春日武彦の『顔面考』を読んでいたら、楳図かずおの短編マンガ『みにくい人』のストーリーが紹介されていました。その作品は、顔の美醜が絶対的な価値基準となっている世界を描いています。それだけでなく、友情のバランスや嫉妬、自己の優位性の上に成り立つ関係性なども描かれており、とても興味深い内容でした。

この作品の紹介を読んで、楳図かずおはストーリー作りが非常に巧みな作家だという印象をあらためて強くしました。また、マンガの絵も黒と白の対比を効果的に使った美しいものになっています。主人公や脇役の女性にはミステリアスな美少女が多く登場し、独特の楳図ワールドを構築しています。

インタビュー形式で書かれた『わたしは楳図かずお――マンガから芸術へ』は、楳図かずおが自身のキャリアを語った最初で最後の自伝です。自身の生涯や代表作である『漂流教室』『洗礼』『わたしは真悟』などについて、本人が詳しく解説しています。聞き手の記者・石田汗太(いしだ かんた)氏は楳図の証言を丁寧に裏付けし、精緻な記録としてまとめ上げています。

読んでいて感じたのは、やはり楳図自身が作品について語る部分が最も面白いということです。一方で、幼少期の田舎暮らしについて語った箇所は、ぼくにはやや退屈に感じられました。

本書では、これまで知らなかった楳図のエピソードも数多く紹介されています。「実はSFが描きたかった」「少年サンデーにはひどい扱いをされた」「漫画は働きすぎて疲れ果て、描く気が起きなくなった」「へび女のモデルは母親だった」など、意外な話の連続で興味深く読みました。



ぼくが最初に読んだ楳図かずおの漫画は『半魚人』でした。主人公の体が徐々に魚へと変化し、うろこが生えていく様子は非常に恐ろしく、今でも強く記憶に残っています。当時はこれほど怖い漫画をほかに知らなかったので、兄妹で回し読みをして、その恐怖を共有したものです。また、楳図のギャグ漫画『アゲイン』や『まことちゃん』も大好きな作品です。

なお、小学館のWebマンガサイト「ビッコミ」では、5月30日の3周年を記念して、楳図かずお、松本大洋、伊藤潤二の作品を期間限定で全話無料公開しています。

『わたしは楳図かずお』の主要部分は、2022年11月から12月にかけて行われた聞き取りをもとにしているそうです。最後の取材は2024年9月20日に行われ、その約1か月後の10月28日、楳図は胃がんのため死去しました。88歳でした。

亡くなった日の午後、楳図はお気に入りのドリンク剤とおにぎりを看護師に所望したそうです。そしてドリンク剤を少し口に含み、「おいしい」と言った後、静かに息を引き取ったといいます。付き添っていた関係者によれば、その表情は「とても安らかな顔」だったそうです。

 

参照:楳図かずおが「特異な感性」の持ち主でも、最期まで愛され続けた納得の理由