女性市議が、2件のセクハラ被害を訴えています。

一つは、出張先のホテルで同僚だった男性市議から無理やりキスをされたという被害です。もう一つは、2019年に市議へ初当選した直後から約4年間にわたり、当時、仕事上の関係があった男性から不同意わいせつ行為を受け続けたという訴えです。

後者について、女性市議は元秘書の男性と、その元秘書が仕えていた前衆院議員・江田憲司氏を相手取り、2200万円の慰謝料を求めて提訴しています。

二つの事件は、いずれも女性市議が「セクハラ被害」として訴えているものですが、内容や経緯は大きく異なります。さらに、当事者双方の主張や残されているメッセージなどをめぐって、事実関係には大きな争いがあります。



果たして、何が起きていたのでしょうか。

● ホテルのエレベーターで無理やりキス
一つ目の被害について、女性市議が記者会見を開いたのは7月3日です。

田中優希横浜市議(50)は横浜市役所で会見し、昨年10月、大分県へ出張した際、当時、立憲民主党の同僚議員だった谷田部孝一市議(76)からセクハラ被害を受けたと訴えました。

田中氏によると、複数人で飲食した後、宿泊先のホテルに戻り、エレベーター内で谷田部氏と2人きりになった際、頭をつかまれ、無理やりキスをされたといいます。

さらに「部屋に行こう」と誘われたため、田中氏は別の階へ逃げたと説明しています。

「息ができず、抵抗できませんでした。寝ることも、食事をとることもできないくらい心を病みました」

田中氏はそう当時の状況を振り返り、翌11月には県警へ被害届を提出しました。

7月1日、谷田部氏が横浜地検に書類送検されたことを受け、田中氏は会見を開きました。一方、谷田部氏は同日、「事実ではない」とするコメントを発表しています。

その後、谷田部氏は7月3日に立憲民主党を離党しました。離党については、「これ以上党に累が及ぶことを避けるため」と説明しています。

この一件については、双方の主張が食い違っています。現在、県警が防犯カメラの映像などを調べ、当時の状況を確認しています。

● 約4年間にわたったという被害
一方、今回の問題でより複雑なのが、もう一つの訴えです。

田中氏は、谷田部氏からの被害とは別に、立憲民主党関係者の男性から、2019年5月ごろから約4年間にわたって不同意わいせつ行為を受けたと主張しています。

田中氏によれば、その被害は「死にたい、消えてしまいたい」と思うほど深刻なものだったといいます。

この男性が、元衆院議員の江田憲司氏の元秘書だったX氏です。

「田中氏と裁判になっているのは、先の衆院選で中道から神奈川8区に出馬したものの落選し、政界引退を発表した江田憲司前衆院議員と、その元秘書だった男性のX氏です。X氏は長年、江田氏の秘書を務めてきた人物で、2019年に田中氏が横浜市議に初当選したころから、田中氏の教育係を務めていました」

地元の立憲関係者はこう説明します。

田中氏とX氏は仕事上の関係が深く、周囲からは以前から親密な関係を疑われていたといいます。

しかし、田中氏側はこれを単なる男女関係ではなく、長期間にわたるセクハラ被害だったと主張しています。そして、X氏だけでなく、X氏の当時の上司だった江田氏も訴えました。

● 「彼氏を作ってはいけない」と言われた?
田中氏の主張によれば、X氏は田中氏のグーグルカレンダーを本人の同意なく共有し、「絶対に彼氏を作ってはいけない」「男を作ったら邪魔してやる」などと発言したといいます。

また、常に一緒に行動するよう求められ、自分のことを下の名前で「Xくん」と呼ぶよう要求されたとも主張しています。

さらに、X氏から性的な要求を受け、それを拒否すると、運転を荒くしたり、「もう仕事を手伝わない」と怒ったりするなど、仕事上の関係を背景に要求を断れない状況に置かれていたと訴えています。

2019年6月には、自宅に押しかけてきたX氏から「僕から逃げたら仕事できなくするよ」と言われ、床に押し倒されたとも主張しています。

田中氏の説明では、その際に意識を失い、翌日、薬局でアフターピルを処方してもらって服用したといいます。

※アフターピル(緊急避妊薬)とは、避妊に失敗した・しなかった性行為のあとに服用し、妊娠を防ぐ薬です。性行為後72時間(3日)以内、または120時間(5日)以内の服用が必要で、できるだけ早く飲むほど効果が高くなります。

