去年3月、東京都内でライブ配信中だった女性が殺害された事件で、被告の男の裁判が始まりました。女性の熱心なファンだった男が、なぜ殺害にまで及んだのか。その背景には、長期間にわたる金銭トラブルがありました。
● 女性に負わせた傷は61か所
事件が起きたのは去年3月、東京・新宿区の路上です。
ライブ配信中だった「最上あい」の名前で活動していた佐藤愛里さん(22)は、「山手線を一周します」と視聴者に伝えながら配信を続けていました。その最中、刃物を持った男に襲われ、命を落としました。
殺人などの罪に問われているのは、栃木県小山市の職業不詳、高野健一被告(44)です。
初公判で高野被告は「間違いありません」と起訴内容を認め、「本当に申し訳ありませんでした」と謝罪しました。
検察側は証拠調べで、佐藤さんの体には61か所もの傷があったことを明らかにしました。
この事件では、ライブ配信によって居場所が特定される危険性や、投げ銭や個人的な金銭のやり取りが重大事件へ発展するリスクが改めて浮き彫りになりました。
高野被告は、山形駅でのライブ配信などから佐藤さんの居場所を把握したとされます。日常的な情報発信が、ストーカー行為や襲撃のきっかけになる危険性も指摘されています。
また、高野被告はキャバクラ代や借金などとして多額の金銭を佐藤さんに渡していました。「貸した金を返してもらえなかった」「裏切られた」という思いが募り、強い恨みへと変わっていったとみられています。
● 佐藤さんの口座残高は160円余り
高野被告は2021年12月ごろ、ライブ配信サイトを通じて佐藤さんと知り合いました。投げ銭を繰り返すうちに、LINEで直接連絡を取り合う関係になったといいます。
2022年8月ごろには、栃木県から山形県にある佐藤さんの勤務先のキャバクラへ4回通い、合計77万円を支払いました。その翌月からは佐藤さんへ金を貸すようになり、貸付総額は254万円を超えました。しかし、返済されたのは3万円だけでした。
高野被告は2023年8月、貸付金を回収するため民事訴訟を起こし、佐藤さんの預金口座を差し押さえました。しかし、口座に残っていたのは160円余りだったといいます。
一方で、佐藤さんはライブ配信アプリで月収100万円クラスとされる配信者ランクに位置付けられていました。
差し押さえた口座に160円しか残っていなければ、その口座から回収できるのも160円だけです。ただし、給与や不動産、動産など別の財産が見つかれば、改めて強制執行を申し立てることは可能です。
また、勤務先が分からない場合でも、裁判所を通じて相手の財産を調査する法的手続きを利用できます。こうした制度を高野被告が十分に理解し、活用できるよう支援する人がいなかったのかという点も考えさせられます。
● 23日間で約254万円を貸していた
2022年11月、佐藤さんは所属事務所の社長と婚約し、結婚予定であることを公表しました。
検察側は、こうした出来事をきっかけに高野被告が復讐を決意したと主張しています。そして2025年2月にナイフを購入し、佐藤さんが山手線を一周しながらライブ配信する計画を知って犯行に及んだとしています。
一方、弁護側は冒頭陳述で、高野被告は大学を中退後に就職したものの、人間関係を理由に退職したと説明しました。その後は統合失調症と診断され、月7万円の障害年金を受給しながら生活していたとしています。
高野被告は、ライブ配信サイトで知り合った佐藤さんからLINE交換を提案され、知り合って1か月もたたないうちに直接会う約束をしました。その後、山形県内のキャバクラへ通い、総額77万7,420円を支払いました。
さらに、「財布を忘れて手持ちがない」「店長から10万円のシャンパンを入れるよう言われた」「携帯料金が払えない」などの理由で金を貸してほしいと頼まれ、わずか23日間で約254万円を貸したとされています。
その際、佐藤さんは消費者金融で借り入れをして自分に貸すよう求めていたということです。当初は「大好き」などのメッセージを送っていましたが、その後は返信が途絶えました。
高野被告はSNSを通じて返済を求めましたが、返済されたのは一度だけで、金額は3万円でした。
事件の約1年半前には、高野被告は民事訴訟を起こしており、このころから知人に不満を漏らしていました。知人へ送ったLINEには、次のような内容が残されていました。
「お金が返ってくるなら忘れて生きようと思ってたけど、返ってこないならもうどうでもいい」
「復讐だけしたい方向になった」
一方、検察側の証拠調べでは、佐藤さんの母親の供述も読み上げられました。
「愛里がお金を返していなかったのなら、それは悪いことですし、ごめんなさい。ですが、なぜ殺してしまったのか、ほかに方法はなかったのかと思います」
「一生、許すことはできません。厳しい処罰を求めます」
参照:《ライバー刺殺・初公判》「キャバクラで77万円使い、254万円以上貸した」女性の傷は61か所
ライブ配信中の22歳女性を殺害 ファン一転「復讐したい」44歳被告男
