2016年7月26日、神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者らが刃物で襲われる殺傷事件が発生しました。この事件では入所者19人が死亡し、職員3人を含む27人が重軽傷を負いました。犠牲者数は戦後の殺人事件として最悪とされています。
事件後、逮捕された元職員の植松聖死刑囚は、「障害者はいなくなればいい」などと供述し、障害者の存在そのものを否定する考えを示しました。2020年3月、横浜地方裁判所で死刑判決を受け、自ら控訴を取り下げたことで刑が確定しています。
● きっかけは、愛情というよりも強い興味
その植松死刑囚と獄中結婚した女性がいます。19人もの命を奪った人物と、なぜ結婚に至ったのか。その選択は、被害者たちの人生を軽視しているようにも映り、多くの人に衝撃を与えました。
女性は翼さん(仮名)といい、結婚を決意した理由を手記で次のように説明しています。
「私が彼と関わるようになった最初のきっかけは、愛情というよりも強い興味だったと思います。
19人もの命を奪うという、一線を越えた人間は何を思い、何を考え、生きているのか。
なぜそこまで至ったのか。その内側を知りたい、その人間そのものを見たい。
そんな思いが、植松聖さんとの始まりでした。世間から見れば、私の選択は理解されないものだったと思います。
獄中結婚という形を選んだことで、多くの批判を受けました。
そして何より、その行動によって傷ついた被害者ご遺族の方々がいたことを、私は忘れていません。
私が彼と結婚したこと、それ自体が苦しみや怒りを呼び起こしてしまったかもしれない。
そのことについて、心から申し訳なく思っています。
それでも、私にとって植松聖さんと向き合った時間は、確かに意味のある時間でした。
面会室で、アクリル板越しに手を合わせたことがあります。
触れることはできない。
その透明な壁は、物理的な距離だけではなく、彼が背負った現実そのもののようにも思えました。」
なお、「翼」という仮名は月刊『創』編集長の篠田博之氏が付けたものです。篠田氏は二人の獄中結婚を仲介した人物でもあります。一方で、「植松」という姓については正式な婚姻によるものであり、戸籍上もその姓になっています。
死刑が確定した死刑囚は、原則として外部との接見や文通が家族や弁護人に限定されます。そのため、交流を続けるために結婚という形を選び、法的な家族になるケースも少なくありません。
● 高校生の頃、性的暴行を受けた経験
翼さんは2024年に植松死刑囚と結婚しましたが、その背景には自身の性被害によるトラウマがあったと明かしています。事件への関心を抱く中で、植松死刑囚の思想や存在に何らかの救いを見いだしたといいます。
翼さんが15歳だった高校生の頃、性的暴行を受けた経験がありました。本人によると、加害者は入院先の病院で知り合った知的障害のある男性だったといいます。
性的経験のなかった翼さんは大きな衝撃を受け、当初は家族にも打ち明けられませんでした。その後、警察による捜査が行われましたが、相手は容疑を否認し、証拠不十分のため立件には至らなかったそうです。
この出来事をきっかけに、翼さんは記憶障害を発症しました。朝目覚めると記憶が失われていたり、重要な出来事を忘れてしまったりする症状があり、複数の医師から解離性健忘と診断されたといいます。
ただし、日常生活には大きな支障がなく、周囲にも障害があると認識されていないことが多いそうです。
その後もPTSDと向き合いながら治療を続ける中で、津久井やまゆり園事件が起きました。その事件に触れたことで複雑な感情が生まれ、植松死刑囚への関心につながったとされています。
しかしその後、翼さんと植松死刑囚の離婚が正式に成立したことが明らかになりました。
2年前、翼さんからの電話をきっかけに獄中結婚の仲介役を務めた篠田博之氏によると、本来は7月7日発売の月刊『創』8月号の特集「やまゆり園事件10年」の中で発表する予定だったといいます。しかし、通信社などから問い合わせが相次いだため、予定を早めて公表することになったそうです。
● あたたかい家族を持ちたいと思う
離婚の理由について、翼さんは手記で次のように説明しています。
「彼と関わる中で、不思議なことに私は「死」ではなく「生」を考えるようになりました。
人の命が奪われた現実の中にいたからこそ、逆に私はいつか新しい命を授かりたい、あたたかい家族を持ちたいと思うようになりました。
そんな気持ちが少しずつ私の中に生まれていきました。
そして今、私のそばには新しいパートナーがいます。
彼もまた、植松聖さんとはまったく違う形で、私自身を変えてくれた存在です。
人を愛すること。
日常を積み重ねること。
誰かと未来を考えること。
そういう当たり前の幸せを、私は彼といる中で少しずつ知っていきました。
植松聖さんとの時間が私に「生」を考えさせ、今のパートナーとの時間が私に「生きること」
篠田氏は5月31日に公開した記事で、「この獄中結婚は、扱い方によっては興味本位の話題として消費されかねない。しかし、関心を持った人には正確な事実を知ったうえで、死刑制度について考えるきっかけにしてほしい」と述べています。
参照:やまゆり園障害者殺傷事件の死刑囚の獄中結婚について離婚が成立! 翼さんの手記公開!
やまゆり園障害者殺傷事件10年の節目に植松聖死刑囚と翼さんとの新たな離婚騒動が…

