《いま、原爆に関する偽情報がSNSで広がっています》
8月8日、NHKニュースの公式Xアカウントが、原爆をめぐる偽情報の拡散について注意を呼びかけました。投稿では、同日に配信した「『原爆はデマ』荒唐無稽なフェイク拡散 実相と異なるAI動画も」と題した記事を紹介し、《被爆者がいなくなる時代を前に、事実をどう伝えていくのか》と問題を提起しています。
● 西川将史氏「原子爆弾はフェイク」
そのなかで大きな注目を集めているのが、「原爆投下はうそだった」と主張するYouTube動画です。
動画を制作・配信しているのは、実業家の溝口勇児氏(41)が代表を務める「株式会社NoBorder」が運営するYouTubeチャンネル『NoBorder X File』です。
動画には近現代史研究家の林千勝氏(65)がゲストとして出演。オブザーバーとして参加したタレントのフィフィ(50)や実業家の西川将史氏(43)を前に、「原子爆弾はフェイク」とする自身の見解を語っています。8月17日現在、再生回数は35万回を超えています。
林氏は動画のなかで、1945年8月6日に当時の米大統領だったトルーマン氏が発表した広島への原爆投下に関する声明について、「全くでたらめ」と主張しています。
その根拠として、声明に記された「米国の一航空機」「広島に1発の爆弾」「TNT火薬で2万トン以上の破壊力」といった表現を取り上げ、これらを「うそ」と断じています。
さらに、「一航空機で広島全体を破壊したとなると、ものすごい衝撃ですよね、人類史上ね。大変な化学の成果ですよね」と述べたうえで、声明について「そういった物語のプロパガンダなんですよ」と語っています。
番組内では、林氏の主張をナレーションでも紹介しています。
「原爆の脅威、それは俺たち日本人が一番よく分かっている。だが、もしもその脅威が印象操作だったら。核爆弾の脅威を世界に見せつけ、覇権を握る。そのために核爆弾を偽装し、大統領を使って声明を出し、日本が利用されているかもしれない。そう、林は主張する」
● テロップに《1945年8月 6日広島 10日長崎》
こうした内容に対して、動画のコメント欄には批判が相次ぎました。
《死者への冒涜。被爆者への冒涜》
《これはさすがに被爆者をバカにしていてひどい内容です》
批判の矛先は、林氏だけに向けられているわけではありません。動画を配信した「NoBorder」の責任を問う声も上がっています。
《エンタメだからとか、判断は視聴者だとか、寝ぼけた事言うてんちゃうぞ!やってええ事とあかん事の区別もつかんのか?》
《この番組は、日本中の国民を、敵にする積りですか?この動画の配信は、許しませんよ》
さらに、動画の冒頭に表示されたテロップにも誤りがあるとの指摘がありました。
テロップには《1945年8月 6日広島 10日長崎》と表示されていましたが、長崎への原爆投下は8月9日です。そのため、コメント欄には、
《長崎は9日です》
《長崎は9日じゃないか!おかしいだろう!》
といった指摘も寄せられています。
実際に動画を確認すると、このテロップは修正されないまま残っています。原爆投下の日付という基本的な事実を誤っているのであれば、動画全体の信頼性について疑問を持たれても仕方がないのではないでしょうか。
● 発言は各出演者の見解です
一方、林氏は8月8日にXで、NHKが報じた原爆に関する偽情報の記事を取り上げ、《ついにNHKが真実の広がりを恐れ、取り上げました! 言論統制ぶりは、お注射の場合と同じ!!》と投稿。NHKの報道に対して、皮肉を交えながら反論しています。
波紋が広がるなか、動画を配信した「NoBorder」は、この一連の批判をどう受け止めているのでしょうか。
そこで女性自身の記者が8月10日に同社を取材したところ、15日夜になって担当者から文書で回答が寄せられたといいます。
林氏の「原子爆弾はフェイク」という主張について、同社は「当該動画における主張は出演者の見解であり、弊社の見解ではありません」と回答しています。
また、『NoBorder X File』については、「世に流通している言説や過去の未解決事件などを取り上げる番組であり、報道番組ではありません。発言は各出演者の見解です」と説明しています。
さらに、「弊社は、性質の異なるこれらの番組を併せて運営することで、多様な言論空間を提供することを目的としております。また今後、報道番組『NoBorder News』において、『NoBorder X File』で扱われた内容を事実ベースで検証する可能性があります」としています。
しかし、この説明を読むと、「検証する可能性がある」とするだけでなく、できるだけ早く検証動画を公開する必要があるのではないかと感じます。すでに動画が公開されてから4か月が経過しているからです。
出演者個人の見解だとしても、数十万回にわたって視聴されている動画であれば、そこに寄せられている疑問や批判をそのままにしておくのは適切なのでしょうか。
林氏は、核爆弾を偽装し、大統領を利用して声明を発表することで、日本が利用された可能性があると主張しています。
もし本当にそのような出来事があったのであれば、原爆投下から81年が経過した現在まで、その事実に気づき、裏付けとなる資料を示してきた研究者や関係者が存在していても不思議ではありません。その意味でも、この主張については、具体的な根拠や一次資料に基づいて検証する必要があるのではないでしょうか。
● 林千勝氏の原爆言説はデマだらけ
なお、林千勝氏の主張については、有馬哲夫氏も異議を唱えています。
有馬氏は、林氏の原爆に関する言説について、次のように指摘しています。
『林千勝氏の原爆言説がYouTube上に多数上がっていますが、デマだらけです。基本的事実を知らない上に、一次資料について行っていることもデタラメです。この人は公文書館に行ったことがあるのでしょうか? 大学教員だったらクビになりかねないことをやっています。
このような言説が広まってしまうのは望ましくないので、デマを指摘しました。』
有馬氏が林氏の主張を批判している動画のタイトルは、「林千勝氏の原爆言説はデマだらけ」です。
ここまで双方の主張が食い違っているのであれば、いっそのこと「NoBorder」で林千勝氏と有馬哲夫氏による討論番組を企画してはどうでしょうか。
林氏が主張する「原子爆弾はフェイク」という説にどのような根拠があるのか。それに対して、有馬氏はどの資料をもとに「デマだらけ」と指摘しているのか。両者が一次資料を示しながら直接議論すれば、視聴者にとっても、それぞれの主張を比較して考える機会になるはずです。
「多様な言論空間」を掲げるのであれば、出演者の見解を紹介するだけでなく、その内容を検証し、異なる見解を同じ場でぶつけることにも意味があるのではないでしょうか。
原爆投下から81年。被爆者が少なくなっていくなかで、何を事実として次の世代に伝えていくのか。今回の動画をめぐる問題は、そのことを改めて考える機会にもなっているのではないでしょうか。
参照:「原爆投下は嘘だった」歴史研究家の主張を公開した動画への批判再燃…「NoBorder」が答えた
「原爆はデマ」荒唐無稽なフェイク拡散 実相と異なるAI動画も
