
「魔性の香り」 1985年製作 日本
池田敏春監督の『魔性の香り』は、結城昌治の同名小説を原作にしたハードロマンです。夫の束縛と暴力から逃れてきた謎めいた女性・秋子と、彼女を救って同棲生活を始めた男たちとの関係を軸に、極限状態の愛と狂気を描いています。複雑な心理戦とサスペンスフルな展開が続き、最後まで引き込まれました。
アイドル歌手だった天地真理が日活ロマンポルノに出演したことで、公開当時はかなり話題になりました。しかし、もともと天地真理に強い関心があったわけではなく、当時は劇場へ足を運びませんでした。
ところが最近、X(旧Twitter)で『魔性の香り』を高く評価する投稿を目にしました。
「池田敏春監督の映像センスが極まっていて、物語の映画というより映像の映画。特にラストシーンの素晴らしさは近年見た映画の中で群を抜いている」(@kgMn6GdOzJ3250)
そこまで絶賛される作品なのかと気になり、「DMM TV」で配信されていた本作を視聴しました。
物語は、線香花火の光を背景にタイトルが映し出され、大雨の夜に自殺しようとする女性を助ける場面から始まります。その女性が天地真理演じる秋子なのですが、かつてのアイドル時代とはまるで別人のような陰のある表情を見せます。
作中では、線香花火で遊ぶ子どもたちの姿も印象的に描かれます。そしてラストシーンでも再び大雨が降りしきり、その雨に濡れながら微笑む秋子の顔が、一瞬だけアイドル時代の天地真理の笑顔を思い出させました。
正直に言えば、ぼくは“近年見た映画の中で群を抜いている”と感じるほどの衝撃は受けませんでした。ただ、ミステリー要素を含んだ物語は先の展開を予想しながら楽しめましたし、全体として十分に面白い作品でした。
一方で、ロマンポルノ作品として見ると、エロティックな描写はかなり控えめです。普通のサスペンス映画として成立している印象で、いわゆるロマンポルノらしさは薄かったように思います。逆に言えば、「白雪姫」の愛称で人気を集めた天地真理のヌードを、もっと印象的に生かせたのではないかという気もしました。
脚本が石井隆だった点にも興味を惹かれました。石井隆は脚本家や映画監督として知られる以前、劇画『天使のはらわた』で強烈な印象を残しています。性的描写の生々しさだけでなく、人間の感情や欲望を描く巧みさにも圧倒され、初めて読んだときは大きな衝撃を受けました。
山本直樹の『エロって何だろう?』という本を読んでいた際、石井隆に関するエピソードが紹介されていて印象に残っています。劇画家として高い評価を受けていた石井隆ですが、本人は当時の状況について、
「でも“エロ”だと、ご近所では肩身が狭かったんだよ。町内会にも入れてもらえなかったり」
「“エロマンガ”って口に出していうのもちょっと気おくれするぐらい」
と語っていたそうです。
そうした時代背景を考えると、肩身の狭さを抱えながら表現されていた“エロ”という要素を、『魔性の香り』でももう少し前面に出してもよかったのではないかと思いました。