「瀑布」 2021年製作 台湾 原題:Pu bu/The Falls
 

チョン・モンホン監督の台湾映画『瀑布(ばくふ)』を視聴しました。監督によると、この物語は友人の娘さんに実際に起こった出来事を基にしているとの事だそうです。本作は台湾のアカデミー賞にあたる金馬奨で4冠を達成した話題作です。

ユーザーレビューを見ると、「監督が何を伝えたかったのかわからない」と低く評価する人がいる一方で、「不安や葛藤を抱えながら生きる人間の複雑な心理が丁寧に描かれている」と絶賛する人もいます。評価は大きく分かれており、観る人によって受け止め方が異なる作品だと感じました。

タイトルの「瀑布(ばくふ)」という言葉になじみがなかったため調べてみると、滝を意味する言葉でした。河川の水が断崖や急斜面を勢いよく流れ落ちる様子を表し、自然の雄大さや力強さを象徴する言葉として使われています。

劇中では、突然激しい水音が響き渡る場面があります。その演出からは、人生の激流にのみ込まれ、抗うことなく落下していく恐怖と、その先にある再生への希望が象徴的に描かれているように感じました。

物語は、新型コロナウイルスの流行下、自宅で自主隔離生活を送る母と娘を中心に展開します。母親を演じるアリッサ・チア(賈静雯)と、娘役のワン・ジン(王淨)の迫真の演技は、本作最大の見どころのひとつです。

二人が暮らす高級マンションは、外壁工事のため建物全体が青いシートで覆われています。室内に差し込む青い光は、外の世界から切り離された閉塞感や登場人物の孤独を印象的に映し出しています。息苦しい日常の中で母娘は大きな問題に直面し、その関係も少しずつ揺らいでいきます。

やがて母親の被害妄想が明らかになり、支える側と支えられる側の立場が逆転していく展開に引き込まれました。一場面ごとの会話や表情、そして沈黙が雄弁に感情を語り、静かな余韻を残します。

母親は外資系企業を解雇されたことで家賃を支払えなくなり、母娘は引っ越しを余儀なくされます。母親は離婚後も元夫への思いを断ち切れずにいました。そんな状況で交わされる親子の会話が、とりわけ印象に残りました。

母が娘に尋ねます。

「パパには?」
「電話した」

「引っ越しのことは何て?」
「気にする必要はない。もう関係ないよ」

「どうして? あなたの父親よ」
「ただの精子提供者だよ」

「どこでそんな言葉を?」
「ママが言ってた。小さい頃、パパとママはよくケンカしてた。ママはパパを無責任だと責めて、『ただの精子提供者』だと言った」

この短いやり取りだけでも、家族が積み重ねてきた傷や娘の複雑な感情が痛いほど伝わってきます。

本作は単なる闘病映画ではありません。極限状態に置かれた母と娘が互いを求め、ぶつかり合いながらも少しずつ理解し合っていく姿を、緊張感あふれる心理描写で描いた人間ドラマです。

劇中で母娘の部屋の壁に映画のポスターが飾られている場面があります。よく見ると、それは黒澤明監督の『どですかでん』でした。この演出には思わず目を奪われました。

『瀑布』が描く「困難の中で人生が大きく揺らぎ、それでも再生へ向かう」というテーマは、『どですかでん』に通じる人間賛歌へのオマージュなのかもしれません。実際、チョン・モンホン監督は過去のインタビューで、黒澤明監督から強い影響を受けたことを公言しています。そのことを知ると、このポスターが劇中に登場する意味も、より深く理解できるように思いました。