練習試合へ向かう途中だった私立北越高校(新潟市)の生徒1人が命を落とした磐越自動車道のマイクロバス事故は、高校側とバス会社側が責任を押し付け合う異様な展開となっています。事故の深刻さを考えれば、双方の対応には強い違和感を覚えます。

過失運転致死傷の疑いで逮捕された若山哲夫容疑者(68)を、蒲原鉄道(新潟県五泉市)へ「ドライバー」として紹介した人物を福島県警が特定し、事情聴取を進めていることも判明しました。若山容疑者については、事故後になって次々と問題行動が明らかになっており、紹介した側の責任も軽視できません。

● 事故前に免停とならなかった背景
若山容疑者は、事故前の1か月だけでも複数の自損事故を起こしていました。さらに、新潟県警が運転免許証の自主返納を2度促していたことも、5月15日に捜査関係者への取材で明らかになっています。

それにもかかわらず、免許停止処分に至らなかった背景には、現在の制度上の問題があります。若山容疑者が繰り返していた事故の多くは「物損事故」や「自損事故」であり、負傷者がいない場合は原則として違反点数が加算されません。そのため、ガードレールへの衝突や単独事故を繰り返しても、免停処分には直結しなかったのです。

実際、若山容疑者が事故車両を持ち込んでいた修理業者は、警察に対し「もう運転させないほうがいいのではないか」と相談していたといいます。しかし警察側は、「できる限りの対応はするが、強制的に止めることは難しい」と説明していたとされています。

重大事故につながる危険な兆候がありながら、制度上の限界によって十分な対応が取れなかった現実は、今後の課題として重く受け止める必要があります。

● 「早稲田に入れてやる」が勧誘文句だった
では、若山容疑者とはどのような人物だったのでしょうか。

関係者によると、若山容疑者は青森県出身で、早稲田大学文学部英文学科へ進学し、陸上部に所属していました。卒業後は体育教師となり、東京学館新潟高校で陸上部の指導を担当。その後は県内スポーツクラブ勤務を経て、系列資本が設立した開志国際高校でも陸上部指導者を務めていたといいます。

指導者として一定の評価を受ける一方で、その強引な言動を問題視する声も少なくありませんでした。

ある関係者は、「有望な中学生を勧誘する際、本来であれば学校を通じて礼儀を尽くすべきなのに、本人は突然自宅へ押しかけていた」と証言しています。そして、その際の決まり文句が「自分の指導を受ければ早稲田に入れてやる」だったといいます。

しかし、実際にはそうした保証ができる立場ではなく、約束が果たされずにトラブルへ発展したケースもあったとされています。

また、酒好きとしても知られ、新潟市の繁華街「古町」の高級クラブに頻繁に出入りする姿が目撃されていました。周囲からは「高校教員なのに、なぜあれほど派手に遊べたのか不思議だった」という声も上がっています。

私生活では離婚を経験し、家族との関係も良好ではなかったとされます。知人は「陸上指導と酒で孤独を紛らわせていたのではないか」と話しています。

晩年になると、心身の衰えを指摘する声も増えていきました。

若山容疑者は長年、「新潟ハーフマラソン」で棄権者を回収する最後尾バスの運転を担当していました。しかし、主催者側は普段の様子から安全な運転が難しいと判断し、2024年を最後に運転業務から外していたといいます。

さらに、2022年から胎内市の非正規職員としてイベント時にバス運転を担当していましたが、それも昨年春に退職していました。

無職となった後も運転を続け、時間の経過とともに事故の頻度は増加。そして5月6日、高校生20人を乗せたマイクロバスで福島県富岡町へ向かう途中、約2時間後にノーブレーキのまま道路脇へ突っ込む事故を起こしました。

● 浮かび上がる「白バス」運行疑惑
今回の事故では、運転手の問題だけでなく、バス手配の経緯にも疑問が浮上しています。

男子ソフトテニス部顧問の寺尾宏治氏から依頼を受け、実際にバスを手配したのは蒲原鉄道の営業担当・金子賢二氏でした。

北越高校側と寺尾顧問は、「依頼したのは通常の営業バスであり、レンタカーと外部運転手の手配ではない」と説明しています。

しかし一方で、蒲原鉄道が昨年度に男子ソフトテニス部へ送付した請求書には、「レンタカー代」「人件費」と明記されていたことが判明しました。この記載からは、営業許可を受けていない「白バス」運行を前提としていた可能性も疑われています。

寺尾顧問は、「請求書の内容を細かく確認せず、経理担当へ回していたため認識していなかった」と釈明していますが、生徒1人が亡くなっている重大事故である以上、責任回避とも受け取られかねない説明です。

事故後の対応を見る限り、高校側とバス会社側の主張には大きな食い違いがあります。どちらか一方、あるいは双方が事実を正確に説明していない可能性も否定できません。だからこそ、この事故では運転手個人の問題だけで終わらせるのではなく、バス運行の実態や責任の所在について、徹底的な検証が求められています。

 

参照:《白バス暴走事故》「オレの指導を受ければ早稲田に入れてやる」“元名監督”のバス運転手
   磐越道バス事故、運転手の免許証をなぜ取り上げなかったのか? 2か月で6、7回も事故