松原信吾監督の映画『なんとなく、クリスタル』は、田中康夫のベストセラー小説を映画化した作品です。「クリスタル族」という流行語を生み出した原作をもとに、バブル前夜の東京を舞台として、ブランド志向でどこか空虚な若者たちの日常や恋愛模様を描いています。当時の空気を鮮やかに切り取った青春映画です。
『なんとなく、クリスタル』の原作は、1980年に文藝賞を受賞した田中康夫のデビュー作です。当時はマスコミでも大きく取り上げられ、話題になりました。友人がさっそく本を購入し、ぼくも借りて読んでみたのですが、途中で読むのを断念してしまいました。
小説にはブランド名やレストラン名、学校名、地名などの固有名詞が数多く登場します。しかし、それらが何を指しているのかぼくにはよくわからず、まるで外国語を読んでいるような感覚になったのです。
その原作を映画化した作品がDMM TVで配信されていたため、今回視聴しました。映像作品になったことで、小説よりも内容が格段に理解しやすくなっていると感じました。また、劇中では洋楽が絶えず流れており、その音楽使用料には当時約3000万円が費やされたといわれています。作品の雰囲気づくりに大きく貢献している一方で、そこにかなりの力と資金を注ぎ込んだ印象も受けました。
映画は、両親が海外勤務で不在のなか、自身はモデルのアルバイトで月に約40万円を稼ぐ女子大生・由利(かとうかず子)が主人公です。由利は青山の高級マンションでミュージシャンの恋人と同棲し、華やかな都会生活を送っています。
主演のかとうかず子は、ショートヘアがよく似合うスリムな体形で、活発さと美しさを兼ね備えています。彼女の存在感が作品を支えていると感じました。本作ではヌードシーンにも挑戦しています。なお、かとうかず子は1990年にドラマで共演した東国原英夫(そのまんま東)と結婚しましたが、東国原氏が政治家を目指したことをきっかけに意見が対立し、2006年に離婚しています。
印象的だったのは、由利がお店でたばこを吸おうとしてマッチを探している場面です。そこへ若い男性がライターの火を差し出します。しかし由利は、「人にたばこの火をつけられるの嫌いなの」と冷たく断ります。すると男性は、「じゃあ、これあげる」と言ってマッチを渡します。
由利は笑顔で「ありがとう」と礼を言います。
「よかったら話でもしたいんだけど、ダメ?」
すると由利はこう返します。
「女の子を口説くときに『ダメ?』なんて聞いちゃダメよ。女の子が知らん顔していても押しまくるのが男でしょ」
男性も負けじと、
「じゃあ、改めて押しまくったりして」
と応じます。しかし最後は、由利から「他で修行してきて」とあしらわれ、男性は電話番号だけを残して去っていきます。
ところが後日、由利はその男性に電話をかけます。再会した際、男性から「でも、なんで電話してきたの?」と尋ねられると、由利はこう答えます。
「女の子をひっかけるときに、いつもマッチとライターを用意しているのか聞きたかったから」
この一連のやり取りはとても洒落ていて、会話劇として実にうまいと感じました。登場人物同士の軽妙な駆け引きが印象に残る場面でした。
