2022年、埼玉県飯能市で近隣に住む家族3人をおので殺害したなどの罪に問われている男が、「知らないことです」と述べ、無罪を主張しました。

斎藤淳被告(43)は、2022年12月25日の朝、近くに住むウィリアム・ビショップさん(69)、妻の森田泉さん(68)、娘の森田・ソフィアナ・恵さん(32)の3人をおので襲って殺害し、住宅に放火しようとした罪などに問われています。恵さんは当時、帰省中でした。

● 調べでは一貫して「犯人ではない」
裁判員裁判の公判が2月19日、さいたま地裁で開かれました。被告人質問で斎藤被告は「犯人ではありません」と改めて無罪を主張し、事件当日の朝は自宅で寝ていたと述べました。自宅から被害者の血痕が付いた衣服が見つかったとする検察側の証拠については、「何者かが私を犯人に仕立てようとしている」と話しました。

ビショップ夫妻の次女の供述調書によると、家族は「どこの家族よりも仲が良い」関係だったといいます。毎年クリスマスは家族で過ごすのが恒例で、事件当日も4人が飯能市の自宅に集まる予定でした。姉は一足早く到着していました。

次女は2022年12月に結婚式を挙げており、父親と会ったのはその日が最後だったといいます。「父はいつも前向きで笑顔の人でした。母はがんでつらい状況でしたが、家族のために毎日頑張っていました。姉は誰からも愛される自慢の姉でした」と振り返りました。

関係者によると、捜査段階でも被告は一貫して「犯人ではない」「何も知らない」と容疑を否認していました。

現場周辺の防犯カメラに映った人物については、自分と「髪や目は似ている」が「全体的に違う」と否定しました。自宅から押収された手袋などに3人の血痕や自分の唾液が付着していた点についても、「なぜ家にあるのかわからない」と説明しました。

動機は依然としてはっきりしていません。被告と被害者の間にどのような接点があったのかが焦点となっています。検察側は、住宅に設置された防犯カメラの映像などをもとに、当日の行動を立証する方針です。

3人が襲われた直後、住宅から出てくる被告の姿が近隣住民に目撃されました。約60メートル離れた自宅からは複数のおのが見つかっています。おのや衣服からは、3人の血液と矛盾しない痕跡も検出されたとされています。

● ノートに「外国人を排斥する」
事件前の2022年1~2月、被告と被害者側の間に車をめぐるトラブルがあったといいます。被告は住宅の車を傷つけたとして器物損壊容疑で3回逮捕されましたが、いずれも不起訴でした。

被害者は、逮捕時に警察へ「容疑者を知らない」と話していました。この件について、被告の父親は次のように話しています。

「何があったのかは私にもわかりません。ただ、昨年、淳が車を傷つけたとして逮捕されたことは、被害者側の弁護士からの書面で知りました。示談を求める内容でしたが、具体的な金額は記されていませんでした。

書面には『今住んでいる家から出て行ってほしい』ともありました。私は淳に出て行くよう指示していません。書類が届いたことを伝え、弁護士を通じて本人に送っただけです。その後の経緯はわかりませんが、示談は成立していないと思います」

被告が事件前に使用していたノートには、「外国人を排斥する」といった記述もあったといいます。車のトラブルの背景に差別的な感情があったのかどうかも、明らかになっていません。

さらに、殺害や放火を図るほどの強い殺意をなぜ抱いたのかも不明です。「自分を犯人に仕立てようとしている」という主張が本心なのかどうかも、争点のひとつです。

3人を殺害したとされる被告は、近隣でもあまり知られていない、独り暮らしの無職の男性でした。

両親は離婚しており、以前は母親と姉と3人で暮らしていました。その後別々に生活するようになりましたが、被告の暴力が激しくなったことが影響しているとみられています。

母親や姉の供述によると、被告は2007年ごろから飯能市の住宅で1人暮らしを始め、母親から月9万~11万円の援助を受けていました。事件前の様子について、母親は「精神的に病んでいるとは思わなかった」、姉は「健康に過ごしているように見えた」と述べています。

近隣住民によると、被告は質素な生活を送り、周囲とあまり関わりを持っていなかったといいます。

「自宅の駐車場には黒いスポーツカーが止まっていますが、何年も動いているのを見たことがありません。それでも本人はバスでスーパーに行き、食材を持って帰る姿をよく見かけました。庭でニンジンを育てていたこともあります」

● 夢は映画業界で働くこと
被告は幼少期から映画が好きで、「将来は映画業界で働くのが夢だった」と父親は話します。大学卒業後に本格的に映画制作を始め、2005年には短編映画が国内の映画祭で上映されました。受賞歴もあったといいます。

知人のAさんは次のように語ります。

「15年ほど前、映画制作を通じて知り合いました。大阪芸術大学の出身で、映画祭の助成対象にも選ばれた監督でした。ただ、作品完成後の編集中に思い詰めた様子で、未完成のまま連絡が取れなくなりました。あの白い家を何度か訪ねたことがあります」

Aさんは「穏やかな印象だった」と振り返ります。

これらの情報だけを見ると、理由もなく近隣の家族に殺意を向ける人物には見えません。仕事がうまくいかず無職となり、家族とも離れて孤立した末の犯行だったのでしょうか。

弁護側は心神喪失を主張していますが、検察側は2023年2月以降に2度の鑑定留置を行い、刑事責任を問えると判断して起訴しました。公判でも、当時は責任能力があったと主張する見通しです。起訴後には、弁護側の要請を受けて地裁の職権で3度目の精神鑑定も実施されました。その結果を踏まえ、慎重な判断が求められます。

参照:母から月5万円の仕送り、庭で人参栽培、斎藤淳容疑者の節約“ぼっち”生活
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