2008年、大阪の個室ビデオ店で発生し16人が死亡した火災事件で、放火や殺人などの罪により死刑が確定した小川和弘死刑囚の再審請求について、大阪地方裁判所は「確定判決の判断は揺るがない」として退けました。

● 『あの男が犯人や』と客の声
死亡した16人は非常口から遠い個室におり、狭い通路も影響して逃げ遅れ、ほとんどが一酸化炭素中毒で亡くなりました。当時の全国的な緊急点検では、個室ビデオ店の約64%が建築基準法に違反していたことが判明しています。

火災は2008年10月1日未明、大阪市浪速区の雑居ビル1階に入る個室ビデオ店「キャッツ」で発生しました。発生から約12時間後、放火と殺人の疑いで逮捕されたのは、店の客だった東大阪市在住の小川和弘(当時46歳)です。大阪府警担当記者は次のように説明します。

「白い肌着とトランクス姿で避難していた小川は、その場を離れようとしたところ、『あの男が犯人や』と客から聞いた店員に呼び止められました。追及されると『すいません。弁護士もつけますし、保証もします』と話していました。」

この客がどのような根拠で『あの男が犯人や』と指摘したのかは重要な点です。その後、小川は無罪を主張しており、当時の状況が注目されます。

「その後、現場に到着した警察官に『ごめんなさい。たばこを吸った』と話し、任意同行されました。事情聴取では『死にたかった。火をつけて怖くなり逃げた』と述べ、容疑を認めたため逮捕されました。逮捕後の取り調べでも、生きるのが嫌になり、持参したキャリーバッグ内の新聞紙や衣類にライターで火をつけたと供述しています」(同記者)

● 妻の家出と母の死
小川は高校卒業後、トラックの配達助手を経て大手電機メーカーに就職し、ライン工として働いていました。2001年、約20年勤めた会社を早期退職し、多額の退職金を受け取ります。

近隣住民は次のように話します。

「早期退職後、奥さんとの関係が悪化して離婚しました。原因はギャンブルにのめり込み、生活費を入れなくなったことだと聞いています。もともと奥さんと母親の仲も悪く、言い争う声をよく耳にしました。

奥さんが家を出て間もなく、母親が病気で亡くなりました。それ以降、小川さんの様子は明らかに変わりました。」

母親の死で数千万円の生命保険金が入りましたが、退職金とあわせてギャンブルや遊興費に使い、約2年で使い切りました。その後、自宅を売却し、東大阪市のワンルームマンションに移ります。

退職後はタクシー運転手などをしていましたが長続きせず、事件当時は無職で、2008年春から月12万円の生活保護を受給していました。さらに消費者金融からの借金も抱えていました。

事情聴取で犯行を認めた小川が、その後無罪を主張した理由が争点となります。

● 否認の遅れへの後悔
2008年10月17日の弁護士との接見で、小川は「火をつけていない」と否認しました。21日の聴取でも「たばこの失火だと思い認めてしまったが、火はつけていない」と供述しています。

2009年9月に大阪地裁で始まった裁判では、供述の任意性と出火元が小川のいた部屋かどうかが主な争点となりました。検察は18号室が出火元と主張し、弁護側は斜め前の9号室のほうが燃え方が激しく、こちらが火元だと反論しました。

現場写真では、18号室には燃え残りがあり、天井も大きく崩れていませんでした。一方、9号室は室内が黒く焼け、天井も落ちていました。

弁護側は再現実験などをもとに18号室が火元ではないと主張しましたが、認められませんでした。

フリーライターの小野一光氏は、2010年12月、控訴審開始直後に小川から手紙を受け取っています(抜粋)。

〈検事の取調べでは、放火でも失火でも死刑になるかのような言い方でした。私は捜査側に利用されたと感じました。やさしく接し、犯人に仕立てようとしていたのだと思います。

その時点で、質問に従って答えた調書が11通もできていました。もっと早く否認すべきだったと後悔しています〉

小川は自らの性格について「調子に乗りやすく、人にだまされやすい」と記しています。一方で気が弱く、すぐに謝ってしまうとも述べています。

● 別の部屋が火元と主張
小川は2019年11月、大阪地裁に再審を請求しました。第2次再審請求審では、弁護側がキャリーバッグの燃焼実験結果などを新証拠として提出しました。

実験ではバッグが短時間で燃え、下の床も焼けるなど、実際の現場状況と大きく異なる結果となりました。弁護側は専門家の見解も踏まえ、火元は別の部屋であり、確定判決は誤りだと主張しました。

しかし裁判所は再審を認めませんでした。

決定を受け、弁護団長の宮田桂子弁護士はNHKの取材に対し、「実験結果を十分に理解しているのか疑問が残る。現場写真からもキャリーバッグは燃え尽きておらず、小川さんの部屋が火元ではないのは明らかだ」と述べました。そのうえで、別の部屋が火元だと改めて主張し、大阪高等裁判所に即時抗告する方針を示しました。

参照:16人死亡「個室ビデオ店放火事件」被告から届いた手紙
   2008年の大阪個室ビデオ店放火殺人 地裁、再審開始認めず