
斎藤元彦兵庫県知事の定例記者会見で、菅野完(すがの・たもつ)氏が6月3日に「人殺しやないか、お前は」と発言したことが大きな話題となりました。これを受け、斎藤知事は名誉毀損容疑で菅野氏を刑事告訴しています。
● ドクターヘリが飛ばない状況も「人殺し」と批判
菅野氏と同様に、毎回鋭い質問を投げかける選挙ウォッチャーの「ちだい」氏は、会見で次のように質問しました。
まず、「斎藤知事は内部告発した職員を自殺に追い込んだとして、『人殺し』という批判を受けても不思議ではありません」と前置きしたうえで、こう問いかけました。
「例えば、猛暑が予想される今夏にドクターヘリが飛ばなくなったことについても、『人殺し』と批判されることがあると思います。これは県庁内部の問題ではなく、県民の命に関わる問題です。このような指摘を受けた場合でも、斎藤知事は『人殺し』と批判した相手を刑事告訴するのでしょうか」
この質問は、会見冒頭で知事が説明した整備士不足によるドクターヘリの運航停止問題を踏まえたものです。
これに対し、斎藤知事は次のように答えました。
「今の発言には不適切な言葉が複数含まれておりますので、幹事社におかれましては、どのように取り扱うかご検討いただきたいと思います」
知事は質問の本質には答えず、定例会見を運営する幹事社に判断を委ねました。自らの考えを率直に示さない対応は、これまでの会見でも繰り返されてきた姿勢と変わりませんでした。
● 整備士不足でドクターヘリが運航停止
では、整備士不足によるドクターヘリの運航停止とは、どのような問題なのでしょうか。
ドクターヘリは、救急医療の専門医と看護師を乗せて現場へ急行し、その場で治療を開始する「空飛ぶ救命救急室」です。患者を病院へ搬送する時間を短縮するだけでなく、早期治療によって救命率の向上や後遺症の軽減にも大きく貢献しています。
2025年8月31日の報道では、整備士不足のため7月から運航が停止している状況が伝えられました。
1分1秒を争う救急医療の現場では深刻な影響が出ています。関西や東京などを拠点とするドクターヘリは、運航会社の整備士不足を理由に7月から運航を休止しました。その結果、運航できない地域では救急車で長距離を搬送したり、ほかの地域のヘリに出動を依頼したりする対応を余儀なくされています。
運航を担う神戸市のヒラタ学園は、「関係者や地域住民にご迷惑をおかけし、事態を重く受け止めています。人員確保を進め、継続的な運航ができるよう全力で取り組みます」とコメントしました。
兵庫県では、公立豊岡病院と県立加古川医療センターを拠点とする2機のドクターヘリが運航されています。しかし、ヒラタ学園の整備士不足により、7月から約3カ月間の運航停止が見込まれています。
こうした中、6月16日に県と関係機関が対応を協議する一方で、但馬(たじま)地域3市2町の市長や副市長らが斎藤知事を訪れました。
但馬地域では、公立豊岡病院のドクターヘリが救急搬送の要となっています。市長らは知事に対し、安定運航の確保と地域救急医療体制の維持・強化を求める要望書を提出しました。
但馬地域のドクターヘリは、1日平均約3.2件、年間約1,600件の出動要請に対応しています。これは全国でもトップクラスの運航実績です。
6月20日には、整備士不足による長期的な運航停止が懸念される問題について、兵庫県が国へ要望書を提出しました。守本真一副知事と朝来市の藤岡市長らが、豊岡市を訪れた上野賢一郎厚生労働大臣に要望書を手渡しています。
本来であれば、こうした場面では斎藤知事が前面に立つべきではないでしょうか。しかし、実際に国へ働きかけたのは守本副知事でした。
その約1週間後、斎藤知事も対応に乗り出しましたが、副知事がすでに国へ要望書を提出したあとで、「これからは県が主体となって取り組む」と発言した点には違和感が残ります。
● 斎藤知事「県が主体となって」
ドクターヘリ2機が整備士不足により断続的な運航停止となっている問題を受け、斎藤知事は6月28日、公立豊岡病院を訪問しました。病院関係者らと安定運航に向けた意見交換を行い、現場の状況を確認しています。
国の研究班が示した運航基準では、ドクターヘリには操縦士を補佐する整備士が同乗することになっています。しかし、県医務課によると、病院側からは整備士の代わりにもう1人の操縦士を乗せる「2パイロット制」の早期導入を求める意見が出されました。
一方で、整備士が機内にいなければ、飛行中の機体やエンジン音の異常、計器のわずかな変化を専門的な視点で確認できなくなります。
そのため、2パイロット制には、機体整備やトラブル対応の専門的な確認体制が弱くなることや、無線通信・運航支援の負担が増えることなど、安全面での懸念が指摘されています。
視察後、斎藤知事は報道陣に対し、「ドクターヘリはこれまで関西広域連合として対応してきましたが、これからは県が主体となり、関係者と連携しながら安定運航に向けてしっかり取り組んでいくことを確認しました」と述べました。また、7月上旬にも2パイロット制の導入について最終判断する考えを示しました。
しかし、このタイミングでドクターヘリ問題に積極的な姿勢を見せたことは、「県政に取り組んでいる」という印象を県民に与えるためのアピールと受け取られても仕方がないでしょう。
実際、この問題を報じた記事や知事自身のSNSには、「対応が遅すぎる」「今さら動き始めた」といった趣旨のコメントが数多く寄せられています。こうした反応を見る限り、多くの県民は知事の姿勢を冷静に見ており、表面的なパフォーマンスだけでは評価されない状況になっていることがうかがえます。
参照;【ドクターヘリ整備士不足・運航停止問題】病院側は「2パイロット制」を要望
「会見続けられない」「怖くて何も言えなくなる」 斎藤知事会見 刑事告訴でヒートアップ