顧客に睡眠薬を飲ませて現金約1800万円を奪い、証拠隠滅のため住宅に放火したとして起訴された野村證券の元社員(30)の控訴審が2日、広島高裁で始まりました。

弁護側は「強盗殺人未遂には当たらず、被告に殺意はなかった」と主張しています。しかし、睡眠薬で抵抗できない状態にしたうえで住宅に火を放った以上、この主張が認められる可能性は低いのではないかと感じます。

● 「現金を用意しておいてください」
梶原優星被告は2018年4月に野村證券へ入社し、事件当時は広島支店に勤務していました。

被害者の80代男性は大口顧客で、前任者から引き継ぐ形で被告が担当となりました。しかし、男性は認知機能が変動する病気を患っており、妻は法廷で「現金を管理できる状態ではなかった」と証言しています。

さらに妻によると、夫の病気を知った他の証券会社の担当者は営業に来なくなりましたが、梶原被告だけは違いました。

「僕がうまくやりますから。現金を用意しておいてください」

こう言われたことで、夫もその気になり、多額の現金を準備するようになったといいます。

● 投資の失敗が犯行の背景に
検察側によると、被告は証券会社で勤務する一方、為替相場を予測するバイナリーオプション取引を繰り返し、2024年3月頃には累積損失が約2000万円に達していました。

その穴埋めを目的に被害者宅から現金を盗む計画を立て、犯行後の証拠隠滅を図るため放火まで計画したとされています。

被害者宅には約1800万円の現金が保管されていました。この現金は、被告の求めに応じて妻が金融機関から引き出し、自宅で保管していたものでした。

2024年7月28日、被告は夫が株取引で利益を上げた祝いとして、高級な日本酒のスパークリングを手土産に被害者宅を訪問しました。

3人で寿司を囲みながら飲食する中、被告は事前に準備していた睡眠薬を妻に飲ませます。

体調の異変を感じた妻は2階の寝室へ向かい、被告も後を追いました。妻がベッドに横になると意識を失い、その間に被告は現金を持ち去り、押し入れに火を放ちました。

妻は「パチパチ」という音と焦げ臭いにおいで目を覚まし、1階にいた夫とともに屋外へ避難して一命を取り留めました。

この事件は、証券会社の営業担当という立場を悪用し、高齢の顧客との信頼関係を逆手に取った極めて悪質な犯行です。

● 「別の証券会社でも起こる」
公判では、検察側から「野村證券社員という立場を利用した犯行ではないか」と問われた被告は、ほとんど間を置かずにこう答えました。

「別の証券会社でも起こると思いますけど」

被害者宅の焼損を含めた財産被害は約8300万円に上り、現金被害だけでも約2600万円に及ぶとされています。

被告の両親は法廷で「今すぐとは言えませんが弁償を検討しています」「かき集めれば何とか……」と話し、苦しい胸の内を明かしました。

● 野村證券の対応
この事件によって、野村證券の信用は大きく損なわれたといえます。

同社は「可能な限り被害者に寄り添い、誠意を持って対応している」と説明していますが、損害賠償や被害弁済の具体的な内容や進捗については公表していません。

事件後の2024年8月2日、被告は広島支店の管理者に犯行を打ち明けました。野村證券は同月4日付で懲戒解雇とし、被告は同年10月に逮捕されています。

さらに同社は2024年12月、企業としての責任を明確にするため、社長ら役員10人が報酬の一部を自主返上すると発表しました。

● 「殺意はなかった」は通るのか
控訴審で弁護側は、「被告に殺意はなく、妻は放火直後に避難しており、昏睡状態とはいえない」と主張しました。

また、一審判決が認定した「睡眠薬の影響で昏睡状態に陥った」との判断を否定し、「昏睡状態を利用した強盗や、死亡の危険性を伴う殺人の実行行為は認められない」として、改めて強盗殺人未遂罪の成立を争っています。

さらに、被害者の妻にけががなかったことなどを理由に、懲役18年は重すぎるとして量刑不当も訴えました。

しかし、睡眠薬で抵抗できない状態にした被害者がいる住宅に放火すれば、「焼け死んでも構わない」という未必の故意が認められても不自然ではありません。

しかも、本件は財産を奪う目的で犯行に及んでおり、強盗殺人未遂罪が成立すれば極めて重い犯罪となります。その点を踏まえると、懲役18年が著しく重い刑だとは言い難いのではないでしょうか。

実際、火災調査を担当した燃焼工学の専門家は、室内の状況について「とても火災の初期段階とはいえない。存命だったのが奇跡だ」と証言しています。

また、被害者の妻は意見陳述で、事件から約4か月後に病気を患っていた夫が亡くなったことを明かしました。

そして、「そんなつもりはなかったと言えば許されるのでしょうか。夫は謝罪を受ける機会さえ奪われました」と述べ、厳しい処罰を求める思いを訴えました。

参照:元・野村證券の男の控訴審始まる 一審では顧客宅で現金を盗み殺害した罪で懲役18年の判決
    金融界に汚点残す顧客強盗殺人未遂・放火事件 野村証券元社員が法廷で語った身勝手な弁明