋愛ドラマとは違う作品だと感じます。コミカルな場面で笑わせながら、サスペンスで緊張感を生み、登場人物たちの人間関係を通して温かさも描いています。
「椿」という名前に込められた意味も含め、これからドンベクがどのように人生を切り開いていくのか。そして、ヨンシクとの恋がどう進展し、「ジョーカー」との対決がどう描かれるのか。続きがかなり気になるドラマです。