「パヴァーヌ」2026年製作 韓国 原題:파반느/Pavane
イ・ジョンピル監督による韓国映画『パヴァーヌ』は、孤独を抱えた三人の男女がデパートで出会い、少しずつ心を通わせていく姿を描いたヒューマンドラマです。予告編だけを見ると、イケメンの青年と冴えない女性が結ばれる夢のような物語を、軽やかに描いた作品だと思ってしまいがちです。
しかし本作は、「自分は他人にとって魅力のない存在だ」と思い込んでいる深い絶望から、どのように解き放たれていくのかを丁寧に描いています。
タイトルの「パヴァーヌ」は、十六世紀スペインに起源を持つ宮廷舞曲に由来します。孔雀のように威厳を保ちながら、静かに舞われる踊りです。
本作はパク・ミンギュの小説『亡き王女のためのパヴァーヌ』を原作としています。心を閉ざした男女の恋や関係が、そのゆったりとした旋律のように、一歩ずつ静かに紡がれていく物語です。
デパートで出会う三人のうちの一人が、地下倉庫で働くミジョン(コ・アソン)です。彼女は外見をからかわれた過去が心の傷になっています。仕事でも私生活でも「波風を立てない」ことを優先し、「恐竜」などと呼ばれても言い返さず、身を潜めるように暮らしています。
アルバイトとして入ってきた青年ギョンロク(ムン・サンミン)は、いわゆるイケメンです。最初は軽い気持ちでミジョンに声をかけますが、会話を重ねるうちに、彼女の言葉の端々ににじむ誠実さに惹かれていきます。
物語が進むにつれて、ミジョンの容姿は次第に気にならなくなります。むしろ魅力的に見えてきます。私自身も外見にとらわれがちですが、この作品を通して自分の中にある偏見を見つめ直すきっかけになりました。
一方、ギョンロクの先輩で駐車場に勤める友人は、二人を応援しながらも心配し、そばで見守る存在です。
ある日、二人は中華料理店でビールを飲みます。友人はフォークの先をギョンロクの頬に軽く当てながら、ミジョンに近づくことへの忠告をします。
「この鋭い先端がお前だ。安っぽい親切や同情、ヒューマニズムでむやみに刺すな。お前はイケメンだ。深い傷を負わせるぞ」
雨の日の帰り道、傘を持たないまま走り出すミジョンに、ギョンロクが傘を差し出します。傘はないのかと尋ねると、彼女は答えます。
「なくなりました。毎回買うのも嫌だし、慣れています」
「雨に濡れることに?」
「誰かに持っていかれることに」
「腹は立たないの?」
「雨と向き合うほうが、人と向き合うより簡単です。それに、あきらめるほうが楽なんです」
ギョンロクに好意を向けられ、ミジョンはうれしさを感じますが、それを受け入れてよいのか迷います。
ある日、ミジョン、ギョンロク、その友人たちを含む同じ職場のメンバー六人で食事をします。席上で一人の女性がギョンロクに尋ねます。
「好きな人がいるの? きれいな人?」
ギョンロクは答えます。
「飾らない人です。もっと知りたくなる人です」
そう言って隣のミジョンを見つめ、さらに続けます。
「ほかの人とはどこか違う。今まではただ“彼氏”を演じたかっただけかもしれません。その人の前では自然でいられる。無口な僕がよく話すし、大したことのない自分が少しましに思える。だから好きなんです」
彼が相手の名を告げようとした瞬間、友人がとっさにギョンロクにキスをし、場を遮ります。店内は騒然となり、悲鳴が上がります。
「まだ話すのか。僕たちは付き合っている」
友人はそう言って、ギョンロクの告白を止めます。この場面は機転とユーモアがあり、印象に残っています。
食事の後、ミジョンは怒ったように足早に立ち去ります。ギョンロクは「気にしなくていい」と追いかけますが、彼女は言います。
「あなたはいいでしょう。一時のアルバイトですから。でも私はここで働き続けるんです」
やがてミジョンは距離を置こうと姿を消します。その後での雪の降る中での再会、そしてバスでの別れが描かれます。
心を閉ざしていた三人が、互いにとっての光となり、人生と愛に向き合っていきます。映像や音楽にも繊細な感性が感じられ、私にとって忘れがたい一本になりました。
