「サユリ」 2024年製作 日本
夢のマイホームに引っ越してきた一家です。しかし、家族7人の幸せな時間は、どこからか聞こえてくる気味の悪い笑い声とともに、一人ずつ命が奪われていきます。
白石晃士(しらいし こうじ)監督の『サユリ』は、よくある話だと思って見始めました。途中で見るのをやめようかとも思いましたが、そのまま見続けていると、後半で怒涛の笑いに襲われました。
● ばあちゃんのアドバイス
引っ越してきた7人家族は、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”に呪われ、次々に殺害されていきます。最後に生き残ったのは、中学三年生の則雄と、認知症が進んでいる祖母・春枝です。
それまで認知症でよぼよぼしていた春枝ばあちゃんですが、二人きりになった途端、「復讐」のために覚醒します。
霊に脅され、ベッドの下に隠れていた則雄は驚きます。ばあちゃんがベッドを両手でつかんで放り投げ、むき出しになった則雄と対面します。
「夢じゃなかったか。すっかり目が覚めてしもうたばい!」
認知症の様子は消え、背筋を伸ばしてしゃんと立つ姿は、人一倍元気です。
そして悪霊に「命を濃くして立ち向かう」と則雄とともに宣言します。
「さっきのあれを、わしら二人で地獄送りにしてやるんじゃ。復讐じゃ!」
さらに、ばあちゃんは夜の銭湯帰りに則雄を導きます。
「則雄、笑え。あれに対抗できるのは生きる力、生命力じゃ。命なき邪悪な存在など、笑って蹴散らせ」
則雄はひきつった笑いを夜空に放ちます。
寝る前にばあちゃんは言います。
「明日から命を濃くするための特訓じゃ。何かあったら呼べ。ばあちゃんが助けてやる」
翌朝、「まずは食え!」と大量に食べさせ、太極拳を教えて鍛え始めます。
少女の霊“サユリ”が現れたときには、不思議な助言をします。
「笑えるやつがいい。霊に立ち向かうなら、思いっきり下品なことを言ってみろ!」
則雄は霊に向かって大声で叫びます。
「元気はつらつ、オマンコ満々!」
すると、ばあちゃんが「うっ」と、食べていた焼きそばにむせます。なんと、サユリの霊は徐々に消えていきます。則雄とばあちゃんは顔を見合わせて笑います。あまりにも奇妙な展開に、こちらも思わず声を出して笑いました。
● 押切蓮介「めちゃめちゃ文句を言った」
この映画を見たきっかけは、原作漫画『サユリ』の作者である押切蓮介(おしきり れんすけ)氏のインタビュー記事でした。原作者であり、出資者として制作に関わったという話に興味を持ったのです。
押切氏はこれまで『ミスミソウ』や『ハイスコアガール』など、多くの作品が実写化・アニメ化されています。その仕上がりにはおおむね満足しているそうです。しかし一つだけ「めちゃめちゃ文句を言った」と振り返る作品があります。それが『サユリ』です。
「映画における原作者は、実は一番仕事をしていないんです。ただ原作を提供しただけですし、そもそも映像化を前提に描いたわけではありません。だからこそ、映像作品づくりに貢献したいという気持ちが強かったんです」と語っていました。
押切氏が描いた『サユリ』は、「身勝手な悪霊をぶちのめす」というシンプルなエンターテインメントです。しかし映画版では、登場人物の背景に幼児虐待などの要素が加えられ、物語の軸が「悪霊」から「悪事を働く人間」へと移っているように感じられたといいます。
それでも映画は興行的に成功し、多くの観客に受け入れられました。さらに押切氏を戸惑わせたのは、「原作より良かった」という声が少なくなかったことです。
もしこのインタビュー記事を読んでいなければ、本作を見ることはなかったかもしれません。しかし、根岸季衣が演じる春枝ばあちゃんは、忘れられない存在となりました。この作品だけで終わらせるのは惜しいと思えるほど、強烈で笑撃的なキャラクターです。
参照:漫画の実写映画化で変化した考え方 原作者・押切蓮介氏が抱いた「面白さってなんだろう」

