『ミイラ化した遺体が「紅茶を飲んだ!」』

まるでコメディ風のホラー映画のような話ですが、これは自己啓発セミナー団体「ライフスペース」が実際に公表した記録です。『デイリー新潮』も、当時の事件を振り返る記事で、この印象的なフレーズを見出しに使っていました。

「ライフスペース」は、1999年に教祖の高橋弘二(逮捕当時61)が殺人罪で起訴され、大きな注目を集めた団体です。

● ミイラ化した男性の遺体
「長期宿泊客の様子がおかしい」

通報を受けた捜査員が成田市内のホテルへ向かうと、客室で見つかったのはミイラ化した男性の遺体でした。
「死臭が強く、手足は煮干しのようだった。死後数か月は経っていたと思う」
成田署の捜査員は、そのように証言しています。

ところが、遺体のそばにいた女性は「私の夫です。まだ死んでいないので触らないでください」と訴えました。理由を尋ねても「脈があります」と繰り返すため、県警は深夜に医師を呼び、改めて死亡を確認しました。

ミイラ化した遺体を前にしても「生きている」と信じ込む妻の様子は、異様としか言いようがありません。カルト事件を追っていると、人はあるきっかけで非科学的なことまで信じるようになるのだと感じさせられます。

遺体で見つかったAさん(当時66歳)が成田市のホテルに運び込まれたのは、事件発覚の約4か月前でした。兵庫県川西市に住んでいたAさんは、同年6月に風呂場で倒れ、病院に搬送されました。脳内出血と診断され、そのまま入院していました。しかし妻と息子は、「グル(高橋弘二)の治療を受けさせたい」と考え、Aさんにつながれていた人工呼吸器や点滴を無理やり外し、成田市まで連れてきたのです。

高橋は、自らをインドの宗教家サイババの弟子と称し、病人の頭を叩いてエネルギーを注入する「シャクティパット」で病気を治せると吹聴していました。

Aさんの家族は、高橋弘二(当時61歳)とSPGF(シャクティパットグル・ファンデーション)が設立した自己啓発セミナー団体「ライフスペース」の会員でした。

ライフスペースは、ミイラ化事件が発覚したあとも、Aさんの死を認めませんでした。団体が公表した記録には、「11月2日には紅茶をおいしそうに飲めるほどまで回復した」と書かれており、ミイラ化したAさんが紅茶を飲んだと主張していました。息子も当時、「父は死んでいない」と訴えていました。

● 息子による『闘病ドキュメント』
警察がAさんの遺体を司法解剖しようとした際も、家族は「返してくれ。生きているのに解剖したら本当に死んでしまう」と抗議しました。

父親が生きていると信じ続けていた息子は、『闘病ドキュメント』という記録を残していました。そこにはAさんの様子だけでなく、高橋の言動も細かく書かれていました。ただ、この『闘病ドキュメント』は、息子の意図とは逆に、高橋がどれほど非科学的で根拠のない話をしていたかを示す資料にもなっていました。

『闘病ドキュメント』は全5冊あります。ライフスペースは、自分たちを批判した報道機関や評論家を相手に名誉毀損訴訟を起こしており、その相手にこの記録を送りつけていました。

事件発覚後の記者会見では、「5冊シリーズ100セットを100万円で直接販売します。みなさんは、それを200万円で売ってください」と、高橋側が『闘病ドキュメント』とミイラ写真をセットで売り込もうとしたとも伝えられています。あきれるほかありません。

● 高橋の不思議な言葉「定説」
団体は遺体発見後、何度も記者会見を開きました。成田市内のホテルを追い出されたあと、茨城県大洗町で開かれた会見では、高橋が「定説」という言葉を繰り返し使い、世間をさらに混乱させました。

高橋は「定説」について、次のように説明しています。

「日本国憲法前文と第二項に定説主義がある。定説主義とは戦争放棄の別名である。戦争放棄の憲法はフランスや英国や米国など先進7か国が持っているが、日本の第二項はただ翻訳しただけだ」

何を言いたいのか分からない説明ですが、高橋はAさんの死についても、「脳内出血の人は必ず3日以内に死ぬ。3日で死ぬのに、なぜ1週間も生きているのか」と話していました。

また、「いつから定説主義者になったのか」と聞かれると、「サイババに会ってすぐです。6000年です」と答え、自らを「サイババの後継者」と呼んでいました。

さらに、「サイババ本人は否定している」と指摘されると、「それはサイババの勝手なんですよ」と返し、会場の笑いを誘ったそうです。サイババ本人からすれば、勝手に名前を利用され、迷惑な話だったでしょう。

● 「司法解剖で死亡した」という主張
この事件では、高橋を含む11人が逮捕されました。共同生活を送り、学校にも通わせてもらえなかった子ども9人は児童相談所に保護されました。高橋には後に殺人罪で懲役7年の実刑判決が確定しています。

しかし信者たちは、「ミイラは生きており、警察の司法解剖によって死亡した」と主張し、冤罪を訴え続けました。「再審支援の会」を名乗って活動し、高橋が2009年に出所したあとも、ライフスペースを批判した弁護士に対して民事訴訟や懲戒請求を行っていました。

2015年12月に高橋が死去すると、「再審支援の会」の活動は止まり、ライフスペースも実質的な休眠状態になりました。

一方、高橋の妻・伸子は2017年に「一般社団法人NEOビジョンアカデミー」を設立し、信者とともにヨガ教室や瞑想セミナーを開くようになりました。

また、実質的なナンバー2だった釣部人裕(つりべ ひとひろ)は、2018年に「豊島区倫理法人会」の会長に就任しています。同会のウェブサイトには、伸子をはじめ複数の元ライフスペース関係者が会員として掲載され、伸子のヨガ教室も紹介されていました。釣部は会長退任後も、現在まで同会に所属しているとされています。

参照:ミイラ化した遺体が「紅茶を飲んだ!」…信者殺害の「ライフスペース」高橋弘二代表
   成田でミイラ事件を起こした「ライフスペース」の今…「定説」の教祖は死去