2024年10月25日深夜、北海道江別市内の公園で、当時20歳の大学生・長谷知哉(はせ・ともや)さんが複数人から暴行を受け、衣服を身に着けていない状態で倒れているところを発見されました。

事件当初、殺害に関与したとして名前が公表されたのは、八木原亜麻(やぎはら・あま)被告と川村葉音(かわむら・ はおと)被告の2人でした。ほかの4人については、当時未成年だったため、氏名は公表されていませんでした。

● 川口被告は「トラブルを解決してやろう」
この事件で驚かされるのは、一見するとごく普通の若い女性2人が、事件に深く関与していたことです。

事件の発端は、長谷さんと八木原被告の間にあった交際をめぐるトラブルでした。八木原被告から相談を受けた川村被告は、その内容を当時一緒にドライブをしていた川口侑斗被告らに伝えました。

その話を聞いた川口被告は、「トラブルを解決してやろう」という思いから、仲間とともに江別市内の公園へ向かいました。いわば「歪んだ正義感」に突き動かされた形で、現場に到着した時点では、長谷さんとは面識がなかったとされています。

その後、事件に関わった6人は、10月25日夜から26日未明にかけて、長谷さんに激しい暴行を加えました。全身に多数のあざが残るほどの暴行で、殴る、蹴るといった行為はおよそ2時間にわたって続き、その回数は数百回に及んだとされています。

さらに、「全部出せ。全額」「クレジットカードもな」「銀行カードあんのか」などと迫り、キャッシュカードの暗証番号を聞き出したほか、衣服なども奪いました。長谷さんの頭髪を燃やすといった行為もあったとされています。

そして、その一連の暴行や、長谷さんに謝罪させる場面をスマートフォンで撮影していました。

川口被告は、動画を撮影した理由について、「楽しい雰囲気を動画に残すために撮った」と説明していたとされています。この言葉からは、深刻な暴力行為を行っているという現実との間に、大きな認識のずれがあったことがうかがえます。

● 軽度の知的障害。軽度の難聴を抱えている
主犯格とされた川口被告は、事件当時18歳でした。

法廷では、その生い立ちについても明らかにされました。鑑定医は、川口被告について「知能指数はIQ58、軽度の知的障害。軽度の難聴を抱えている」と証言しています。



川口被告に軽度の知的障害があるという情報は、今回初めて知ったという人もいるのではないでしょうか。少なくとも、これまでに報じられた記事では、あまり目にしなかった情報です。

知的障害の判定では、知能指数(IQ)がおおむね70以下であることが一つの基準になります。ただし、IQの数値だけで判断されるわけではありません。日常生活における適応能力や、18歳までの発達期に症状が現れていたかどうかなども含め、総合的に判断されます。

一般的には、IQ51~70が軽度、36~50が中度、21~35が重度、20以下が最重度と分類されます。川口被告のIQ58は、この分類では軽度に当たります。

では、こうした知的障害は、今回の判決にどの程度考慮されたのでしょうか。

知的障害があることだけを理由に、当然に刑が軽くなるわけではありません。一方で、知的障害(知的発達症)がある場合、犯罪行為に対する客観的な判断に影響が生じる可能性があります。

具体的には、「事態を予測する」「善悪を識別する」「衝動を抑える」「自分の置かれた状況を言葉にする」という4つの側面が大きく影響を受けるとされています。

● 川口被告の劣等感と母親との関係
川口被告の生い立ちからは、家庭の中で抱えていた複雑な感情も見えてきます。

2人の兄が野球で活躍する一方、川口被告は自身に対して劣等感を抱えていたとされます。また、支援学校への進学を勧められたこともあったといいます。

しかし、母親は川口被告を普通学級に通わせることを選びました。

「野球をさせたくて。高校で甲子園に行きたいと聞いていたので(普通学級に)そのままにしました」

母親は法廷で、そう語っています。

その後、川口被告は高校を1年で中退しました。

家庭では、母親が自殺を図ったこともありました。その際、母親を支えたのが川口被告だったとされています。

母親は「精神的に私がいつ死ぬか分からない状態で、侑斗がずっと私の面倒をみていました」と証言しました。

初対面だった長谷さんに激しい暴行を加えた一方で、母親に対しては優しく接していたという川口被告。その二面性には驚かされます。

鑑定医は、川口被告について「劣等感を暴力で解消する『集団モード』の中でいつものパターンが出た」と分析しています。

事件から約1年10カ月後の2026年8月7日、札幌地裁は犯行について「虐待的・拷問的」と指摘し、その悪質性を認定しました。そして、川口被告に無期懲役の判決を言い渡しました。

川口被告は、この判決を不服として控訴しています。

● 自分に目を向けられなければ、更生は難しい
では、川口被告は今後、更生できるのでしょうか。

犯罪心理学者の出口保行氏は、犯罪や非行と家庭環境の関係について、「多くの犯罪非行に家庭環境が関わっていないということはない。関わっている」と説明しています。

ただし、家庭環境に問題があったからといって、必ず犯罪者になるわけではありません。

出口氏は、その問題を自分の失敗や犯罪行為を正当化する理由として使い始めることに危険性があると指摘しています。

「私はこんなんだったんだから、仕方がなかったんだ」という形で、自分の行動を正当化するようになると、犯罪や非行を止めることが難しくなるというのです。

さらに出口氏は、「自分の家庭に原因を持っていっている。自分の資質に原因を持っていっているあいだは自分に目が向かない」と説明しています。

つまり、過去の家庭環境や自分の資質ばかりに原因を求め続けている限り、自分自身の行動と向き合うことができません。その状態から抜け出せなければ、更生には長い時間が必要になるといいます。

出口氏が勤務していた宮城刑務所は、重大犯罪を犯した受刑者も収容されている刑務所です。無期懲役の受刑者も数多く収容されています。

そこでさまざまな面接や心理分析を行う中で、出口氏が感じたのは、「立ち直っていきやすいタイプ」は自分自身に目を向けているということでした。

一方で、事件から30年、40年が経過しているにもかかわらず、「あれが悪かった」「あの人が悪かった」「会社が悪かった」と、いまだに周囲に原因を求め続ける人もいるといいます。

出口氏は、こうしたタイプについて、「基本的に更生することが本当に難しい」との見方を示しています。

過去にどのような家庭環境があり、どのような生い立ちを送ってきたのか。それを理解することは、犯罪に至った背景を考えるうえで重要です。

しかし、それだけで犯罪行為そのものが正当化されるわけではありません。

最終的に問われるのは、自分が何をしたのか、その結果として誰を傷つけたのか、そして自分自身の行動とどう向き合うのかという点なのではないでしょうか。
 

参照:軽度の知的障害を抱えていた主犯格 裁判で家庭環境が明かされる 江別大学生集団暴行死事件