元キックボクサーの佐藤蓮真(さとう・れんま)被告の裁判で、検察側は懲役25年を求刑しました。事件は宮城県の海岸で、交際していた女性が殺害され、遺体が遺棄されたというものです。

● 被告は元キックボクサー
起訴状によると、佐藤被告は去年4月、宮城県岩沼市の海岸で、山形市出身の保育士・行仕由佳さん(当時35)の胸をペティナイフで刺して殺害し、遺体を遺棄した罪などに問われています。さらに、行仕さんの財布が入ったショルダーバッグを持ち去り、盗んだとされています。

この事件で強く印象に残るのは、被告が元キックボクサーだったという点です。

また、佐藤被告が遺体を岩沼市の海岸に遺棄した主な理由は、「以前に訪れたことがあり土地勘があったため」と「犯行の発覚を避けるため」だったとされています。海岸にある波消しブロック(テトラポッド)の隙間に遺体を隠し、事件を発覚させないようにしようとしたとみられています。

しかし、海岸は周囲を遮るものが少なく、かえって発見されやすいのではないかと、当時ニュースを見ながら思いました。

キックボクシングといえば、最近はテレビで目にする機会がなくなりました。K-1など別の格闘技に転向して有名になった選手はいますが、「真空飛び膝蹴り」で知られ、キックボクシングを国民的スポーツに押し上げた沢村忠のようなスターは近年、出ていない印象です。

佐藤被告も、本来は格闘技の世界で優勝し、名を知られる存在になることを目指していたのかもしれません。しかし実際には、殺人事件の加害者として全国に名前が広まってしまいました。

● 金の貸し借り、そして妊娠
交際相手の行仕由佳さんは当時35歳で、被告より13歳年上でした。佐藤被告にとって、この交際は遊び半分で、場合によってはお金も出してもらおうと考えた関係だった可能性も指摘されています。

裁判では、2人の間に「金銭の貸し借り」と「妊娠」をめぐるトラブルがあったことが明らかになりました。

検察は、2人は交際関係にあったとしています。

2人はマッチングアプリで知り合い、おととし10月、佐藤被告から交際を申し込み、行仕さんが受け入れました。

しかし、その後まもなく佐藤被告がある相談を持ちかけます。
「車で事故を起こした。保険の更新をしていなくて…」

状況を心配する行仕さんに対し、佐藤被告は「ややこしいことになった」などと説明しました。事故相手の車の修理費を支払う必要があるが、保険に入っていないことにつけ込まれて請求額が高くなったと話し、金を貸してほしいと頼んだのです。

行仕さんは小学生の息子と2人で暮らしていました。それでも生活費の中から工面し、車の修理費などとして100万円以上を被告に貸しました。それは、被告を信じていたからでした。

「どんなことがあっても私は味方だから」
これは行仕さんが送っていたメッセージです。

● 赤ちゃんを2人で育てたい
行仕さんの信用が揺らぎ始めたのは、職場の後輩に交際相手の話をしたときでした。

後輩は「結婚したら佐藤になるんですね」と言いました。
しかし、その苗字は行仕さんが聞いていたものと違っていました。

佐藤被告は「蓮真(れんま)」という名前で活動するプロのキックボクサーでした。格闘技好きの後輩が動画サイトで試合を見た際、場内アナウンスで「佐藤蓮真」と本名が紹介されていたといいます。

行仕さんは被告にメッセージを送りました。

「私に偽名を使ってる?」
「後輩が動画で見たことがあるって言ってた」

被告は「何で疑っているのか言って」と返しました。

行仕さんは「私はシングルだと話したのに、遊びじゃないなら隠してほしくない」「お金も返してくれるんだよね」と訴えましたが、被告は「気分が悪いから寝る」と返信しました。

その後、行仕さんは体調の変化を感じ、産婦人科を受診しました。
検査の結果、妊娠していることがわかります。

赤ちゃんについて話そうと電話をかけても、被告は応答しません。やがて2人のやり取りは口論へと変わっていきました。

「なんだと思ってるんだよ、このこと」「一生遊んどけ」
我慢を続けた行仕さんが、遂に被告を責めるメッセージを送りました。

それでも行仕さんは、新しい命を守りたいと考えていました。
「お金は返さなくていいから、赤ちゃんを2人で育てたい。蓮真くんのことが好きだから、赤ちゃんを守ってほしい」

これに対し、佐藤被告は「ごめん、1人で考えたい」と答えました。

妊娠がわかってからおよそ1か月後の4月12日午後7時前、行仕さんは息子に「職場に忘れ物を取りに行く。すぐ戻る」と伝えて家を出ました。これが息子との最後の会話になりました。

● どうしてママを傷つけたの?
9日の裁判では遺族の意見陳述が行われました。
行仕さんの母親は「何をしていても娘を思い出して泣いています。由佳を返してください。死刑を望みます」と涙ながらに訴えました。

また、9歳の息子は手紙でこうつづりました。
「ずっと怖かった。帰ってくるのをずっと待っていた。ママを返してほしい。どうしてママを傷つけたの?会えたら抱っこしてほしい。大好きって伝えたい」

残された子どもの思いを考えると、胸が痛む内容です。

仙台地裁で開かれた裁判で、検察側は「被害者の好意につけ込み金を借りて利用したうえ、妊娠を告げられると煩わしく思い、殺害を計画した。刃物で何度も刺す犯行は極めて悪質」と主張し、懲役25年を求刑しました。

一方、弁護側は「被告は借金を返して関係を終わらせようとしていた。妊娠の事実を誰にも相談できず、被害者が出産を思いとどまれば殺害には至らなかった可能性がある」として、懲役20年が妥当だと主張しました。

判決は17日に言い渡される予定です。

 

参照:【裁判】「妊娠をジムに報告すると言われ決意」女性を殺害した元キックボクサー
   【初公判を“詳しく”】保育士殺人事件の動機は“妊娠めぐるトラブル”か 「煩わしい」
   「何度も突き刺す犯行態様は極めて悪質」検察側が懲役25年求刑