「異端者の家」 2024年製作 アメリカ,カナダ 原題:Heretic
監督・脚本をスコット・ベックとブライアン・ウッズが務めた映画『異端者の家』は、ヒュー・グラントの怪演と、宗教や信仰をテーマにした緊迫感あふれる心理劇が見どころと言われています。『クワイエット・プレイス』の脚本家コンビが手がけた本作は、単なる脱出サスペンスではなく、観る者にさまざまな問いを投げかけるシチュエーション・スリラーに仕上がっています。
物語は、モルモン教の若い女性宣教師であるパクストンとバーンズが、布教活動のため森に囲まれた一軒家を訪れるところから始まります。二人は親切そうな男性リード(ヒュー・グラント)の家へ招き入れられますが、そこから巧妙な宗教的罠にはまり、監禁と支配の恐怖に巻き込まれていきます。
冒頭では、パクストンとバーンズの何気ない雑談が描かれます。パクストンが「マグナム・コンドームってレギュラーサイズと同じらしいよ」と切り出すと、バーンズは「姉の元夫は巨大ペニスだった」と応じるなど、意外性のある会話が続きます。
さらにパクストンは「素人が出演するポルノ」の話題を持ち出し、「そういうのをよく観るの?」と聞かれると、慌てて否定します。若い宣教師らしからぬやり取りは興味深いものの、この会話が物語全体でどのような意味を持つのかは、最後までよくわかりませんでした。
一方、二人を迎え入れたリードは、宗教について独自の持論を延々と語ります。とくに、ボードゲーム「モノポリー」の歴代デザインを比較しながら持論を展開する場面は印象的です。箱のイラストやゲームデザインの変遷は興味深く見られるものの、そこから導き出される結論には共感しにくく、何を伝えたいのか理解しづらく感じました。
タイマー式で施錠される玄関や、帰ろうとする来客に二つの出口から一方を選ばせる仕掛け、さらには死者がよみがえるように見せるトリックなど、アイデアに富んだ見どころは数多くあります。しかし、その一方で会話劇の比重が大きく、登場人物たちの議論が何を意味しているのか非常にわかりにくいため、作品全体を難解な印象にしています。
とくにリードが宗教観を語る場面は長く、内容も抽象的です。こうした場面を半分程度に整理してテンポを良くしていれば、サスペンスとしての緊張感がより際立ち、さらに楽しめる作品になったのではないかと思いました。
一方で、ヒュー・グラントの演技は高く評価されています。本作での熱演により、第82回ゴールデングローブ賞の最優秀主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)にもノミネートされました。
ヒュー・グラントは、本作の脚本を読んだ当時の印象について次のように語っています。
「この役は引き受けるべきだと感じた。とても奇妙で勇敢な作品だったし、きっと演じることを楽しめると思った。俳優として自分の力をどこまで発揮できるかわからなかったが、大きな挑戦になると感じた。
リードという人物を考えるうえで、彼は孤独でありながら、自分は面白い人間で人気教授のような存在だと信じ込んでいるとイメージした。本当は周囲から嫌われているのだが、だからこそ演じがいがある。魅力的であると同時に恐ろしいキャラクターだからだ」
また、ヒュー・グラントは「この10年ほど、なぜか変わり者の役に惹かれてしまう。まるで中毒者のように、さらに強い刺激を求めてしまう」とも語っています。そのため役作りでは脚本を徹底的に読み込み、連続殺人犯やカルト教団の指導者についても入念にリサーチを重ねたそうです。
参照:『異端者の家』ヒュー・グラント インタビュー
