「交渉の技術」 2025年製作 韓国 原題:협상의 기술/The Art of Negotiation
 

韓国ドラマ『交渉の技術』は、イ・ジェフン演じる“伝説の交渉人”ユン・ジュノを中心に、企業買収・合併(M&A)の世界を描いた作品です。企業間の駆け引きだけでなく、そこに関わる人々の思惑や人間関係も描かれており、経済ドラマでありながら、人間ドラマとしても楽しめる作品になっています。

物語の中心となるのは、経営危機に陥った会社の再建です。その大役を任されたのが、かつて“伝説の交渉人”と呼ばれたユン・ジュノです。ジュノは、11兆ウォンという莫大な資金調達を目指し、友人の弁護士らと協力しながら、会社を立て直すための交渉に挑んでいきます。

しかし、ジュノの復帰を歓迎しない人物もいます。次期会長の座を狙うハ・テス専務は、ジュノを警戒し、さまざまな手段を使ってその行く手を阻もうとします。会社の存続を懸けた交渉と、社内で繰り広げられる権力争いが同時に進んでいく点も、本作の大きな見どころです。

企業買収や合併という、普段あまり身近に感じることのないテーマを、ドラマとしてどのように描くのかという点に興味を持ちました。一方で、M&Aを扱う作品だけに、経済や企業経営に関する難しい話が多いのではないか、自分に内容を理解できるだろうかという不安もありました。そんな気持ちを抱えながら、第1話を視聴しました。

第1話でまず印象に残ったのは、ユン・ジュノが会社に戻ってくるという噂をめぐって、社員たちが交わす会話です。

「ユン・ジュノが来る」
「ありえない。外国にいるだろ」
「今、韓国に向かっている」
「嵐が吹き荒れるぞ」

さらに、

「あのユン・ジュノ?」
「ああ、M&Aの伝説だ」
「子会社が売られる?」
「まだ家のローンが残っているのに」

「クビになったら来月の支払いが滞る」
「奴が来るから役員会議を?」
「お偉方が慌てるのは初めて見た」

といった会話が続きます。

この場面では、ユン・ジュノ本人が登場する前から、周囲の人々の反応によって彼がどのような人物なのかが伝わってきます。会社の中が一気に慌ただしくなり、社員たちが不安を募らせる様子から、ジュノがただ者ではないことも感じられます。

人物の説明を長々と入れるのではなく、社員同士の会話を通して状況を見せているため、視聴者も自然に「ユン・ジュノとは何者なのか」「なぜ会社はこれほど騒然としているのか」と興味を持つことができます。第1話の冒頭で今後の展開への期待を高める、効果的な会話の使い方だと感じました。

実際に第1話を見てみると、経済やM&Aに関する専門用語が会話の中に登場します。最初は少し難しく感じる部分もありますが、用語についてテロップで説明が入る場面もあり、内容を理解するための工夫がされています。

また、主人公側と対立する側が比較的はっきりしているため、人物関係も把握しやすいです。企業を舞台にした作品では、複雑な人間関係や専門的な話が重なって分かりにくくなることもありますが、第1話を見る限りでは、視聴者が置いていかれないように作られている印象を受けました。M&Aという難しそうなテーマを扱いながらも、ストーリーそのものは比較的分かりやすく、見やすい作品だと思います。

さらに、本作では第5話から日本の静岡も舞台になるという点にも注目しています。富士山静岡空港や富士山世界遺産センター、日本平ホテル、伊豆の修善寺温泉など、静岡を代表する場所が登場するそうです。日本の俳優も出演するため、韓国企業を舞台にした物語が日本へどのように広がっていくのかも気になるところです。

主演を務めるのは、『シグナル』(2016年)や『復讐代行人~模範タクシー~』(2021年~)など、数々の作品で存在感を示してきたイ・ジェフンです。本作では、“伝説の交渉人”と呼ばれるユン・ジュノを演じています。

ユン・ジュノは、冷徹な判断力を持ちながらも、人間味を感じさせる人物です。単に交渉能力に優れた人物として描かれているのではなく、仕事に対するプロフェッショナルな姿勢も大きな特徴になっています。

イ・ジェフンは、交渉人を演じるにあたって、どのような役作りをしたのかと聞かれ、次のように答えています。

「『交渉の技術』のユン・ジュノは、職業的に非常にプロフェッショナルな面を持っています。私がユン・ジュノという役をしっかりと表現するためには、ドラマで扱っているテーマに対して実際に関心を持ち、十分に理解している必要があると考えました。そのため、似たようなテーマの作品をたくさん探し、実話にも触れながら、思考回路そのものをユン・ジュノに合わせて生きていこうと努力しました」

このコメントからも、役を演じるためにM&Aというテーマそのものを理解しようとしたことが分かります。ユン・ジュノという人物を演じるには、交渉の場面での表情や話し方だけでなく、彼がどのような考え方をしているのかを理解する必要があったのでしょう。

それはイ・ジェフンだけではなく、ほかの出演者にも共通することなのではないかと思いました。脚本に登場する経済用語やM&Aに関する知識を身につけなければ、登場人物の言葉に説得力を持たせるのは難しいのではないでしょうか。

第1話ではまだ始まったばかりですが、ユン・ジュノの復帰によって会社がどのように変わっていくのか、そして彼を待ち受ける交渉がどのような結末を迎えるのか、今後の展開が楽しみです。

参照:イ・ジェフン『交渉の技術』独占インタビュー 「役作りと白髪の意味」