Netflixのドキュメンタリー『キッドナップ: エリザベス・スマート誘拐事件』は、2002年にアメリカ・ユタ州で起きた少女誘拐事件を扱った作品です。当時14歳だったエリザベス・スマートが、自宅で眠っているところを何者かに連れ去られた事件で、約9カ月にわたる捜索と、彼女が保護されるまでの経緯が描かれています。

作品では、事件から年月が経ち、成人したエリザベス本人が当時の出来事を振り返ります。さらに、事件を経験した彼女が、その後どのように困難と向き合い、人生を立て直していったのかにも焦点を当てています。本人による率直で力強い証言に加え、これまで公開されていなかった警察資料も紹介されており、単なる誘拐事件の記録にとどまらない内容になっています。

この作品の大きな見どころの一つが、エリザベスを連れ去った人物です。誰が、どのような経緯で彼女を誘拐したのかという点には意外性がありますが、ここではあえて詳しく触れません。事件の展開はサスペンス映画を思わせるほど緊張感があるため、事前に情報を入れずに鑑賞したほうが、より楽しめる作品だと思います。

誘拐された当時、エリザベスは両親と5人のきょうだいとともに、8人家族で暮らしていました。ドキュメンタリーには、エリザベス本人をはじめ、妹のメアリー・キャサリン、そして両親が登場します。

家族4人はいずれも整った顔立ちをしており、14歳だったエリザベスはもちろん、9歳のメアリーも可愛らしい印象です。そうした少女が自宅から突然連れ去られたという事実を知ると、事件の背景に性的な目的があった可能性を自然と想像してしまいます。

事件の解決において、とりわけ重要な役割を果たすのが妹のメアリーです。彼女は、姉が連れ去られる場面をベッドの中で息を潜めながら目撃していました。

しかし、事件直後の証言では、犯人について「どこかで聞いたことのある声だった」「会ったことがある人物だった」という程度の記憶しかありませんでした。それでも、事件発生から4カ月ほど経ったある日、ギネスブックを読んでいたメアリーの頭に、姉を誘拐した人物の名前が突然浮かびます。この場面は、本作の中でも特に印象に残りました。

一方、捜査の過程では、エリザベスの父親までもが疑いの目を向けられます。きっかけとなったのは、父親がテレビに出演した際の泣いている姿でした。視聴者の一部から「泣いているのに涙が出ていない」と指摘されたことで、娘の失踪に父親自身が関与しているのではないかという疑いが生まれます。

「泣いているのに涙が出ていない」という話を聞くと、松田聖子を思い出します。こちらの場合は「ウソ泣き」や「ぶりっ子」などと揶揄される程度で済みますが、エリザベスの事件では、それが娘の失踪に関わる犯罪の疑いにつながってしまいます。同じ「涙の出ない泣き顔」でも、置かれた状況によっては、これほどまでに深刻な意味を持つのかと思わされます。

エリザベスが経験した出来事は、あまりにもつらく、重いものです。それでも本人は、事件後も前を向いて生きていきます。過去の出来事に苦しみながらも、そこから立ち上がり、自分の人生を歩んでいく姿には、人間の持つ強さを感じます。

凄惨な事件を扱った作品でありながら、最後に残るのは絶望だけではありません。エリザベス本人の言葉と生き方を通して、困難を乗り越えていく力や、未来への希望を感じられるところに、本作の大きな魅力があると思います。