
ひとつの太陽」 台湾 2019年製作 原題または英題:陽光普照 A Sun
チョン・モンホン監督の「ひとつの太陽」は、次男アーフーが事件を起こしたことをきっかけに家族の歪みがあらわになり、再生へ向かう姿を描いた、重厚な人間ドラマです。金馬奨で作品賞など5部門を受賞した作品です。
“家族の息苦しさ”という深刻なテーマを扱いながら、ユーモアも交え、家族が互いを想う不器用な愛を描いています。
優秀な兄に劣等感を抱きながら幼少期を過ごしたアーフーは、自分をいじめたオレンに仕返しをするため、雨の中、悪友ツァイトウと盗んだバイクで二人乗りをし、ナタを持ってレストランに押し入ります。そしてオレンの腕を切り落とすという悲惨な事件を起こします。二人はすぐに捕まり、裁判所で取り調べを受けます。
その際、上目づかいでアーフーをにらむツァイトウは、非常に凶暴な表情を見せます。その印象の通り、少年院を出たアーフーは、後に出所したツァイトウにつきまとわれ、追い詰められていきます。
まっとうに生きようとするアーフーが、執拗な悪友のつきまといからどのように解放されるのかが見どころです。もがいても平穏な日々が訪れないようにも見え、人生の不平等さを感じさせます。
アーフーの兄が語った「すべての人間に平等なのは太陽の光だけ」という言葉は、彼の生き方と重なり、強く心に響きます。負の連鎖からどう逃れるのかも、本作の大きな見どころです。
教習所に勤める父親は、教習生の前でスピーチを行います。
「先月、私は息子(長男)を葬儀で見送ったが、気を取り直して指導を続けなければならない。今を生き、自分の道を選ぶのが人生だ。つらい出来事はいずれ過ぎ去り、忘れられていく。人生は道のようなものだと思う。ハンドルを握り、赤信号で止まり、青信号でゆっくり発進すれば、着実に前へ進める……」
個人的な感情がにじむスピーチは長く続きそうになりますが、同僚に止められます。父親の人生観が伝わる、印象的な場面です。
終盤では、アーフーが盗んだ自転車で母親を乗せ、二人乗りをします。幼い頃にも母と同じように自転車に乗っていたことが重なります。母親は、流れる光を受ける木々の葉の美しさを感じ取ります。
長男の死と次男への不安から、母は家にこもりがちになっていました。その日々から解き放たれる可能性を感じさせるラストです。