「ドールハウス」 2025年製作 日本

 

矢口史靖監督の『ドールハウス』は、娘を亡くした母親が、骨董市で見つけた亡き娘によく似た人形に翻弄される姿を描くドールミステリーです。

『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』など、数々のコメディ作品を手がけてきた矢口監督が、初めて本格ホラーに挑んだ意欲作でもあります。日常が少しずつ狂気へと変わっていく過程を丁寧に積み重ねる心理描写が、大きな見どころです。

長澤まさみは、娘を失った悲しみから人形に心を寄せ、次第に常軌を逸した行動へと向かう母親・佳恵を熱演しています。悲しみや戸惑い、狂気が入り混じる表情の変化は圧巻で、観る者を作品の恐ろしい世界へ引き込みます。

ホラー映画を観るのはひさしぶりでした。ユーザーレビューでは高評価が目立っていたものの、自分も本当に楽しめるのだろうかと半信半疑でした。

しかし、その心配は不要でした。物語はよく練られており、しっかりとしたストーリーに加え、思わず身構えるような恐怖もあれば、くすりと笑える場面もあります。緩急のある展開のおかげで、最後まで飽きることなく楽しめました。

矢口史靖監督は、本作で脚本も担当しています。

「子どもを失った母親がドールセラピーで心を癒やそうとするけれど、その人形がいわくつきだったらどうなるだろう……という発想をもとに、思いつくまま、どんどん書き進めていきました。」

このように語っており、作品の着想そのものが物語の核になっています。

ドールセラピーは、認知症ケアや高齢者の心のケアを目的としてオランダで始まり、現在では日本でも介護施設や家庭などで広く取り入れられています。

人形を抱いたり触れたりする行為には、オキシトシンなどの「幸せホルモン」の分泌を促し、不安や孤独感を和らげる効果があるとされています。また、本物に近い赤ちゃん人形を抱くことで子育ての記憶が呼び起こされ、情緒が安定したり、会話が増えたりするともいわれています。

ただし、安価な人形ではそれほど感じませんが、高額な人形は驚くほど精巧に作られています。遠目に見ると本当に人が立っているように見え、一瞬、生きている人間と見間違えてしまうほどです。

もし亡くなった家族そっくりの実物大の人形を作ってもらえるとしたら、私も怖さを感じながら、それでも手元に置いてみたいと思うかもしれません。人は、たとえ作り物だとわかっていても、姿形が大切な人に似ていれば自然と感情を重ねてしまうものです。本作は、そうした人間心理を巧みに物語へ取り入れていると感じました。

物語のなかでも、とくに印象に残った場面があります。娘を亡くした母親が骨董市で買った人形を見て、夫は「もしかしたら生きているのではないか」と疑い、病院でCTスキャンを受けさせます。すると、人形の内部に人間の骨が入っていることが判明します。この意外な展開は、本作でお気に入りの場面のひとつとなりました。