一方で、この点については、記事のコメント欄で疑問を呈する声も出ています。

「2019年6月に薬局でアフターピルを処方してもらえたのでしょうか。薬局でアフターピルを購入できるようになったのは2026年2月2日からではなかったのでしょうか」

この指摘を受け、アフターピルをめぐる記述にも注目が集まりました。

ただし、ここで重要なのは、アフターピルに関する制度上の扱いだけで被害の有無を判断できるわけではないという点です。田中氏が実際にどこで、どのような経緯で薬を入手したのかについては、本人の説明や診療記録などを含めて確認する必要があります。

したがって、この記述だけから「虚偽の被害申告だった」と断定することはできません。

● 裁判で問われる「4年間」の実態
今回の問題で最も重要なのは、田中氏が訴えている「約4年間にわたる被害」が実際にどのようなものだったのかという点です。

X氏側は、田中氏の主張をそのまま認めているわけではありません。

X氏は、田中氏から提訴された2カ月後の2025年11月、自身の非を棚に上げ、田中氏が「完全な被害者」を装って虚偽の主張に基づき一方的に攻撃したとして、541万円の慰謝料を求めて反訴しています。

さらに、X氏の妻も田中氏を相手取り、約741万円の慰謝料を求める別の訴訟を起こしました。

X氏の妻は、田中氏との不貞行為によって家庭を壊され、自殺未遂を起こすほど精神的な被害を受けたと主張しています。

つまり、この問題では、田中氏が「セクハラ被害を受けた」と訴える一方、X氏側は田中氏との関係について別の事実関係を主張しているのです。

では、双方の主張のうち、どこまでが事実なのでしょうか。

その判断材料の一つとなるのが、田中氏がつけていたという「セクハラ被害日記」です。もう一つが、田中氏とX氏の間で交わされたメッセンジャーやLINEのやり取りです。

そこには、田中氏がX氏に対して送ったとされる、次のようなメッセージがあります。

田中氏〈Xくん、失いたくなかった〉
X氏〈もう今日は寝なさい〉
田中氏〈甘えたくて、素直になれない。どうかしてるね〉
〈うん。大好き。ありがとう〉
〈幸せ。おやすみ〉
〈うん。頑張るし、元気出ない時は甘えちゃうね〉

2019年6月5日のやり取りとされています。

このメッセージが注目されるのは、田中氏が「自宅で無理やり襲われた」と主張している出来事の前日に交わされたものだとされているからです。

もっとも、親密なメッセージが存在することだけで、その後に不同意の行為がなかったと判断できるわけではありません。逆に、田中氏が被害日記を残していたという事実だけで、すべての被害の内容が裏付けられるわけでもありません。

結局のところ、裁判で問われるのは、当事者の間にどのような関係があり、個々の行為がどのような状況で行われ、田中氏が本当に拒否できない状態に置かれていたのかという点です。

● 問われるのは「どちらが正しいか」だけではない
今回、二つのセクハラ被害が相次いで明らかになりました。

一つは、ホテルのエレベーター内で同僚議員から無理やりキスをされたという訴えです。こちらは谷田部氏が「事実ではない」と否定し、捜査機関が防犯カメラなどを調べています。

もう一つは、2019年から約4年間にわたってX氏から不同意わいせつ行為を受けたという訴えです。

こちらは、当事者双方の主張が大きく食い違っており、さらにLINEなどのメッセージや被害日記といった証拠の評価が争点になるとみられます。

長期間にわたる被害だったのか。それとも、当事者間には田中氏側の主張とは異なる関係が存在していたのか。

現時点で、一方の主張だけを根拠に結論を出すことはできません。

二つの事件で問われるのは、単に「どちらの言い分がもっともらしいか」だけではありません。具体的な証拠によって、いつ、どこで、誰が、何をしたのか。そして、その行為が本人の意思に反するものだったのかが、裁判の場で一つずつ明らかにされることになります。

女性市議が訴える二つのセクハラ被害。その真相をめぐる争いは、今後、裁判や捜査の中でどのような証拠が示されるかによって、大きく動くことになりそうです。

参照:「75歳同僚から強引にキス」訴えた女性横浜市議は”不倫疑惑”の泥沼裁判を抱えていた
   「私はセクハラの被害者です」「不倫関係だったので性被害などない」どちらが真実?