小学館が運営する漫画アプリ「マンガワン」で連載していた漫画家が、児童ポルノ禁止法違反で罰金刑を受けたあと、ペンネームを変えて別の漫画の原作者として再び起用されていたことが明らかになりました。これについて小学館は、「女性の人権を軽視する行為だった」などとする声明を発表しています。
● 1100万円の賠償を命じる
この件は大きく報じられていますが、ぼくには当初、何がそこまで問題視されているのかが今ひとつ理解できませんでした。犯罪歴のある人がどこまで創作活動を続けられるのかという議論が行われているわけでもなく、小学館の対応のまずさだけが強調されている出来事のように見えたからです。
問題となっている漫画家は、「マンガワン」で『堕天作戦』を連載していた山本章一(本名・栗田和明)です。栗田は北海道の高校でデッサン講師も務めていました。では、栗田は女性にどのような行為をしていたのでしょうか。
北海道の私立高校に通っていた女子生徒Aさんは、高校在学中に元講師の栗田和明(山本章一)から繰り返し性的行為を強要されたとして訴えを起こしました。そして2月20日、裁判所は栗田に1100万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
なお栗田は2020年2月、児童ポルノ禁止法違反で罰金30万円の略式命令を受け、そのまま確定しています。
ネット上で大きな批判を招いたのは、性加害を把握していながら、栗田を別のペンネームで新連載の原作者として起用した編集者の対応です。栗田は「一路一(いちろ はじめ)」という別名義で、新連載『常人仮面』の原作者として「マンガワン」で活動していました。
札幌地裁の判決によると、編集者は栗田とAさんの和解協議のLINEグループにも参加していました。
そこでは「示談金150万円」「連載再開中止要求の撤回」「性加害について口外しないこと」などの条件が提示されたとされています。しかしAさんが受け入れなかったため、和解は成立しませんでした。
● 辛すぎて気が狂いそうになる
原告のAさんは2016年4月、北海道の私立高校に15歳で入学しました。漫画家としても活動していた栗田は、Aさんの授業を担当するデッサン講師として在籍していました。授業の合間に「漫画の話をしてあげるよ」「裏話もあるよ」などと声をかけ、LINEを交換したといいます。判決文によると、被告はAさんより30歳年上でした。
高校1年生のある日、課題に取り組んでいたAさんを栗田が車で自宅まで送ると言い、車に乗せました。しかし途中で別の方向へ向かい、人けのない場所で車を止め、体を触るなどのわいせつ行為に及んだとされています。
帰宅後、Aさんが「怖かったけれど、送ってくれてありがとうございました」とLINEを送ると、栗田は「怖がらせるつもりはなかった、ショックだ」と返信したといいます。
同じ年の冬ごろから被告は学校外でAさんと会うようになり、やがてホテルに連れ込んで性交する関係に至ったと原告側は主張しています。Aさんが「16歳なので入れません。先生と生徒なのでいけないことになります」と断ったにもかかわらず、栗田は聞き入れなかったとされています。
その後、月に1〜2回の頻度でホテルに行く関係が続き、行為の内容は次第にエスカレートしていったと訴状には書かれています。
排泄物を食べさせる、顔に塗りつけた状態で性交する、屋外で裸にして歩かせる、身体に「奴隷」「ペット」などと落書きして撮影するなど、複数のわいせつ行為が行われたといい、Aさんは陳述書で次のように述べました。
「行為の最中に五感を働かせていると、あまりにつらくて気が狂いそうになります。だからできるだけ何も感じないように、自分の意識を遠ざけました。そうしたことを繰り返すうちに、自分の心から自分を追い出す癖がつき、乖離(かいり)状態になるようになりました」
Aさんは栗田の行為によってPTSDを発症しました。
ここまで読むと、栗田(山本章一)の性加害行為がいかに深刻だったのかがよくわかります。そのうえで小学館の対応に関する報道を見ると、強い批判が起きた理由も理解できます。これほど大きな問題になっている以上、当事者本人の説明も求められるところでしょう。
● 社会全体で子どもを性被害から守る
同様の問題がさらに明らかになっています。『週刊少年ジャンプ』で2018年から2020年まで連載されていた『アクタージュ act-age』の原作者で、2020年に強制わいせつ罪で有罪判決を受けたマツキタツヤ氏も、「八ツ波樹(やつなみ みき)」という名義でマンガワンに連載を持っていたと小学館が公表しました。
これを受け、読者からはさらに強い批判が寄せられました。小学館の対応に抗議する意味を込めて、連載を取りやめる漫画家も相次いでいます。
3月9日には、女性側の代理人弁護士が被害女性の声明を公表しました。現在の報道の流れとはやや異なる、被害女性自身の意志が感じられる内容です。
漫画家山本氏が別名義で起用されていたことについて、女性は「確かにショックでした」と述べました。
その一方で、「前科がある人であっても、絵を描いたりストーリーを考えたりすること自体はしてもよいと思います。また、そのような人に発表の場を与えることも、一概に悪いとは考えていません」とコメントしています。
また性暴力については、「事実を認め、十分な対処をしたうえで、二度としないと約束してから次に進んでほしいと考えていました」としています。
さらに女性は声明のなかで、「これ以上、小学館への批判がインターネット上で炎上することは望んでいません」と述べました。そして「被害の実態を広く知ってもらい、このようなことが起きないよう、社会全体で子どもを性被害から守る仕組みをつくってほしい」と訴えました。
参照:マンガワン巡り被害女性が声明「心から望むこと」 小学館も対策公表
マンガワン問題で小学館は何をして、何を“しなかった”? 2度の声明文を経ても沈黙
“30歳年下”教え子の女子高生に「性的行為」強要…元デッサン講師の男に賠償命令
