週刊文春7月9日号が報じた佐藤二朗さんと橋本愛さんを巡るハラスメント問題については、すでに多くの人がさまざまな意見を述べています。議論も出尽くした感があります。
しかし、文春の記事のどこが誇張されていたのか、そして佐藤さん自身が何を考え、何を伝えたかったのかが明らかにならなければ、どれだけ推測や憶測を重ねても真相にはたどり着けません。そうした中、週刊新潮が文春への反論という形で掲載した「佐藤二朗(57)が語った全真相」は、当事者の視点を知るうえで非常に意義のあるインタビューだったと感じました。
● 「私は違います。ルールを決めませんか」
橋本さんは約10年前に共演者からハラスメントを受けた経験があり、その影響から身体接触に一定の制限を設けていました。しかし、その重要な情報は制作側から佐藤さんへ十分に共有されておらず、3月下旬にドラマ『夫婦別姓刑事』の撮影で佐藤さんが橋本さんの顎に触れる芝居を行ったことが問題になりました。
当初、橋本さんの所属事務所は、日常的なシーンで想定される身体接触であれば問題ないとの認識を示していたといいます。それにもかかわらず、顎に触れたことがハラスメントとして扱われたため、佐藤さんには途中で基準が変わったように映ったのでしょう。
本来であれば、制作側が現場を適切に管理し、身体接触に関するルールを一貫して共有しておくべきだったはずです。その対応が徹底されていれば、今回の混乱は避けられた可能性があります。
佐藤さんはチーフプロデューサーと話し合いましたが解決には至らず、自ら橋本さんの楽屋を訪ねて直接思いを伝えることにしました。
「あなたが抱えている心の傷は尊重します。ただ、お芝居には綿密に計算された演技だけでなく、その場の流れの中で自然に生まれる表現もあります。もちろん最大限配慮しますが、夫婦役を演じる以上、絶対に身体接触をしないとお約束することはできません」
橋本さんはうなずいたものの、その後約1時間半楽屋に閉じこもったそうです。その後、チーフプロデューサーとともに再び楽屋を訪れると、橋本さんと所属事務所の社長がいました。
そこで橋本さんは、次のように話したといいます。
「佐藤さんは芝居ファーストかもしれませんが、私は違います。ですからルールを決めませんか。肩や腕以外に触れる必要がある場合は、事前に確認していただきたいです」
橋本さんがこのような要望を出した背景には、過去のハラスメント被害があったのでしょう。その事情は十分に理解できます。
一方で、現場をともに支える共演者への配慮という点では、やや一方的な印象を受けたのも事実です。そのため、このやり取りからは橋本さんの慎重な姿勢ばかりが強く印象に残りました。
● 「橋本さんはもう限界です」
新潮の記事では、文春が「あなたは役者をやるべきではない」と佐藤さんが強い口調で橋本さんを非難したと報じた点についても、本人が詳しく説明しています。
佐藤さんは、文春の記事は発言の一部だけが切り取られ、本来の趣旨とは異なる形で伝えられたと主張しています。また、怒鳴るような口調ではなく、作品の完成度を評価したうえで次のように話したと説明しています。
「橋本さんの傷が最大限尊重される社会であってほしいと心から思います。でも、今後も夫婦役を演じる相手に対し、日常的な身体接触まで制限しながら、その内容を事前に共有しないのであれば、役者は続けるべきではないと私は思います。今回は二人でいい芝居をして、いい作品にしましょう」
この言葉に対し、橋本さんは最後には笑顔で応じたといいます。
その後、4月中旬になると佐藤さんはフジテレビへ呼ばれ、コンプライアンス担当の弁護士・江黒早耶香(えぐろ さやか)氏から事情聴取を受けました。この場面については文春でも詳しく触れられておらず、今回の問題を考えるうえで重要な部分だと感じます。
江黒弁護士は、
「橋本さんはもう限界です。いつ倒れてもおかしくない状態です。本当に彼女がつぶれてしまったら、佐藤さんのタレント生命にも傷がつきますよ」
と伝えたそうです。佐藤さんは、この言葉を脅しのように受け止めたといいます。
さらに、3月22日の顎への接触をハラスメントと断定したうえで、
「佐藤さん、あなたは橋本さんに『役者を辞めろ』と言いましたね」
と繰り返し確認されたそうです。
佐藤さんは、自分を加害者と決めつけたうえで事情聴取が進められているように感じ、このまま俳優人生が終わるかもしれないという強い恐怖を覚えたと語っています。
● 橋本さんと目を合わせることも控えた
事情聴取はさらに続き、江黒弁護士から次のような指示を受けたといいます。
・橋本さんと二人きりで雑談をしてはいけない。
・大人数の場では自然に接すること。
・楽屋へ入ってはいけない。
・重要な話はマネージャーを通すこと。
・芝居で身体接触が必要な場合は事前に了承を得ること。
こうした指示を受けた結果、佐藤さんは自分の身を守るため、橋本さんと目を合わせることさえ避けるようになったそうです。
少しでも接点を減らせば、コンプライアンス違反と指摘されるリスクを避けられると考えたのでしょう。挨拶をしただけでも「不要な会話をした」と受け取られるのではないかという不安を抱えながら撮影に臨んでいたといいます。
そんな中、フジテレビのドラマ部門トップである第1スタジオ局長が佐藤さんを訪ね、こう話したそうです。
「二郎さん、コンプライアンス部門に『橋本さんへ挨拶もしない』というクレームが来ています。挨拶くらいはしてください」
さらに局長は、
「江黒弁護士の要求は行き過ぎていたと思います。あれだけ細かく言われれば、二郎さんでも挨拶を控えるようになります。こちらから彼女には注意しておきました。また、江黒弁護士も謝罪したいと言っています。近くまで来ていますので、少しだけ会っていただけませんか」
と説明しました。
しかし佐藤さんは「会いたくない」と断ったそうです。それでも局長の説明を聞いたことで少し安心し、その後は橋本さんの目を見て挨拶できるようになったといいます。
今回の報道を通して感じるのは、佐藤さんが語った「このままでは誰も幸せにならない」という言葉です。
一連の問題で得られた教訓があるとすれば、出演者それぞれの事情や身体接触に関するルール、配慮すべき事項は、制作側が責任を持って関係者全員へあらかじめ共有しなければならないということです。
現場の混乱を防ぐためにも、制作会社や放送局には、情報共有の仕組みをより徹底することが求められるのではないでしょうか。
参照:〈佐藤二朗独占インタビュー〉橋本さんサイドは、日常的なシーンの身体接触はOKとしていた
